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けさ原油価格に動意が見られています。米国の指標銘柄であるウエスト・テキサス・インターメディエーツ(WTI)は$106.3+1.82%で推移しています。3月以降の上値抵抗線を上に切ったカタチです。次の上値抵抗線は$110にあります。

今回、イラク北部のモスールの町を制圧した寄せ集めの愚連隊(ragtag army)は、自分たちのことをISIL(Islamic State in Iraq and the Levant)と呼んでいます。(なおウォールストリート・ジャーナルは同じグループをISISと表示しています)

彼らはイラク北部とシリア東部を跨る広大な地域に自治国家を打ち立てることを目指していると言われます。中心になっているのは、お隣のシリアで内戦が勃発したとき、助っ人として馳せ参じた、義勇軍を名乗る荒くれ者たちです。

彼らは人数にして2000人程度しかおらず、装備も軽装です。しかしシリアはここ数年、世界の紛争地域でも最も凄惨なバトルが繰り広げてこられた地域であり、これらの荒くれ者たちはゲリラ的な戦い方では世界で最も経験ある連中だと言っても過言ではありません。

その愚連隊が、火曜日にイラク北部の町、モスールを制圧しました。モスールの町は1万人のイラク正規軍によって護られていましたが、気迫の面で圧倒的に勝るISILの前に、正規軍はあえなく壊走しました。

ただ、この背後には、もっとずっと深い事情があると思います。なぜならモスールは人口200万人弱のイラク第二の大都会であり、イメージで言えば福岡市とか名古屋市くらいのスケールがあります。市民の協力なくして僅か2000人のならず者が制圧できるような処では無いのです。

一方、モスールに配備されていたイラク正規軍は、宗派や人種の面で異なる「よそ者」です。だから市民はむしろISILの方にシンパシーを感じていたに違いありません。

ISILはモスールを制圧した勢いで重要な石油施設のあるキルクークもおさえました。(未確認)

たぶん、彼らが「地の利」を発揮でき、しかも彼らにとって思い入れのある地域はこのへんまでなので、ISILが首都バクダッドに攻撃をかけたり、さらに南部油田地帯まで攻撃を加えるとは考えにくいです。ただイラクはその歴史的経緯(=イギリスなどの主導で、国境線が決まった)からして国民的一体感を出しにくい寄木細工です。シリアほど複雑ではないけれど、シリアが経験したのと同じような国家のメルトダウンを招くリスクは、イラクの場合、常にあります。

現在のイラクの原油生産は311万バレル/日で、世界で3.7%のシェアを誇っています。従って、世界の原油の需給に影響を与える可能性のある規模だと言えます。実はイラク戦争以降、同国の石油産業は急速に復旧し、現在の生産水準は過去最高に限りなく近い水準です。

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ところで市場関係者は原油の需給関係に関してコンプレーセント(ぼんやり)だと思います。下は世界の原油生産と需要のグラフです。

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世界の原油生産がこれほど長期的に需要を下回ったことは、過去にありません。

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アメリカでシェールオイルが生産され始めたので、アメリカ国内では石油が余り気味です。でもそれは米国の法律で「原油を輸出してはいけない」と定められているからです。

先入観として「石油がじゃぶじゃぶ余っている」とアメリカの市場参加者が考える背景には、そういう事情があります。

でも実際のところ世界全体でみたらマーケットはタイトです。


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