東ウクライナの各地で親ロシア勢力が庁舎や警察施設を占拠しています。ウクライナがこれらの過激派を排除するために軍隊を派遣したことは以前説明しました。

ウクライナ軍と親ロシア過激派の間での小競り合いで、親ロシア過激派側に死者が出ています。

これを受けてロシアはすでにウクライナ内に配置しているロシア軍を動員し、ロシア軍とウクライナ軍はわずか1キロの距離を置いてにらみあっている状態だそうです。

事態がエスカレートしてしまうのではないか? という懸念から、世界の株式市場は軟調に推移しています。

また米国の格付け機関、スタンダード&プアーズはロシアの長期ソブリン格付けを投資不適格(ジャンク)のひとつ手前までダウングレードしました。

Market Hackではこれまで経済の面からロシアにとってもEUにとっても、対立をエスカレートすることのメリットは少ないということを説明してきました

そこで今回は軍事的な面からピボット・ポイントを説明しておきたいと思います。

まず衝突が拡大した際、ウクライナ軍の側に立ち、ウクライナならびにEUを守るのは、取り決め上、NATO軍ということになります。

北大西洋条約機構(NATO)は第二次世界大戦後、欧州の軍隊の兵力をひとつに集め、冷戦状況にあったソ連に対抗するために設けられました。

地政学サイト、ストラトフォアによると、当初のNATO軍は鉄のカーテンを挟んで十数万の兵力が100以上の駐屯地でソ連軍を待ち構える、常備軍の体裁を取っていたそうです。

しかし1989年にベルリンの壁が崩壊し、その二年後にソ連が瓦解したことで欧州各国の「共通の敵」が居なくなりました。


これは欧州各国にとり、存亡の危機が去ると同時にNATOの戦略的目標を喪失したことを意味します。

欧州の防衛関連費はだんだん減額され、NATOはそれまでの、巨大で常設の抑止力から、有事の際だけ急派される柔軟な共同防衛プロトコルへとダウングレードされました。そこではいろいろな国々が輪番で役務に参加出来るシステムになっています。つまり各国軍の間でのインターオペラビリティが確保されているわけです。

一方、旧ソ連の衛星国の多くがNATOに参加したことで、メンバー国の数は28に拡大されました。

NATO加盟国数が急増したことは、有事の際にNATO軍が動きにくくなることを意味しました。なぜならNATO軍はメンバー国が全員一致した場合しか兵隊を動かせないからです。

いまやエストニア、ラトビアなどサンクトペテルブルグの目と鼻の先までNATO勢力圏が迫っているということはロシアにとっては脅威です。裏返せばそれらのロシアに近い国ほどロシアの脅威を感じているともいえます。

しかしNATO軍の装備の大半はドイツをはじめとする中核国に存在します。つまり前線から遠いところにあるわけです。

それはロシアに察知されずに前線に装備を送ることが困難であることを意味します。

NATO加盟各国が(ロシアからの脅威は大きい)と感じれば、全員一致で行動を起こしやすいです。

しかし(ロシアからの脅威は、それほどでもない)と感じれば、NATO内での意見統一をとることは困難です。

したがってロシアはこの「閾値(いきち)」のすぐ下の範囲内で行動すると考えるのが自然だと思います。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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