いま欧州では集団的防衛の持つ戦争抑止効果が、机上の空論ではなく、実地に試されています。

昨日、ドイツのメルケル首相がロシアと直接国境を接する国、ラトビアを訪れました。ラトビアは旧ソ連圏の国であり、ロシアからの支配に神経質な国のひとつです。

今回のメルケル首相のラトビア訪問は、ウクライナ情勢が直接絡んでいます。

ウクライナではロシア系住民が多く居住する東ウクライナで内戦が起きています。

EUに親近感を持つ西ウクライナの政府軍が、ロシアに親近感を持つ東ウクライナに攻め込み、ロシアのシンパを駆逐しようとしているわけです。

これに対し、ロシアでは「ウクライナの親ロシア分離主義者たちを応援しろ!」という世論が高まっています。

若し親ロシア分離主義者のドネツク、ルハンスクなどの町での抵抗が政府軍によって潰されたら、ロシアがじきじきに介入するリスクがあるわけです。

ロシアが東ウクライナに軍隊を進めると、全面対決の不安が高まります。その場合、戦略的には、単に東ウクライナで戦うだけでなく、軍略の面で重要なポイントになるラトビアなどバルト三国もターゲットにされる可能性があるわけです。

だから旧ソ連圏のバルト三国は(次は自分の番か?)とハラハラしながらこの様子を見守っています。

軍事大国のロシアに比べれば、ラトビアなど吹けば飛ぶような小国なので、攻め込まれたらひとたまりもありません。

そこで問題になるのが集団的防衛条約の運用です。

現在、ラトビアは北大西洋条約機構(NATO)のメンバー国のひとつです。

NATOは第二次大戦の教訓から生まれた、集団防衛のための条約で、現在、大半の西欧諸国とアメリカ、カナダなど28か国から成ります。本部はベルギーのブリュッセルに置かれ、事務総長はアナス・フォー・ラスムセン元デンマーク首相が務めています。


NATOの条文の中で最も重要なのは第五条の集団防衛条項で、メンバー28か国のうちのひとつが攻撃された場合、それはNATO全体に対する攻撃とみなし、国連憲章の認める集団的自衛権を行使し共同で武力を使い反撃できることが定められています。

ラトビアを訪れたメルケル首相は「NATOの互助の精神はたんなる机上の空論ではなく、リアルな選択肢であり、必要であれば集団的自衛権を行使する」と述べました。さらに「われわれはそのための準備が整っていないといけないし、数年前に考えていたより、もっと強固な準備を進める必要がある」と述べました。

ただ、メルケル首相は好戦的な人ではありません。立場上、嫌々ながら「番犬」として外交の表舞台に引っ張り出されているという印象が強いです。ラトビアをはじめとするバルト三国は「我々のところにNATO常駐軍を早く置いてください!」と嘆願しています。それに対してメルケル首相は消極的です。

ラトビア訪問を終えたメルケル首相は、今週の日曜日に今度はウクライナのキエフに飛び、ミーティングを持ちます。これは来週に控えたロシアとウクライナのトップ会談に先立つ調整の意味合いがあります。

NATOの主旨は、戦争の抑止にあります。

ざっくばらんに言えば、ソ連の脅威にどう対抗するか? という問題から編み出された抑止策です。それは封じ込め(containment)という概念に基づいており、これを最初に提唱した人はジョージ・ケナンです。

この「戦争を防ぐための仕組み」がどう運用されるか、注意して見守りたいと思います。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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