8月9日からシネスイッチ銀座ほか全国の映画館で『めぐり逢わせのお弁当(The Lunch Box)』が封切られます。

公式サイト: 『めぐり逢わせのお弁当』

僕はこの映画を地元(カリフォルニア州サンラフェル)の名画座、ラフェルシアターで見ました。

サンラフェルはスターウォーズのジョージ・ルーカスが住む町で、映画の特撮技術の会社、インダストリアル・ライト&マジック、劇場音響システムのTHXなど、映画作りにまつわる、様々な付帯サービスが集積している処で、地元では「ハリウッド・ノース」と形容される土地柄です。

そんな関係もあり、ラフェルシアターの観客はアメリカでも最も目が肥えている、うるさいタイプの映画ファンたちです。

今日、紹介する『めぐり逢わせのお弁当』は、そんなラフェルシアターでヒットし、2014年上半期で一番話題になった作品のひとつです。

本作は現代のインドの、何でもない日常と、そこに繰り広げられる人間模様を描写しています。

ムンバイにはダバワラと呼ばれる、お弁当配達人たちが居ます。彼らは奥さんが作る昼食のお弁当を、各家庭から、オフィスに、ちょうどランチタイムに間に合うように配達するわけです。

このサービスは、もともとイギリスがインドを植民地としたとき、ランチボックスを仕事場に持参するのをはずかしがったイギリスの官吏が、使用人にランチを届けさせたことから始まった、1890年代に遡る習慣です。

インドが独立し、イギリス人が去った後は、主にインド人のエリート・サラリーマンがこのサービスを利用しています。毎日、20万個ものランチボックスが、このような方法で届けられるわけです。ちゃんと届く確率は99.99%なのだそうです。

話が脱線して恐縮ですが、1997年頃、ドットコム・ブームの初期に、最初のデータセンターの上場銘柄であるエクソダス・コミュニケーションズの新規株式公開(IPO)を、当時僕が勤めていた投資銀行が引き受けました。

それで同僚と一緒にエクソダスのデータセンターに見学に行くと、ちょうどお昼時で、データセンター内にはインド系の社員(=大半が、そうです)たちのランチのカレーの匂いが充満していました。

「なんだよォ、ここはボンベイ・マフィアの巣窟か?」

連れのマーティー(彼は、イタリア人)は、そう言って顔をしかめました。

エクソダスの幹部がパケット技術の説明をするとき、ダバワラの配達システムを比喩に使ったのですが、そもそもダバワラというサービスを知らない投資家たちは「???」という感じでした。

ダバワラの仕組みと、インターネットのパケットがちゃんと届く仕組みは、同じだという説明に、僕は目からウロコが落ちる気がしました。

さて、話を『めぐり逢わせのお弁当』に戻すと、ムンバイのサラリーマンの全てが、このようなサービスを利用しているわけではないと思います。いや、ダバワラのサービスを利用できる人は、中産階級でも上の方です。

映画の中でも、主人公の後任者となる若者は、給料が少ないのでダバワラのサービスは利用できず、お昼ごはんは、バナナ二本だけです。

主人公の勤める保険会社(だっだと思う)の仕事は、帳簿の記帳は手書きで、職域は「なわばり」化しており、自分の仕事を他人に教えない、他人の仕事は自分は関知せず……といった、インドらしい、官僚主義的な雰囲気も、映画の中で描かれています。

つまりこの映画では、ITやミドルクラスの台頭に代表される新しいインドと、旧習に囚われている古いインドがぶつかりあっているわけです。

そのような数々の「見えない壁」を超える、とても現代的な気遣いや思いやりこそがこの映画の主題であり、そういうインドのミドルクラスの成長した姿が、見る者に爽やかな印象を残します。