3月31日に中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の「創立メンバー」の参加表明の締切がやってきます。
僕はAIIBは高邁な理想の下に企画された、世界平和に貢献するポジティブな存在になると思うし、アジアにはまだまだそういう機関の開発資金を必要とする人々が居ると思うし、AIIBは、「大いに結構!」だと思っています。
でも、日本が「バスに乗り遅れるな!」式のアタフタした様子で、AIIBに慌てて参加を決める必要は、ぜんぜん無いし、若し出資するなら、「なぜ出資するんだ!?」ということを日本国民に説明する義務を、政府は負っていると思います。
説明します。
まず、日本はすでにAIIBに相当する国際機関を持っています。それはアジア開発銀行(ADB)です。ADBは、国際的で公的な役割を帯びた貸付機関ですが、そのリーダーシップは常に日本が執ってきました。下はADBの株主構成です。

伝統的にADB総裁は日本人でした。
銀行というものは、資本金を元に、そこから更に借金して、おカネを貸し付ける存在です。だから資本出資=影響力の行使、ではないということです。これは当たり前の事のようだけれど、一般の国民には余り理解されていないコトだと思うので、敢えて言葉を尽くして説明します。たとえばADBの場合、払込資本金と融資残高のカンケーは、下のグラフのようになっています。

それでは実際、ADBは誰におカネを貸しているのでしょうか? それを示したのが下のグラフです。

中国が一番、インドが二番というように続いています。次におカネの借り手は、誰でしょうか? それを示したのが下のグラフです。

借り手は、政府が多いです。
ADBのおカネが、実際にどういうところで働いているのかをイメージするため、例を出すと、グルシアでは浄水場の建設にADBの資金が投入されています。ウズベキスタンでは鉄道建設におカネを出しています。ベトナムでは工科大学の建設資金を融通しています。中国ではウイグルなどで、サステイナブルな生活インフラを建設する支援をしています。インドでは災害復興のためにADBのおカネが投入されています。

僕はAIIBは高邁な理想の下に企画された、世界平和に貢献するポジティブな存在になると思うし、アジアにはまだまだそういう機関の開発資金を必要とする人々が居ると思うし、AIIBは、「大いに結構!」だと思っています。
でも、日本が「バスに乗り遅れるな!」式のアタフタした様子で、AIIBに慌てて参加を決める必要は、ぜんぜん無いし、若し出資するなら、「なぜ出資するんだ!?」ということを日本国民に説明する義務を、政府は負っていると思います。
説明します。
まず、日本はすでにAIIBに相当する国際機関を持っています。それはアジア開発銀行(ADB)です。ADBは、国際的で公的な役割を帯びた貸付機関ですが、そのリーダーシップは常に日本が執ってきました。下はADBの株主構成です。

伝統的にADB総裁は日本人でした。
銀行というものは、資本金を元に、そこから更に借金して、おカネを貸し付ける存在です。だから資本出資=影響力の行使、ではないということです。これは当たり前の事のようだけれど、一般の国民には余り理解されていないコトだと思うので、敢えて言葉を尽くして説明します。たとえばADBの場合、払込資本金と融資残高のカンケーは、下のグラフのようになっています。

それでは実際、ADBは誰におカネを貸しているのでしょうか? それを示したのが下のグラフです。

中国が一番、インドが二番というように続いています。次におカネの借り手は、誰でしょうか? それを示したのが下のグラフです。

借り手は、政府が多いです。
ADBのおカネが、実際にどういうところで働いているのかをイメージするため、例を出すと、グルシアでは浄水場の建設にADBの資金が投入されています。ウズベキスタンでは鉄道建設におカネを出しています。ベトナムでは工科大学の建設資金を融通しています。中国ではウイグルなどで、サステイナブルな生活インフラを建設する支援をしています。インドでは災害復興のためにADBのおカネが投入されています。

このような融資活動は、ちゃんと開示されています。また融資に際しては、ADBの担当者が袖の下を受け取ったり、建設業者などとグルになって汚職腐敗を起こさないよう、じゅうぶんな監視をする必要があります。そのガバナンスがちゃんと出来ていないと、上で説明したように資本金をもとに、その上に更に借金する際の、借金が出来なくなるからです。
その借金は、ADB債の発行などのカタチで行われます。つまりADBのエクイティー・インベスター(=株主)よりももっと大きい資金が、社債の投資家からADBに託されているということです。これは金融の世界では「レバレッジをかけている」という風に言われることもあります。
因みにADBの株主資本は174億ドル、バランスシートのサイズは1,221億ドルなので、レバレッジは単純に計算して7倍ということになります。またADBの借入総額は646億ドルです。
なぜこんな事を説明するか? といえば、銀行というものは払込資本(=今回、議論になっている部分です)だけが問題なのじゃなくて、その後もちゃんとしたガバナンスの下で、きちんと運営され、絶えず債券市場から銀行債の発行という行為を通じて資金をひっぱってこられる能力が問われるということです。それは、もっとシンプルな言葉に直せば、「信用」です。
ADBの場合、格付けはトリプルエー(AAA)で、ノンパフォーミング・ローン(=支払が遅延している貸付)は、ゼロです。
そういう実績があるからこそ、下のグラフに見るような投資家が、よろこんでADB債に投資しているわけです。

