米国では精油所の労働者カリフォルニアの港湾労働者長期ストライキがありました。ストライキの頻発は何を意味し、それが米国連邦準備制度理事会(FRB)の政策に、どう影響するのでしょうか?

結論を言えば、ストライキは賃金や雇用条件に対するプレッシャーを表しており、米国経済は好調だということです。

米国連邦準備制度理事会は、7月の連邦公開市場委員会で「辛抱強く」低金利を続けるという表現をやめ、9月からの利上げ実施をシグナルすると思います。

この材料がめさきぶら下がっているので、ドルは基調として強いと思います。今年年末までに130円を目指すというシナリオに、変更はありません。

下のグラフは米国の実質GDPです。

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2014年第4四半期は+2.2%でした。これは第3四半期の+5%から減速しました。ただし消費は+4.2%と強かったです。いま消費は米国経済の70%を占めるので、消費こそが一番大事です。

1月の米国の個人支出は前月比マイナス0.1%でした。

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すると「なんだ、悪いじゃないか!」と思うかも知れません。でもこの数字にはガソリン代が含まれています。アメリカはクルマ社会、通勤や子供を学校へ送り届けるのも、すべてマイカーです。

だからガソリンの消費の多くはディスクレッション、つまり節約できるものではなくて、どうしてもクルマに乗らないといけないという性格のものです。

去年の夏以降の原油安、そしてガソリン安が、個人支出の金額を実際より少なく見せる働きをしてきました。


次は消費者物価指数です。

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1月は-0.7%でした。この統計も原油安の影響を大きく受けています。米国連邦準備制度理事会(FRB)はCPIのターゲットとして2%程度を見ています。現在の物価は、それを大幅に下回っています。

このことは、慌てて利上げしなくても、しっかり景気がつよくなったのを確認してから利上げして良いことを意味します。

この部分の解釈で、投資家の意見は割れています。

利上げが当分ないという意見の人も実は多いです。私はその意見には反対で、イエレン議長は利上げのチャンスをうかがっていると考えています。


原油価格の話のチャートです。

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今49ドル前後で、横ばいに転じています。世界的に不景気だから原油価格が下がったという意見がありますが、私はその意見には反対です。

原油価格が半値になるほど、景気は落ち込んでいません。特に原油の消費量はアメリカが圧倒的に一番大きいです。だから不景気で原油価格が下がっているという説明はおかしいです。

むしろシェールオイルの増産が直接の引き金だと思います。最近の原油安で北米のシェールオイルのリグカウントはピークの1600から1000以下に下がっています。しかし小さくて効率の悪いリグから順番にストップしている関係で、リグカウントの減少に比べて生産高はぜんぜん減っていません。だから原油価格が本格的に反騰するのは期待薄です。


ガソリン価格は2.45ドルまで反発しています。

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精油所の労働者がストライキをしていることが影響しています。テキサス州のポートアーサーという大きな精油所が止まっていることが拍車をかけています。

あとカリフォルニアでは、とりわけ値上がりが激しいのですが、これはエクソンのロスアンゼルスの精油所が一部故障していること、折からの港湾ストライキでタンカーの原油が降ろせなくなっていることなどが影響しています。


2月の米国ISM製造業景況指数は拡大・縮小の分かれ目である50以上だったので、景気は拡大しています。

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でも指数自体は右肩下がりなので製造業の景気の勢いは衰えています。今回の調査ではカリフォルニアの港湾労働者の長期ストライキがサプライチェインに与える悪影響を懸念する声が強かったです。細目をみると:

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まず顧客在庫が増えているのが注目されます。また受注残も増えています。輸出受注が減り、生産も絞り込まれています。これらはいずれも港が止まっていることでサプライチェインに混乱が生じ、経営者が様子見を決め込んでいることを示唆しています。


カリフォルニアの主要港はロングビーチ、ロスアンゼルス、オークランドなどですが、その中でもスケールの大きいロングビーチの1月のコンテナ取扱高は去年の1月に比べてマイナス18.8%と落ち込んでいます。

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今週金曜日には雇用統計の発表があります。コンセンサスは23.5万人です。

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水曜日のADPが21.2万人と若干、予想を下回ったので期待は低めです。


