毎年、ウォーレン・バフェットは彼の投資会社、バークシャー・ハサウェイのアニュアル・レポートの中で一年を振り返ります。それと同時に彼の投資哲学をちょっと披露するわけです。

今年のレター(原文はここで読めます)の中から、僕が面白いなと感じた部分(18頁)を抜き書きします:

You don’t need to be an expert in order to achieve satisfactory investment returns. But if you aren’t, you must recognize your limitations and follow a course certain to work reasonably well. Keep things simple and don’t swing for the fences. When promised quick profits, respond with a quick “no.”

Focus on the future productivities of the asset you are considering. If you don’t feel comfortable making a rough estimate of the asset’s future earnings, just forget it and move on.


これを訳すと、大体、下のようになります:

まずまずの投資成果を出すことは、別に専門家じゃなくてもできる。でもあなたが専門家じゃないのなら、まず己の限界をよくわきまえること。そして大体うまくゆくことが確実なやり方に従った方が良い。そのためにはシンプルなルールをあてはめ、またホームラン狙いをしてはいけない。直ぐに儲かるような儲け話を持ちかけられたら、ソッコーで「NO」と断る事。

あなたが投資を検討している株が将来、どのような生産性を持つかという点だけに考えを集中しなさい。その会社がおおまかに言ってどのくらいの将来の利益を出せるか、自信を持って見当をつけられないのなら、その投資対象は忘れて、他を当たれ。



英語の解釈の仕方に言及すれば、呑み込みにくい表現は ”to swing for the fences.” でしょう。ここでのスイングはバットを振る事、そしてフェンスは文字通り柵です。それも外野の柵を指します。外野の柵を狙って思い切りスイングする……それはつまり「ホームラン狙い」ということになります。

つぎにto move onというのは「他を当たる」という意味です。

英語がわかったところで、次に投資の際の含蓄の話に移れば、バフェットは「長期で持つなら、何を買っても良い」とは一言もいってません。

ここが投資を始めた人の多くが間違う点です。

バフェットは「別にあなたがプロである必要はない」と上の文章で確かに言ってます。でもそれより大事なのは、「専門家でない以上、自分の限界を悟れ!」と言っているのです。

それでは(自分の限界を悟る)って、具体的には何をやれば良いのでしょう?

それはつまり「堅い方法に限定して、投資対象を精選しろ!」ということなのです。

よく皆さんもご承知のように、バフェットはコカコーラとかハインツのケチャップに投資しています。ソーダ水やケチャップには、むずかしい理論や解釈は必要ないのです。



つまりバフェットくらいの名人でも、”Keep it simple!” ということを励行し、需要の先行きの判断や、新技術がどれだけ受け入れられるか? とか、その新技術は何年もユーザーから使われ続ける、スタミナを持っているのか? というような、難しい評価は、彼の場合、一切しないのです。(これはおれには読み切れない)と思えば、サッサと別の、もっととっつきやすい投資対象に移ってゆく……これがとてもバフェットらしい、極めて謙虚な投資態度なのです。

それから「あなたが投資を検討している株が将来、どのような生産性を持つかという点だけに考えを集中しなさい」というアドバイスは、僕流にくだけた表現に直せば、将来、ガンガンにキャッシュを稼げるような会社に投資しろとバフェットは主張しているのです。

つまり経費ばかり遣ってぜんぜん利益を生まない、ごくつぶしみたいな株を一生懸命抱いていても、じり貧になるだけで、そんな投資はちっとも開花しないというわけです。

最後にもう一度繰り返します。よく「バフェットは長期投資派だ」という一点のみに注目して、「長期投資すれば、大体儲かる」と勘違いしている投資家が多いですけど、バフェットは長期投資なら何でも良いとは一言もいってません。自分でも理解できるシンプルなビジネス、流行り廃りの無いビジネスの中から、潤沢なキャッシュフローを生む、健康体の銘柄を厳選し、その選びに選んだ一握りの投資対象だけを、長期でしっかり抱いているというわけです。