日本の証券関係者が一番嫌う投資家からの質問は、「何を買えばいいですか?」という質問です。

この質問が発せられた途端、「あ、投資は自己責任ですから……」とか、わけわかんないゴタクを並べて、するりと逃げてしまうプロが後を絶ちません。

しかし……

「何を買えばいい?」という問題は、多くの個人投資家にとって切実な問題であり、本当に知りたい核心的な問いなのです。

つまりそこに投資家のニーズがあるのです!

だから金融サービス業は、その問いに誠実に答えてゆく責務があると、僕は考えています。

もちろん、どんなに一生懸命考えて、誠実に答えたところで、自分の提示した、「これを買えばいいんじゃないですか」というアイデアが当たるとは限りません。

いや、それどころか自分が「これじゃないですかねぇ」と答えた銘柄が、そう言葉を発した瞬間から連日下げて、面目丸つぶれになる場合の方が多いくらいです。もちろん、そういう僕自身のトラックレコードも、決して誇れるものじゃありません。

毎回、あれほどハッキリとセミナーや著書の冒頭で「僕は間違ってばかりですから……」と断っているのに、「それでも訊きたいんです!」という人が後を絶たないわけです。(笑)

それはどうしてかというと、ひとつには投資家が(なぜこの株は買いなのか?)ということに関する僕の考え方、ないしはそのロジック(論理)を知りたいからだと思います。

言い換えれば、僕が次々に入ってくる経済指標や決算情報や株価情報などのデータを、どう料理しているか、その調理場の様子を覗きたがっているわけです。

(ははあん、包丁は、ああいう風に使うのか……)

という感じで、僕からノウハウを盗む……これこそが上達への最短コースなのです。

僕の、日本の金融関係者に対する評価は、ごく一部を除いて、ハッキリ言ってからいです。

もっとえげつない言い方をすれば、心から軽蔑しています。

なぜなら、普段から自分の頭で考えていない家畜みたいなヤツが多すぎるから。

自分の頭で考えていないからこそ、投資家から「何がいいですかね?」と振られたら、それこそもうパニックに陥ってしまって、「あ、投資は自己責任ですから……」とか、わけわかんない受け答えで逃げてしまうわけです。

これでは金融のプロとしての責任を全うしているとは言えません。

ところが日本では証券マンも銀行マンも与えられた商品を、それが顧客ひとりひとりのニーズに合致しているかどうか? という基本的な配慮すらせず、ノルマに従って、黙々とそれを消化する……

そういうロボットのような働き方しか教育されて来なかった。

投信をハメコミすれば、3%を超える販売手数料が販売証券会社や銀行に入る……その収入だけが社員の成績、あるいは優秀さの尺度というわけです。

そういう焦土作戦みたいな商売の作り方をしてきた結果が、こうです。

2

日本の金融界が「投資は自己責任で……」という思考停止で無責任な「免罪符」を手に入れた1980年代後半から、日本の金融業は朽ちてしまったのです。

しかるにフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)や自己責任の発祥の地であるアメリカでは、実情としてこのへんのところはどうなっているのでしょうか?


僕はアメリカの機関投資家に対する株式セールスの仕事を長くしてきたので、この点は自信を持って言えますけど、相手先を訪問して「何を買えばいいですか?」と質問されて、「さあ、わかりません」とか「投資は自己責任ですから勝手にどうぞ」なんて受け答えをしたら、自分が帰社する前に訪問先から上司のところへ電話が入っていて「いまうちに来たあのセールス、頼むからうちの担当から外してくれ!」と言われるのがオチです。

訊かれたら、すぐ答えられるように、いつでも準備が出来ていないといけません。それは求道的であり、日本にありがちなダマ転営業とは対極にある、ストイックな姿です。

1975年にモルガン・スタンレーの調査部を立ち上げた功労者は、バートン・ビッグスという人です。当時、アメリカの証券界は、大きな変革の波に洗われていました。それというのも1974年にERISA法が成立し、年金の受託に関する基本的なガイドランが明示されたからです。

そこではフィデューシャリー・デューティーが明文化されたことに加え、きちんとした運用プロセスが確立しており、実績があれば、規模の大小にかかわらず、大きな年金の受託もOKであるということが決まりました。

それを境として、ミラー・アンダーソンなどに代表される運用のブティックが続々と登場したわけです。

彼らはリサーチ・ブティックと呼ばれる、株式や経済の調査を専門にした中小証券会社に好んで発注しました。

それが証拠に1972年からはじまったインスティチューショナル・インベスター誌の「オール・アメリカン・リサーチ・チーム」というアナリスト・ランキングで上位に来た証券会社は、ロバートソン・コールマン、ホワイトウェルド、ディーン・ウィッター、ドナルドソン・ラフキン・ジェンレットなどの調査に強い証券会社ばかりでした。

言い換えれば、モルガン・スタンレーは初動で大きく乗り遅れたわけです。

そこでバートン・ビッグスが強調したのは「自分の頭で考える」という事です。彼は「証券マンたるもの、常に(どの銘柄が良いか?)ということを考え続けなくてはならない」と主張し、「良いセールスマンになるために心掛けるべきこと」というレポートを書いて、それを社員や顧客に送付しました。

その中で「いちばん大事なことは、いま自分が手張り口座で何を買っていて、なぜそれを買っているのかを顧客とシェアすることである」とすら主張しました。これは(ファンドマネージャーやセールスマンの手張りは、利益相反である)と考える、日本の金融業界の風土とはまるっきり正反対の価値観です。

もちろん、利益相反は懸念すべき問題です。

しかしそれ以上に僕が問題だと思うのは、金融マン本人は絶対に買わないような、高コストで低品質な、わけわかんない毎月分配型投信とかエマージング高利回りナンタラというような欠陥商品を、しゃあしゃあと薦める金融界ぐるみの無神経です。

顧客から訊かれたときだけ「投資は自己責任ですから……」というのらりくらりの受け答えで逃げておいて、自分が売りつけるものがあるときだけはフィデューシャリー・デューティーを忘れてハメコミに余念がない……それを誰も滑稽だと思わないところが、不思議です。

売る方も脳死、買う方も脳死……そんな無関心のなかで日本の投信商品は、グロテスクなバケモノになったというわけです。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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