先日、『バリュー投資の進め方』というテーマで楽天証券のネットセミナーで話しました。
その動画はココから視聴できます。

以下はその要約です。

バリュー投資はコロンビア大学で教えていたベンジャミン・グラハムとデビッド・ドッドが打ち立てた投資手法です。彼らは1934年に『証券分析』という本を出します。



バリュー投資を成立させるためには、次の三つの要素が備わっていなければいけません;

内在的価値
安全の糊代
時間


内在的価値とは、平たい言い方になおせば「価値ある企業とは、一体、どんな企業か?」という問いに他なりません。

いま成長株投資ではフェイスブックなどの成長株がそうであるように月次ユニーク・ユーザー数など、非伝統的な尺度が企業価値を証明する決め手になる場合があります。つまり価値の尺度は見る人によっていろいろあるわけです。

しかしバリュー投資の世界で「価値ある企業とは、一体、どんな会社か?」と聞かれれば、それはガンガン稼げる会社ということに帰着します。つまり収益力です。これを英語ではEarning Powerといいます。

ベンジャミン・グラハムとデビッド・ドッドは『証券分析』の中で収益力を次のように定義しています。それは過去10年間の一株当たり利益、つまりEPSを全部足しあげたものです。具体例として農機具メーカー、J.I.ケースの例が挙げられています。

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『証券分析』が出版されたのは1934年なので1929年の大暴落から5年後です。その関係で、具体例として挙げられたJ.I.ケースのEPSも1923年から1932年の10年間が使用されています。

J.I.ケースの1923年から1932年のEPSを全部足しあげると94.6ドルになります。つまりこの会社のアーニング・パワーは94.6ドルなのです。いま、これを10年間なので10で割り算すると単年度のアーニング・パワーは9.46ドルということになります。

極端に単純化した議論をすれば、株価はアーニング・パワーまで買われてよいという仮説を立てることができます。するとJ.I.ケースのアーニング・パワーは94.6ドルなので、目標株価は94.6ドルということになるのです。

因みにこの本が出版された時点でのJ.I.ケースの株価はちょうど30ドルでした。当時、J.I.ケースは無配に転落していました。一株当たり利益は1932年の数字で-17.4ドルでした。

いま目標株価が94.6ドルの株が30ドルで取引されていると聞くと、3倍以上のターゲット価格になります。そういうと割安に感じるけれど、実際のところどうだったかといえば1929年の大暴落の後で株式市場の人気は離散していたし、不況で町には失業者が溢れていて、農産物の価格も下落して農家はとても苦しみました。ダストボウルと呼ばれる転がり草が荒廃した農地に転がるばかりで、農機具を買うような余裕は誰も無かったのです。

いまJ.I.ケースのアーニング・パワーを10で割ってEPSにすると9.46です。すると株価30ドル割ることの9.46だとアーニング・パワーEPSに対する株価収益率(PER)は、僅か3.17倍ということになります。

過去の例ではなく最近の事例を見ます。下に掲げたのは建設機械のキャタピラー、コカコーラ、化学会社のダウケミカルの三社の1998年から2007年にかけてのアーニング・パワーのグラフです。

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するとキャタピラーの場合、アーニング・パワーは26.31ドルになります。コカコーラの場合、アーニング・パワーは9.31ドルになります。ダウケミカルの場合、アーニング・パワーは23.66ドルになります。

なお、アーニング・パワーは、どの10年間を見るかによって変わってきます。

先ほどは1998年から2007年にかけての10年間を見ましたが、今度は2004年から2013年までの10年間を見ることにします。

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この期間はリーマンショックを含んでいます。キャタピラーやダウケミカルのような景気に左右されやすい企業のEPSは不況の際に急落していることに気を付けてください。

キャタピラーのアーニング・パワーは51.74ドルになっています。すると先ほど見た98年から2007年の期間でのアーニング・パワーが26.31ドルだったことから、いかに大きな違いが出るかわかると思います。

コカコーラのアーニング・パワーは15.3ドルになります。これも先ほどの9.31ドルよりかなり増えています。

しかしダウケミカルの場合、アーニング・パワーは26.4ドルで、先ほどの23.66ドルとあまり変わってないことがわかります。

このようにアーニング・パワーはどの期間で測るかによっても変わってくるし、景気のサイクルのどこで測るかによっても変わるわけです。


『証券分析』の本の中ではアーニング・パワーは精密に何¢まで計算する必要は無く、大体のところがわかれば、それで充分だと書かれています

こまかいところまで決める必要が無い理由は、アーニング・パワーと同じくらい大事な概念で安全の糊代(Margin of Safety)という考え方をする必要があるからです。

安全の糊代という概念はわかりにくいかと思いますので、たとえ話で説明します。

いま高速道路を走っている場合は法制速度ぎりぎりまで飛ばしてもさほど危険ではありませんが雪が降っている場合やいろは坂のような曲がりくねった道路の場合、防衛運転をするために速度を落とします。

