日本とアメリカでは大学受験や学生生活がどのように違うのでしょうか? 

先ず大学受験ですが、アメリカの場合、受験生がわざわざ大学まで出向いて、ペーパーテストの入試を受けるということはありません。(但し音楽や演劇など実技が絡んでくる専攻の場合、オーディションがあります)

願書は、郵送(電子メール)です。

その中に通常、含まれるものは(このリストは網羅的ではありません):

GPA
SAT
パーソナル・ステートメント
推薦状
家計の状況(FAFSA)


などです。

GPAは日本の通知表に相当します。つまり高校での成績です。アメリカでは「A」、「B」、「C」……という評価になります。GPAの最高点は4.0ですが、州によってはAP(Advanced Placement)と呼ばれる、大学の一般教養に相当する、難しいクラスを高校で履修できます。

このAPは最高点以上のボーナス得点(たとえば4.3)を得ることが出来るので、GPAの平均点を上げようとする学生は積極的に受講します。

もちろん、裕福な子弟が多い地域の高校と、インナー・シティや農村地域の高校などでは、そもそも集まってくる生徒のレベルが大きく違います。そこで大学は全米の高校の個々のレベルに関してかなり正確にその難易度を把握しており、レベルの高い高校での「4.0」と、レベルが低い高校での「4.0」は、当然、違う評価になります。

ただ、これを杓子定規に当てはめると、インナー・シティや農村地域の高校に通う優秀な生徒は、裕福な地域の生徒と競争できなくなってしまいます。そこで教育の機会の平等を保障するために、たとえばカリフォルニア州の場合、「高校で上位10%に入っている学生には、かならずUC(=カリフォルニア大学)のどこかへ合格させる」ことが制度化されています。

GPAは高校4年間の通算の成績を用います。すると高校1年生のときにサボっていて、大学受験直前に猛勉強して挽回する式の勉強方法では通用しません。アイビーリーグの大学に入学しようと思うと、高校4年間、日本で言う「オール5」を貫き通す必要があります。

SATは自分の納得の行く高得点が取れるまで、何度も受験し直すことが出来ます。自分が提出したいテスト結果だけを選んで大学に提出できます。この関係で2回、3回とSATを受験する学生も多いです。


SATは良いに越したことはありませんが、他の受験生より自分のSATスコアの方が高いので、自分の方が試験に受かる確率が必ず高いか? といえば、それはそうとは限りません。GPAやSATの得点の高い順に合格通知を出すということは、アメリカの大学ではしないのです。

パーソナル・ステートメントはエッセイと呼ばれることもあります。エッセイのテーマは大学側の指示に従います。つまり、受験する大学ごとに準備しなければいけない部分は、パーソナル・ステートメントということになります。

大学にもよりますが、パーソナル・ステートメントは、かなり重視されます。自分がどんな人間であるかを、それまでの人生や学生生活を振り返りながら主張するわけです。スポーツに打ち込んだとかボランティアをやったなどのエピソードを通じて、その受験生の人格を明確化するわけです。

言い換えれば「受験勉強だけを、猛然とやってきました」という学生は、書くことが無いし、たぶん落とされるということです。

高校で1番の成績をずっと突っ走ってきたような学生が、アイビーリーグの受験で全滅するという場合、パーソナル・ステートメントの中身がスカスカなのが原因である場合が多いです。

高校の野球部のキャプテンを務めたとか、そういう経歴はもちろんプラスには違いないけれど、それが合格を約束するか? と言えば、必ずしもそうとは限りません。

推薦状は、提出する必要があるので、恩師などに書いてもらう必要がありますが、それが合否に影響を及ぼすか? というと、余り重要ではない気がします。

家計の状況はFAFSAと呼ばれる学資補助申請フォームを使って開示する必要があります。この書式は複雑で、なおかつ確定申告書類などをベースに作成される必要があり、多くの父兄にとってハードルが高いです。

折角、受験生本人にやる気があっても、親がFAFSAのフォームに記入するだけのリテラシーが無いので、泣く泣く学資補助の申請を諦める(=そのことはすなわち大学進学をあきらめることを意味します)という家庭も、実は多いです。

受験の合否と学資補助を支給するか、しないか? の決断は別個に行われるため、せっかく難易度の高い大学に合格しても授業料が払えないので入学を断念する受験生はとても多いです。

日本ではよく「アメリカの有名大学では60%近い学生に学資補助が出ており、貧乏でも優秀でさえあれば道が開ける」とか間違った認識がされていますが、正確には「60%近い学生が、なんらかの学資補助を受けている」わけで、学資補助にはいろいろあり、その大半は部分的補助です。だから大学のコストの10%とか20%が免除とかになるだけで、全額免除は殆どありません。

もちろん、確実に全額免除を受けるには、行く大学のランクを大きく落とせば良いわけです。でもたとえば東大に入れる実力のある学生が、授業料の全額免除を受けるためにわざわざ三流の駅弁大学を選ぶというのは、やはり制度が間違っているように思います。

ハーバードやイェールで確実に学資補助を受けようと思えば、天才的に優秀か、そうでなければ途方もなく貧しい境遇か? のどちらかでなくてはいけません。

それはもっとわかりやすい言葉に言い直せば、大半の受験生の親は、子供ひとりを4年間大学に通わせるにあたり、2,100~2,700万円くらいの出費を覚悟する必要があるということです。

なお、この大学の費用の中には授業料だけでなく寮費など一切合財の費用が込みになっています。

この点も誤解されやすいのですが、日本人は(授業料は仕方ないとして、寮費は、寮に入らなければ節約できるだろう……)と考えがちです。

しかし大半の良い大学では新入生は寮生活を義務付けています。「通い」の学生は、殆ど居ません。家から通える距離に住んでいる学生も、寮に入ることを普通選択します。その理由は、アメリカの大学生はよく勉強するので、一秒でも惜しいからです。若し寮に住まなければ、落第するリスクはすぐに増大します

普通、大学の寮は二人部屋とか三人部屋です。プライバシーは、全くありません

Facebookの創業物語を描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』では、寮生活の様子が克明に描かれていますが、片時もルームメートと離れることは無いわけで、この「圧力鍋」のような、プレッシャーに常に晒されている状況で生涯の友や敵が生まれるわけです。

なお受験する際、希望する専攻を書く欄がありますが、これは大学側は参考程度にしか考えません。なぜなら大学に入ってから、いろいろな授業をサンプルする機会を与えられ、その過程で「実際に数学の授業に出てみたら、自分は数学専攻に向いてないことがわかった」式の学生の心変わりは日常茶飯事だからです。

別の言い方をすれば、日本の場合、入試は学部別に行われ、その関係で大学入学後転部することは極めて珍しいわけですが、アメリカの場合、まず行く大学を選び、専攻は後日、変更可能だということです。