引受けの世界では株式上場を引受ける幹事団のことをシンジケート団と言います。そういうと、何かマフィアのような語感ですが、実際のところ、引受けのセリング・コンセッション(=報酬の山分けの際、各々の取り分を決めること)を巡る投資銀行間の争いは、やくざの出入りそのものです。

公募期間中、投資家が「アリババ買いたい!」と申し込むとき、例えば日本生命に対してモルガンスタンレーのセールスマンもゴールドマンのセールスマンも「お願いします」と頭を下げるわけです。

すると例えばモルガンスタンレーのセールスマンに注文を出すと、ゴールドマンのセールスマンは面子丸潰れになるわけです。

(それなら均等に50:50それぞれの証券に出せば、いいじゃん?)


と皆さんは考えるかも知れません。しかし世界中で1,800もの機関投資家がアリババのIPOの注文を入れたわけですから、小出しに各証券に分散して注文を入れると、それが重複しているのか、別々なのか、わからなくなってしまいます。

そのような混乱を避けるため、普通は主幹事、つまりアリババの場合はクレディスイスに、機関投資家は注文を入れます。

クレディスイスは注文を受けたら、それをインスティチューショナル・ポットと呼ばれる「闇鍋(やみなべ)」の中に入れます(to walk the demand in)。

この闇鍋をクレディスイス君、ドイツ銀行君、ゴールドマンサックス君などのシンジケートのメンバーがぐるっと囲み、ぐつぐつ煮るわけです。

その場合、闇鍋の中に日本生命の注文がブチ込まれた事実は、全員が把握しています。でも、いまの段階では未だ紳士的に振る舞うわけです。

IPOの値決めが済み、アロケーションが顧客に伝達された後で、デジグネーション(designation = 誰の功績だったかをファンドマネージャーが明かすこと)と呼ばれる指名が行われます。これは別名、ジャンプボール(jumpball)と呼ばれることもあります。これはバスケットボールの試合を開始するとき、両チームの選手が中央の円の中で競ってジャンプし、ボールを奪い合う行為から来た表現です。

つまり各投資銀行のセールスマンは、この瞬間に「私にデジグネーションしてください」とファンドマネージャーにすがりつくわけです。

だから例えば日本生命がクレディスイス経由でアリババの買い注文を入れたとしても、日本生命は必ずしもクレディスイスに対して「あなたは、よくやった!」と功績を認めることはしないのです。むしろ全然、予期しない、シティのセールスチームに沢山の評価を与える場合もあります。

下はアリババの売出目論見書上での引き受けシェアです。(なお議論をカンタンにするために、ここでは副幹事以下のシェアを省略してあります)

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するとシティの9%を除いて、後は全証券とも、均等なシェアになっていることがわかると思います。

しかし、いざファンドマネージャーから「あの証券に沢山点数をつけてあげて下さい」というフィードバックが来ると、セリング・コンセッションの大部分が、注文をインスティチューショナル・ポットに入れた証券会社とは別の証券に行くケースも少なくないのです。通常、セリング・コンセッションは引受けフィー全体(=これをグロス・スプレッドといいます)の60%近くを占め、引受け報酬の中で最も重要なお金を構成します。

ブルームバーグの報道によると、アリババのフィーのシェアは下のグラフのようでした。

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このグラフを一つ上のグラフとじっくり比較してみて下さい。

クレディスイスとモルガンスタンレーは、売出目論見書での引き受けシェア以上に沢山指名を貰ったことがわかります。つまり他社をアウトパフォームしたわけです。

ゴールドマンサックスとJPモルガンは、売出目論見書の引受けシェアと、フィーのシェアが同じです。つまり普通だったわけです。シティはもともと引受けシェアが9%と小さかったので、フィーが9%というのは、目論見書通りというわけです。

するとドイツ銀行だけがフィーが10%と、目論見書の引受けシェア18%より大幅に少ないです。言い換えれば、本来、ドイツ銀行が貰うべき報酬を、クレディスイスとモルガンスタンレーに献上してしまったというわけです。

今頃、ドイツ銀行のニューヨーク株式営業部では怒号が飛んでいると思います。デジグネーションを獲得できなかったセールスマンは、もうこの文章がUPされる前にクビになっていることでしょう。営業部長だって、もうクビにされているかもしれません。

投資銀行というところは、そういうところです。