投資家の国別の分布は、こうなっています。

AIIBの活動に際して「中国は拒否権を行使しない」と言う点がしきりにアピールされているけれど、それは僕のような投資の世界の人間に言わせると、当たり前。
なぜなら、そうしないとAIIB債は、たぶん誰も買わないと思うから。
ここまでの話をまとめると、まず日本には既にADBという国際的に認知され、尊敬され、実績を積んできた機関が、存在しているということです。
有り体に言えば、中国はこれがうらやましくてAIIBを始めた……と言えなくもないのです。
まるで小さい男児が、となりの子が新しいオモチャで遊び始めると、自分が既に持っているオモチャのことをスッカリ忘れて、「あれが欲しい!」とねだるように、今の日本の世論は、目移りしちゃっているわけです。
でもこの手のインフラ開発資本というのは、下手すりゃドロドロの利権にまみれた腐敗の温床になるリスクもあるのです。
ペトロブラスは民間企業なので公的金融機関ではありませんが、あの例にみられるように、政府との関係が近くなりすぎると、いろいろな誘惑とか、「魔がさす」ケースは頻発すると思うのです。
ハッキリ言って、この点で中国のトラックレコードは悪いと思います。だからいろいろな更迭や粛清が、いまあの国で行われているわけです。
おそらく日本が中国にして上げることが出来る最大の親切とは、ADBを引き続き立派に運営することで、AIIBと「良きライバル」の関係を作り、お互いに切磋琢磨することで両方のインスティチューションともに成長してゆく……そういうことのような気がします。
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
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その借金は、ADB債の発行などのカタチで行われます。つまりADBのエクイティー・インベスター(=株主)よりももっと大きい資金が、社債の投資家からADBに託されているということです。これは金融の世界では「レバレッジをかけている」という風に言われることもあります。
因みにADBの株主資本は174億ドル、バランスシートのサイズは1,221億ドルなので、レバレッジは単純に計算して7倍ということになります。またADBの借入総額は646億ドルです。
なぜこんな事を説明するか? といえば、銀行というものは払込資本(=今回、議論になっている部分です)だけが問題なのじゃなくて、その後もちゃんとしたガバナンスの下で、きちんと運営され、絶えず債券市場から銀行債の発行という行為を通じて資金をひっぱってこられる能力が問われるということです。それは、もっとシンプルな言葉に直せば、「信用」です。
ADBの場合、格付けはトリプルエー(AAA)で、ノンパフォーミング・ローン(=支払が遅延している貸付)は、ゼロです。
そういう実績があるからこそ、下のグラフに見るような投資家が、よろこんでADB債に投資しているわけです。

投資家の国別の分布は、こうなっています。

AIIBの活動に際して「中国は拒否権を行使しない」と言う点がしきりにアピールされているけれど、それは僕のような投資の世界の人間に言わせると、当たり前。
なぜなら、そうしないとAIIB債は、たぶん誰も買わないと思うから。
ここまでの話をまとめると、まず日本には既にADBという国際的に認知され、尊敬され、実績を積んできた機関が、存在しているということです。
有り体に言えば、中国はこれがうらやましくてAIIBを始めた……と言えなくもないのです。
まるで小さい男児が、となりの子が新しいオモチャで遊び始めると、自分が既に持っているオモチャのことをスッカリ忘れて、「あれが欲しい!」とねだるように、今の日本の世論は、目移りしちゃっているわけです。
でもこの手のインフラ開発資本というのは、下手すりゃドロドロの利権にまみれた腐敗の温床になるリスクもあるのです。
ペトロブラスは民間企業なので公的金融機関ではありませんが、あの例にみられるように、政府との関係が近くなりすぎると、いろいろな誘惑とか、「魔がさす」ケースは頻発すると思うのです。
ハッキリ言って、この点で中国のトラックレコードは悪いと思います。だからいろいろな更迭や粛清が、いまあの国で行われているわけです。
おそらく日本が中国にして上げることが出来る最大の親切とは、ADBを引き続き立派に運営することで、AIIBと「良きライバル」の関係を作り、お互いに切磋琢磨することで両方のインスティチューションともに成長してゆく……そういうことのような気がします。
The first thing is character, before money or property or anything else.
最重要なのは人格だ。相手がおカネを持っているか? とか財産をもっているか? とか、その他一切のことは、人格面でダメなら問題にならない。
(J.P.モルガン)
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
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