過激派ISILがすぐ近くまで迫っているイラク北部のクルド人自治区は、トルコに通じる北部パイプラインを経由して原油の単独輸出を試みてきました。

この抜け駆けにはイラク政府から「待った!」がかけられ、クルド人自治区の出荷した原油を積んだタンカーは地中海をあてもなく漂流していたのですが、このたび、イスラエルがそれを購入したことが判明しました。

イラク政府は「あの原油はイラクの国のもので、勝手に輸出できない。それを知っていて購入したものは、訴える」と警告していました。またアメリカ政府もクルド人自治区による単独での原油販売は、イラクという国がバラバラになることを加速するという心配から、この原油を買わないよう呼びかけてきました。

今回、クルド人自治区が出荷した原油は先ずパイプラインでトルコのセイハンに運ばれました。そこでタンカー、ユナイテッド・エンブレム号に積まれます。ユナイテッド・エンブレム号はマルタ付近でSCFアルタイ号と合流、積荷をこの船に移し替えることで出所不明にするという手の込んだオペレーションをしたわけです。

今回のイラク危機でシリアから過激派ISILがイラクに流れ込み、北部の町、モスールを占拠した際、そこから一番近い石油の町、キルクークを守っていたイラク政府軍は、慌てて自分のポジションを棄て、逃走しました。クルド自治区のクルド兵は、その力の真空に乗じてキルクークの守りを固めました。

キルクーク市長ナジマルディン・カリム博士は、アメリカ国籍を持つキルクークの出身者で、ジョージワシントン大学で学んだ後、神経外科医となり、ロナルド・レーガン大統領の暗殺が試みられた際、負傷したジェームズ・ブレディを手当てした経験があります。

カリム博士は、イラクがクルド人自治区と、スンニ派の地域と、シーア派のイラクという三つの連邦に分かれ、地方政府に大きな権限を与え、連邦政府の権限を厳しく制限するという連邦国家を作ることが望ましいと主張しています。

なおクルド人自治区がクルド国家として完全独立するというシナリオは、トルコにとって脅威となります。なぜならイラクよりもトルコ領内に沢山のクルド人が住んでいるからです。従ってイラクでのクルド国家建設は、トルコ領内でも離反の動きを加速させるリスクがあります。

今回、クルド人自治区が輸出した原油は、トルコがパイプラインの使用を許すことで初めて可能になったことなので、若しトルコが手のひらを返せば、クルド人自治区の経済的独立の夢は立ち消えになります。