バークレイズがニューヨーク検事総長事務局(NYAG)から召喚された事件で、ダークプールという概念が注目を集めています。

そこでダークプールとは何か? を説明します。

その前に断わっておくと、ダークプールは善でも、悪でもありません

ダークプールとは略された呼称で、正式にはdark pool of liquidity と呼ばれます。これは「見えない流動性」とでも訳せば良いでしょう。

それでは「見えない流動性」は何を指すか? といえば、これは単純に大口注文のことです

例えば第一生命が「IBM株を1万株、その日の出来高加重平均価格(VWAP)で買ってください」という注文をメリルリンチに出したとします。この注文の存在そのものが「見えない流動性」であり、それはダークプールに他ならないのです。

IBMを売りたいと考えている投資家にしてみれば、チョロチョロIBM株の売り注文を場に出すと、なぜか喰いついてくるのはいつもメリルリンチという現象が起こります。それもそのはず、メリルは第一生命からの注文を預かっていて、それを執行しなければいけないから、自ずと頻繁に買い手口が残るわけです。

この売り注文と買い注文が折り合うことを「出会い」と言い、出会いが苦も無く、頻繁に成立する株は、流動性のある株ということになるわけです。

しかし(あれっ? 買いの手は、いつもメリルだな……)という風に手の内がバレてしまうと、メリルとしては顧客に有利な値段でIBMを買うことが難しくなってしまうのです。

ニューヨーク証券取引所の立会場にそのような注文をつなぐと、まるでズボンを下ろしたような無防備な状態で、衆目監視の中、注文を執行することを強いられます。

そこでなるべく顧客からの注文を預かっている事実を公衆に悟られないようにするために、もっと隠密な方法で注文を執行する必要が出るわけです。

サードマーケット(第三の市場)と呼ばれる、ニューヨーク証券取引所以外の電子市場をプロの投資家や証券会社が使いたがるのは、そのような理由によります。これは違法ではありません。


この電子市場を含めた複数の市場で、「ミリ秒」という目にもとまらぬ速さの高速取引(HFT)を駆使しながら手口を散らして注文を執行することが最近では一般的になっているのです。

つまりダークプールもそれ自体はぜんぜん違法ではないし、HFTもそれ自体はなんら悪ではありません

問題はそれをどう運用するか? です。

電子市場には独立の会社もあるし、投資銀行が店内の顧客オーダーフローを突き合わせるために運営しているものもあります。「バークレイズLX」は、そうした証券会社が運営している電子市場の例です。

最善の出来値を求めて、客注は自分の内部の電子市場ではなく、他所の電子市場につなぐ場合もあります。

どこで執行するにせよ、投資銀行は注文を出した機関投資家の利害を優先し、顧客にとってベストの値段を追求しないといけないのです。

ところがバークレイズがやったことは、「魑魅魍魎たるHFTにはおたくの注文は渡さない」と言いながら、それらのHFTを使っていたし、客の利害を最優先すると言いながら、オーダーフローに対するリベートを貰うなど、注文を出した機関投資家には見えないところで便宜を受けていた疑いがかけられているわけです。

つまりダークプールそのものは株式取引の機関化が始まった、1960年代から存在するのです。昔は単に、証券会社の株式部、つまりアップステアーズで、「ジャン決め」という方法で証券会社が顧客のポジションを「取らされた」に過ぎないのです。

これは証券会社にとって辛いビジネスのやり方です。なぜなら大手の投信は片っ端から証券会社に電話して「おたくなら、幾らで全部、取ってくれる?」とまるで印象派絵画を競りにかけるように、一番有利な値段を提示した証券会社に「ホイ来たドン!」で取らせてしまうからです。証券会社は、不利な条件で、大量のポジションを取らされ、そこから他の市場参加者に気取られないように静かにその在庫を処分するわけです。

大体、この手の駆け引きは証券会社が負けます。そのように顧客の注文を促進(facilitation)することによって生じるトレーディング損は、その機関投資家を担当する営業マンの委託手数料の成績から引き算されます。

毎月月末に各営業マンに配られる、トレーディング損の請求書(=それをpenalty bidといいます)を見て、セールスは暗澹たる気持ちになるわけです。

だから、若し、バークレイズをはじめとする投資銀行が、正直なビジネスが出来ないのであれば、昔通りの「ジャン決め」のビジネスにまた戻ればいいだけの事です。