安全の糊代を確保するひとつのやり方は、割高すぎる株に手を出さないということです。言い換えれば、いかに安く買うかということが将来のヤラレを少なくする一種の保険になるというわけです。

もうひとつの安全の糊代は、自分の資金力いっぱいまで欲張って買わないということだと思います。

バリュー投資で大事になる三番目の要因が時間です。

アマゾンのジェフ・ベゾスとウォーレン・バフェットは交友関係があります。ある日、ジェフ・ベゾスがバフェットに「あなたの投資スタイルは一見するとシンプルに見える。なぜ模倣者が沢山でないのか?」と聞きました。それに対してバフェットが答えたのは「誰もがなるべく早くリッチになりたいと考える。この世にゆっくりリッチになりたいと願う人は少ない。バリュー投資はゆっくりやって初めて成果が出る投資法だ」と答えました。

時間の問題は、バリュー投資をすすめるうえで、あらゆる局面で直面します。たとえば最近IPOされたフェイスブックは、バフェット流にいえばバリュー投資の対象にはなりません。仮にいまのフェイスブックの株価が10分の1まで下がったとしても、やっぱりバリュー投資の投資対象としては不適格です。なぜなら上場してからの歴史が浅いからです。


時間の問題は、投資した後で、いつそれを刈り取るか? という投資期間の問題にもかかわってきます。いやしくもバリュー投資というからには最低でも5年くらいは投資し続ける覚悟を持たないといけないのです。

バリュー投資でしばしば問題になるのは、何が割安か? という定義です。これに関してはひとつの、絶対の真理はありません。そのことは『証券分析』の中でもベンジャミン・グラハムとデビッド・ドッドがハッキリそう言っています。

しかし大体の目安を議論することは有益だと思います。例えば現在のアメリカの株価収益率は17倍です。

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するとこの平均値より余りかけ離れてPERが高い株は避けた方が良いと言えるでしょう。

例えばウォーレン・バフェットの投資会社、バークシャー・ハサウェイのポートフォリオに入っている上場企業のうち、代表的な銘柄の株価収益率はこのグラフのようになっています。単純に平均すると16倍です。

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すると今、米国の平均PERが17倍、バフェットのポートフォリオが約16倍なので、両方とも似通ったPERだということがわかります。言い換えれば、無理してPERで一桁台などの、見かけ上、思いっきり安い銘柄だけを探す必要は全然ないのです。

これはバリュー投資を始めたばかりの人が犯しやすい間違いですが、今、仮にPERが10倍の銘柄とPERが15倍の銘柄があったとして、自動的に安い方、つまりPERが10倍の銘柄の方を選択しないでください。

同様に、いま配当利回りが3.5%の株と、配当利回りが7%の株があったとします。この場合、自動的に7%の方が良い投資対象だと思い込まないでください。PERが安い、あるいは配当利回りが高いということは、そもそも株価が売り叩かれているからそうなるわけで、先ず売られている理由について考えてみることをせずに自動的に割安な方を選ぶのは、ナンセンスなのです。

それでは実際にどのような銘柄がバリュー投資に向いているのでしょうか? ここでは私がバリュー投資に適切だと考える7銘柄を紹介します。

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どういう基準で選んだか? ということですが、まず昔からある、わかりやすいビジネスであることを重視しました。

またワイド・モート、つまり幅広い城池と呼ばれる、防御に優れた銘柄を中心に選んでいます。

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これらの全ての条件をここに挙げた銘柄が満たしているわけではありませんが、すくなくとも二つないし三つは満たしています。次に重要になるのは財務力と収益の安定性です。

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各銘柄のPERと利回りも書いておきました。ここでとくに注意してほしいことは、PERでみると必ずしもこれらの銘柄は一番安い銘柄ではないという点です。

既に述べましたが米国の平均PERが17倍ですから、平均より高い銘柄も含まれているわけです。PERが平均より高いからといって、自動的にそれを除外してしまうのはナンセンスな足切りの方法だと思います。

また利回りも7%とか8%というような、極端に高い銘柄はありません。そんな高利回りの銘柄は、何かおかしいことがあると疑ってかかった方が良いのです。2%から3%程度がスイートスポットだと思ってください。

各銘柄の収益力と株価を示します。

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バクスター・インターナショナルはCFPSをSPSで割り算した営業キャッシュフロー・マージンが21%あります。これはとても健全な数字です。

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エクソンモービルは大きな増配余地を残しています。営業キャッシュフロー・マージンは11%です。

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ゼネラル・ミルズは営業キャッシュフロー・マージンが16.4%あります。これは立派な数字です。

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マクドナルドの営業キャッシュフロー・マージンは25%です。

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プロクター&ギャンブルの営業キャッシュフロー・マージンは18%です。

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ユニオン・パシフィックの営業キャッシュフロー・マージンは31%です。

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ベライゾンの営業キャッシュフロー・マージンは32%です。

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(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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