つぎは失業率。

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前回は5.7%でした。これは求職者が増えたことが一因です。今回のコンセンサスは5.6%です。米国の失業率の改善はFRBを驚かせました。2年前、FRBが予想したシナリオより、1年も早くターゲットに達成してしまったのです。その一因が労働力率の低下にあることは否めませんが、それでも失業率の回復が予想より良いことには変わりありません。但し、今後は失業率の数字そのものが小さくなるので、改善のペースはだんだん鈍化すると思います。

労働力率は63%を少し下回った辺りで安定しています。

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これが反発するかどうかに注目したいところです。


下は時間当たり平均賃金のチャートです。

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1月は+2.2%でした。少し上向いています。これまでは折角、失業率が改善しても、賃金がぜんぜん回復していなかったので駄目だという意見が多かったです。だから賃金が上がり始めたら、本当に雇用市場は本格回復なのだという認識になるわけです。

これに関しては先日、重要な展開がありました。それはウォルマートが24%の賃上げを発表した事です。ウォルマートはアメリカでも最も賃金が安い企業のひとつとして、いつもやり玉に上がってきました。しかも全従業員が140万人もいる、民間企業としてはアメリカ最大の会社です。

だからウォルマートが賃金を上げると、他の小売店も追従しないといけないのです。今回の賃上げは全従業員の約3分の1に適用されます。新しい賃金は9ドルです。しかも来年、もう一度、1ドル賃上げして10ドルにするそうです。

イエレン議長は、このウォルマートの発表をとても重視すると思います。賃金の上昇は、消費者のセンチメントに良いです。

今後、賃上げが繰り返されると消費者のマインドは一層良くなると思います。

金曜日の雇用統計には、このウォルマートの要因は含まれないと思うけれど、これからは雇用統計の発表ごとに、賃金がどうなっているかに注目して下さい。

アメリカのフェデラルファンズ・レートですが、過去、かれこれ6年以上も実質ゼロの水準にへばりついてきました。

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このグラフは1954年を起点にしています。そこまで遡っても、現在のような、異常な低金利がこれほど長く続いたことは無いのです。

ゼロ金利が長引くと、消費者や投資家はそれが当たり前だと思い、へんなクセがついてしまうのです。具体的には2001年に9・11のテロがあった後、アメリカ人のマインドが冷え込んだのでFRBは長期に渡って低金利を維持しました。そのときはどうせ低金利が続くだろうという思い込みから低金利を利用して皆が住宅ローンを組み、家を買ったのです。

本来、信用度が低くて、家が買えないような人まで頭金なし、最初の1年は利払の必要なしというようなオファーが出されました。いわゆるサブプライム問題です。

次のバブルが何時来るかわかりませんが、今みたいなカネ余りの時代が長く続くと、後で必ず禍根をのこします。

下のグラフはフェデラルファンズ・レートのシナリオを示しています。

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一番下の日付、4月29日、6月17日…というのは、次のFOMCの開催日です。それぞれのFOMCで、フェデラルファンズ・レートが引き揚げられる確率が何%あるかを、フェデラルファンズ・フューチャーズ、つまりシカゴの先物市場で実際に取引されている価格から、逆算して確率を割り出したものです。

一例として4月29日では0%を予想するひとが47%、0.25%を予想するひとが50%、0.5%、つまり利上げを予想しているひとは3%しかいないわけです。

これが次の6月のミーティングになると、山が少し右にずれていることがわかります。山が画面の右にずれればずれるほど、利上げの確率を読み込んでいる人が多くなるわけです。

たとえば緑、つまり12月16日を見ると、0%を見ている人はわずか2.4%、0.25%をみているひとは12.7%しかいません。85%の人たちは、0.5%以上、つまり利上げがあるとみているわけです。これを一覧表にすると、こうなります。

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過半数の市場参加者が、フェデラルファンズ・レートが0.5%以上になると予想しているのは9月17日ということです。

さて、9月17日のFOMCで利上げが発表になるということは、その引導を渡す、つまり「こんご利上げしますから、よろしく」というシグナルは、それより前に出さないといけないのです。

いまFRBが「辛抱強く(Patient)」という表現を使った場合、その単語が声明文に出た後2か月間は利上げしないという暗黙の了解があります。すると9月に利上げするには7月のFOMCで「辛抱強く」という表現を削除することが必要になるのです。また確率は低いですけど、ひょっとすると6月のFOMCで「辛抱強く」という単語が消える可能性も、全く無くはありません。


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