(自分がどんなに頑張ったところで、もう我々世代の暮らしは、好転しない)
そういう深い諦観が、日本の若者の間に定着しています。
最近、SNSを見ていると(こんな世の中、いっそのこと全部変わって欲しい!)という苛立ちが伝わってきます。名付けて「ガラガラポン願望」とでも言いますか。
我々の知っている歴史で、世の中の価値観がひっくり返り、それまでどうにもならないほど行き詰った問題が、まるでガラガラポン抽選機から赤玉が転がり出るように、一度ゼロにしてリセットされたのは、太平洋戦争の終戦時です。
先日、NHKが預金封鎖を回顧する番組を放映し、市場関係者を驚かせたわけですが、意外にも僕のところへは「どんどんやれ!」というコメントが寄せられました。(格差が解消するなら、それも良し)という考え方です。
預金封鎖の主な狙いは、カリフォルニア大学バークレーのバリー・アイケングリーン教授によれば、所得格差の是正でした。具体的には、戦争の遂行の過程で富を蓄積した財閥に対して「戦争は商売の道具ではない」ということを思い知らせるため(=連合軍総司令部メモより)預金税が実施されたのです。(*)
この目的は、下のグラフに見られるように達成できたと思います。

話は脱線しますが、預金封鎖の際、旧円→新円への切り替えということも実施されました。これを実施した理由は、預金封鎖を発表した時点で、銀行にお金を預けていた人の財産はガッチリおさえることが出来るけど、自宅のタンスに現金を積んでいた人は、課税から逃れることが出来てしまうからです。そこで新円を印刷し、旧円を使えなくすることで、そのような脱税行為を一網打尽にしたのです。
これには面白いエピソードがついており、旧円を新円に換える唯一の方法として、いったん株式を買うという抜け道が(たぶんわざと)残されたということです。
「預金を預かって旧円で株券を買い、それを売って新円に換えるというだけで二割くらい貰えたのです。とにかくめちゃくちゃに儲かりました。旧円をほどいてやるという噂だけで、お客が殺到したからです」 安弘一郎著『かたつむりの記』
今回のNHKの預金封鎖回顧番組は、金融関係者にとっては仰天すべき画期的イベントで、番組制作者の勇気を称えたいと思います。
また昨日はテレ朝が「先週の経済財政諮問会議で黒田総裁が日本国債のリスクについて5分以上も滔々とお説教したにもかかわらず、議事録からそれが削除された」ということをスッパ抜きました。
この辺にも(日本は、だんだん変わってきているな)と感じました。
そう思う反面、預金封鎖が実施された当時はGHQによって強力な民主化・経済復興政策が推し進められていました。だからこそ、このような無茶な改革が断行出来たのです。
しかし今の若い人はそもそも投票所に行かないので、変化への願望は政治に反映されないし、今後も勢いづくとは考えにくいです。
(*)The Capital Levy in Theory and Practice, Barry Eichengreen, University of California, Berkeley
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
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