金曜日の米国市場は「ロシアがウクライナ国境近くに配置したロシア軍を引き揚げている」という情報と、「米軍が北イラクで活動している過激派を空からの攻撃で蹴散らした」というニュースでショートカバーの買いが入りました。目先、市場はフラフラと上昇し続けるかも知れません。

しかし……米国株反騰局面では政策金利関係のニュースのリークに気を付ける必要があります。

つまりいよいよイエレンFRBが政策金利引き上げに関するロードマップを示し始める可能性があるのです。たぶん最初はウォールストリート・ジャーナルのジョン・ヒルゼンラースあたりにわざとリークし、マーケットの反応をうかがうと思います。

説明します。

このところの失業率の改善のペースを見ると、12カ月ごとに0.9パーセンテージ・ポイントのペースで改善してきました。

この改善速度を当てはめると、2014年12月には5.8%、2015年4月には5.4%、6月には5.2%に達します。

いまFRBの長期失業率レンジは5.2から5.4%です。単純な言い方をすれば、これがFRBの考える完全雇用の水準ということになります。下のグラフの水色の帯のエリアです。

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現在の失業率の改善ペースを当てはめると来年の4月には水色の帯の上限に、そして6月には下限に到達するわけです。

完全雇用が実現されている時点での政策金利は、歴史的に見て少なくともニュートラルでなければいけません。

FRBの過去のニュートラルなフェデラルファンズ・レートは3.75%でした。現在のフェデラルファンズ・レートは0から0.25%です。

フェデラルファンズ・レートの0~0.25%は、2008年冬から、かれこれ5年半、続いています。これは第二次世界大戦以降はじめての、極めて異例な状況です。2015年4月には失業率が5.4%(=それは完全雇用にほかならないわけですが)というFRBのターゲットゾーンに到達するので、それまでにフェデラルファンズ・レートをなんとかノーマルに戻さなければいけません。

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すると毎月0.25%フェデラルファンズ・レートを引き上げても14か月、つまり1年と二カ月かかるわけです。


すると今の段階で、即座に利上げに着手しても、もう4月までにニュートラルの水準に戻すことはほぼ不可能ということです。FRBが後手に回っているという議論の根拠は、ここにあります。

その一方で、「いや、そうではない。FRBは別に慌てる必要は無い」という議論もあります。その根拠は消費者物価指数です。

いま消費者物価指数は2.1%で、FRBのターゲットである2%とほぼ一致しています。「インフレが起きても居ないのに、インフレ退治をする必要は無い。だから今はしっかりと低金利を維持し、ダメ押し的に景気支援を続けるべきだ」というのがその考え方なのです。

イエレン議長も、もちろんそういう考え方です。彼女の口癖は「労働市場には、たるみがある」というものです。

労働市場が失業率で見るほど改善してないというひとつの理由は労働力率が62.8%と低いからです。これは長い不況で、職探しすら諦めてしまった人が多いからだと説明されています。

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ただ労働力率の低下は2008年秋におこったリーマンショックよりずっと以前から、実は起きていた現象です。だから労働力率の低下の原因を不景気だけに求めるのは、僕は間違っていると思います。

実際、いまアメリカではベビーブーマー世代がどんどんリタイア年齢を迎えて労働市場から去っています。そのような人口動態的な要因も働いていることは見逃せません。

もうひとつイエレン議長が「労働市場にたるみがある」と考える理由は、正社員ではなく、パートタイムが多い点です。自分が本来就きたい職につけないので、しかたなくバイトでお茶を濁している、、、これは不完全な雇用だというわけです。

でもいわゆるフリーターという現象が、たんなる一時的な問題なのか、それとも構造的に、未来もそういう状態がずっと続くのかはじっくり考えてみる必要があります。日本でも正社員を派遣さんに置き換える流れがありますが、それがたんなる不景気のもたらした一時的問題なのか、それとも長期の趨勢なのかは議論の余地があるのと同じです。

完全雇用の定義は、本来は労働力率の水準によって規定されるべきではなく、賃金インフレの有無によって判断されるべきです。

今は賃金インフレの兆候は皆無です。

でも若し賃金インフレが起こりはじめたら、労働力率の議論なんてあっという間に「忘却の彼方へ」飛んでゆくでしょう。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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