中国の理財商品を巡っていろいろな議論が飛び交っています。私はそれがリーマンショックのような世界同時不況の引き金になる確率は低いと考えています。

なぜならこんにちの世界はリーマンショック当時ほど活発にクロスボーダー、すなわち国家間をまたいだ融資をしていないし、欧米銀行の中国への直接の融資関係も少ないからです。

先ず中国経済が世界に占める割合を確認しておきます。中国は米国に次いで世界で二番目に大きい経済です。だからここがスローダウンすると、ある程度、世界にも影響を与えざるを得ないわけです。

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次は貿易比率の確認です。これは輸出額と輸入額を合計し、それをGDPで割った数字です。

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さて、外国銀行は中国にどれだけお金を貸しているのでしょうか? 下のグラフを見ると、外国銀行の中国企業への直接の貸付残高はあまり多くないことがわかります。


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単位は10億ドルです。たとえば米銀は857億ドル中国に貸し付けていますが、これは後でみるクロスボーダーの融資額全体からみれば、ほとんど問題にならないような小さな金額です。


そのクロスボーダーの融資額ですが、ここでは単位が1兆ドルになっていることに注意してください。

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リーマンショック以前は世界の銀行や企業間での貸借は活発だったのですが、リーマンショック以降は不活発になっており、むしろマイナスになっています。


先のグラフは通貨別での残高を示していたのですが次のグラフはカウンターパーティー、すなわち融資先の所在地別のグラフです。金融機関だけを対象としています。

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同じく融資先の企業の所在地で示したグラフです。


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これも融資の異常な拡大は示していません。このようにクロスボーダーの融資は、極めて低調な状況が、ずっと続いているのです。


次に直接金融を見ます。下のグラフでは世界の投資家が新興国の債券(青)や株式(オレンジ色)をどれだけ買ったり売ったりしているかを示しています。

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このところずっと売り越しです。


比較のため、先進国のポートフォリオ・フローを見ることにします。米国、ユーロ圏、日本ともにこのところ株式ポートフォリオ・フローはプラスになっています。

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次に債券ポートフォリオ・フローです。アメリカはマイナスになっています。これは量的緩和政策が終ることを見越して投資家が債券からお金を引き上げ始めているためです。

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新興国のソブリン債の利回りから米国財務省証券利回りを引き算した、エマージング・ソブリン・スプレッドです。これは新興国の政府が借金するとき、先進国の政府と比べてどれだけ高い金利をはらわないといけないかを示しています。

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次は新興国の社債が新興国のソブリン債とどのくらいかい離しているかを示すグラフです。これは新興国の企業に対する投資家の不安のバロメーターと言えます。グラフが上に行くほど投資家の不安が高いことを示しています。今は比較的高いです。

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下のグラフは新興国18か国のマネーマーケット、つまり短期金利を単純平均した合成利回りです。これが上昇していると短期金利が上がっており、信用が緊縮していると理解できます。

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ここまで見てきたことをまとめると、クロスボーダーの信用のやりとりは不活発であり、先進国の投資家は新興国の投資機会に嫌気がさしています。

利害が無い分だけ、新興国でなにか突発的なことがおきても、先進国の投資家はあわてる必要はないのです。これはパンパンに投資していた、リーマンショック当時の世界の投資家の状況とは大きく異なります。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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