米国では通商法案の策定権限は議会にあります。しかし議会は仕事が遅いです。そこでファスト・トラックというやり方が昔から援用されてきました。

この「ファスト・トラック扱い」に議会が合意すれば、議会はまず大統領に対外通商協定の交渉を一任します。

次に大統領が他国と話を詰めた協定内容に関し、そもそも議会の総意として、賛成なのか、反対なのか、一回のみ意思表示できる……というのがファスト・トラックなのです。

普通、通商協定の締結ではいろいろな特別利益団体の複雑な利害や思惑が交錯します。

だからそれらの「各論」を持ち寄る議員さんたちの話をいちいち聞いて、法案を何度も修正すると、決まるものも決まらなくなってしまうのです。

だからそれを全部すっ飛ばし、大統領に下駄を預けてしまうのが、この手法というわけです。

これまでに1979年のGATT東京ラウンド、1993年のNAFTAなどがファスト・トラック扱いで成立してきました。

今回提出されたファスト・トラック法案への票決は来週が予定されています。今回の法案は日米二国間貿易協定を形成するもので、今月予定されている安倍首相訪米にむけて米国側がすぐに動けるようにする意図があります。

日米二国間貿易協定は、TPPのコアになると予想されています。

それではオバマ政権はTPPをどう位置付けているのでしょうか?

オバマ大統領に「入れ知恵」しているのは、カウンシル・オブ・エコノミック・アドバイザーズです。その議長はジェイソン・フォアマンで、彼は先日、ブルッキングス研究所で基調講演しました。

そのスピーチの中でフォアマンは国際通貨基金(IMF)をはじめとする国際機関や著名経済学者、市場関係者から「世界の経済成長率が長期に渡って低くなるのではないか?」 と言う事が指摘されていると述べました。

またこの件に関しては、最近、ベン・バーナンキ前FRB議長とローレンス・サマーズの間でブログを通じて論戦にもなりました。

サマーズの言い分は、人口の増加の鈍化や新しい産業分野が多くの資本を必要としないことが世界的な貯蓄の過剰をもたらし、それが「ニュー・ノーマル」に代表されるような低成長の恒常化を招いているというものです。

バーナンキの言い分は、世界の貿易の不均衡、貯蓄の不均衡、投資の偏在が成長鈍化の主因であり、それらは多くの場合、各国政府の経済政策によってもたらされているのであって、恒常的な世界の経済成長の鈍化が本当におこっているかどうかはわからないというものです。



フォアマンの見解は、世界的な経済成長率の見通しの下方修正の原因が何であれ、それに対する有効な処方が何であるかは自明だ。それはもっと貿易を振興することだというものです。

ちょっと脱線しますが、世界の貿易動向の分析の権威的存在であるオランダ経済政策分析局(CPB Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis)によると世界の貿易額の伸びはリーマンショック以降、下のグラフのようにトレンドラインを大幅に下回っています。

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フォアマンが「貿易を振興すれば世界の経済成長が加速する」と考える理由はR&Dの特化、専門化がイノベーションを加速するからです。

一例として東芝はメモリーに強いのだからメモリーのR&Dに特化し、マイクロプロセッサのR&Dはインテルに任せた方が、お互いに研究の効率は上がります。自分の持ってない技術は、貿易によって補完し合えば良いというわけです。

でもこのようなR&Dの特化は、知的所有権がしっかり守られなければノウハウを盗まれてしまいます。

TPPに知的所有権の保護を謳う理由はここにあるのです。

フォアマンが指摘するもうひとつのポイントは「貿易はビジネス・アイデアのグローバルなフローを加速し、それが当事者の生産性を高める」ということです。これは言い換えれば「ベスト・プラクティス」からお互いに学ぶことが出来るということです。

フォアマンは「貿易は当事者間の競争を促進し、競争こそがイノベーションの促進剤になる」とも指摘しています。

まとめるとTPPは関税障壁を取り除くことで加盟国間の貿易を促進し、それが上に述べたような貿易成長の鈍化を克服し、それが世界の経済成長を加速させることに貢献すると考えているわけです。

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(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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