最近、「反転授業」が話題になっているので、僕の家族の経験を紹介します。

【反転授業とは】
「反転授業」とは、これまでの「学校で先生の講義を聞き、家で宿題をやる」という授業のスタイルを逆転させ、「予め先生が録画した授業の動画を生徒が家で視聴し、学校では練習問題を解き、間違った箇所の個人指導を受ける」やり方を指します。

【そもそも反転授業が必要になった事情】
アメリカの高校にはホームルームはありません。ちょうど日本の大学のスタイルと同じで、生徒が自分の受講する授業から授業へと部屋を移動してゆきます。だからアメリカの学園モノの映画を見ると、終業のベルが鳴るとドッと生徒が教室から廊下に出て、芋の子を洗うような混雑をすり抜け、次のクラスへ向かうという光景が見られるわけです。

このように、生徒が授業を選ぶ方式にする理由は「全員が同じペースで学習してゆく」という価値観が、アメリカでは希薄だからです。

アメリカの高校にはAPクラスというものが存在します。APとはAdvanced Placementの略で、大学の一般教養レベルの授業を高校で履修できることを指します。つまり優秀な生徒なら、高校の授業のレベルが低く、退屈してしまう前に、どんどん先に進んでも良いという考え方からきているのです。

APコースを履修し、APテストという修了認定試験に合格すれば、90%以上の大学がその一般教養科目の単位を「取得済み」として認めてくれます。

またAPコースは普通の通信簿の評定より高い評価が得られるので、GPA(Grade Point Average)の得点をかさ上げ出来ます。日本の「優・良・可」とか5段階評価に相当するものでA~Fのグレードがあります。

A=4
B=3
C=2
D=1
F=0

高校4年間の通信簿の点数を全部合計し、平均点を出したものがGPAになるわけです。すると、日本で言う「オール5」は、アメリカのGPAでは4.0になります。

しかし、一例としてカリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)の2013年の入学者の平均GPAは4.29でした。するとみんな「満点以上のスコア」を取っていることになるわけです。


これはどうしてかといえばAPコースは難易度が高いので、A=4が満点ではなく、A=5点を授ける特例があるからです。

すると難易度の高い大学へ進学しようと思うと、普通のクラスを受講するだけでは駄目で、APクラスを取らないとGPAで競争できなくなることを意味します。

ただアメリカの高校生の全てが大学レベルのAPクラスを履修したいと考えているわけではもちろんありません。APクラスを進んで履修するのは、ごく一握りの生徒になります。

すると……ごく一握りの生徒のために、特別に難しい授業をわざわざ学校側が設けるほど、高校の予算には余裕があるのか? という問題が生じるわけです。

そこで多くの高校の場合、高校3年生と高校4年生をひとつの教室で、同じコマの中で教えるとか、教室のひとつの隅では普通の数学を、もうひとつの隅ではAP数学を教えるなどの、授業の「相乗り」をせざるを得なくなるわけです。

もちろん、ひとりの先生が二つの、レベルの違う講義を同じコマの中で行うことはできません。

そこで数学の先生は、普通の数学を受講する生徒には普通の数学の動画を視聴するように指示し、AP数学の生徒にはAP数学の動画を視聴するように宿題を出すわけです。

家で動画を視聴した生徒は学校では練習問題を解けるかどうか試され、間違ったらその場で個々に指導を受けるわけです。

これだと先生は一コマの時間全部を個別指導に使えます。

【反転授業に対する生徒の反応】
下の息子に「家で授業の動画を視るのって、面倒くさくない?」とそれとなく訊いたら「このやり方の方が、遙かに無駄がない!」と反転授業を熱烈に支持しました。

「ビデオゲームをやるのと同じノリで先生の授業をYouTubeで見る……シームレスに遊びから勉強に切り替えられるところが便利だ」とか、わけのわからないことをホザいて、親を不安に陥れるわけです。

でもAPクラスが「クラウドにUPされる」と、それは高校生たちにとってはゲーム感覚を帯び「早く次のレベルへ……」という、ゲーマーちっくな動機付けが働き、仲間同士でどんどんバトルがエスカレートするわけです。

子供のころからX-boxやYouTubeで育った世代にとっては、むしろこちらの方が自然ということなのかもしれません。

【反転授業の問題点】
なお「反転授業」はモチベーションのある生徒にしか使えません。なぜなら理解の土台になる、授業部分の視聴を生徒の自主性に任せてしまうので、怠けて動画を視聴しない生徒が続出するからです。

やる気のある生徒はどんどん動画を視聴して先へ行けるし、駄目な生徒は、そもそも動画の授業すら視聴していないので、練習問題も解けなければ、先生からは「まず動画を見なさい」と一蹴されてオシマイ。

このように「反転授業」は生徒間の学力格差をワープスピードで加速させる、残酷なツールなのです。