最近アメリカで話題になっている記事があります。「大いなるデカップリング(The Great Decoupling: An Interview with Erik Brynjolfsson and Andrew McAfee)」がそれです。

記事中、MITのアンドリュー・マカフィーは「産業革命で肉体労働者の仕事が機械に取って代わられたように、デジタル技術は知的労働者の職を奪いつつある」としています。

産業革命が環境汚染などの「負の面」を持っていたと同様、デジタル革命もかつて知的労働者がやっていた仕事をコンピュータがあっと言う間に片付けてしまうことで彼らの職を奪うという「負の面」を持っているのです。

マカフィーは「テクノロジーが進歩しても、それでみんなが分け合える富のパイそのものが拡大するという経済原理は無い。ましてや全員が、等しくその恩恵に浴するということが保証されているわけではない」としています。

デジタル技術は貴重なアイデアやノウハウを、タダ同然のコストで複製することができるので、イノベーターには富をもたらすけど、単純知的労働を提供することだけしかできない労働者への需要は漸減するのです。

その良い証拠に米国の労働生産性(灰色)はずっと上昇していますが、民間雇用(緑色)は横ばいだし、家計収入(青)は逆に下がり気味です。

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(出典:ハーバード・ビジネス・レビュー)

このような現象はアメリカに固有なものではなく、先進国各国で見られています。

企業はデジタル技術を利用し、それまでオフィスワーカーがやっていた仕事をコンピュータに置き換えることでGDPに占める利益(橙色)を伸ばしています。その反面、GDPに占める賃金(青)の割合はダダ下がりなのです。

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(出典:ハーバード・ビジネス・レビュー)

このことは何を意味するかといえば、企業の経営者や株主は「企業利益の伸長→株高」という図式で恩恵をこうむるということです。でもそれ以外の人たちはどれだけ働いてもコンピュータに追いつかれ、追い越されることで「時代遅れ」のポンコツになるリスクに晒されているということです。


以前、Market Hackでも紹介しましたが、社会学者、カルロタ・ペレスはイノベーションが広く行き渡ると(一例:iPhone)、社会のパラダイムがシフトすると指摘しています。そこでは既得権を持っている人(一例:終身雇用が保証されている大企業に勤めている)も安閑とはして居られないということです。

「空回り上司」や意味の無い儀式や組織図にこだわる会社が淘汰され、それがもたらす不安定が社会の軋轢を増幅するわけです。

ペレスは「そのときこそが、資本主義が最も醜い頭をもたげるときだ」としています。1855年、イギリスのマンチェスターは世界最大の工業地帯でした。持てる者と持たざる者の断絶を描いた女流作家、エリザベス・ギャスケルの『North & South』が出版されたのは、この頃です。

またそれより10年ほど前になりますが、ドイツ人のフリードリヒ・エンゲルスは父の所有する英国の綿工場でインターンシップをするためマンチェスターを訪れ、そこで工場労働者の状態に衝撃を受け『イギリスにおける労働者階級の状態』という本を出します。このエンゲルスが後にカール・マルクスと組んで、有名な『共産党宣言』を出すわけです。

共産主義革命を引き起こし、支配階級を震い上がらせてやろう! おれたちプロレタリアートには、失うものは何もない。労働者階級のみなさん、団結しよう!


という有名な呼びかけがなされたわけです。

ところでマンチェスターは資本家にとっても大きなインスピレーションの提供の場となっています。織物の買付をするためにこの地を訪れたネイサン・ロスチャイルドは、産業革命で労働はコモディティ化しつつあり、資本を支配するものが最終的にイノベーションの果実を味わうことが出来ることを看破します。それでロンドンにNMロスチャイルド&サンズを設立するわけです。

サラリーマンとして「自分の時間を切り売りする」……そしてその代償としてお給料をもらう……こういう古い発想で生き抜こうと思ったら、ディケンズの物語に描かれているような悲惨な人生が待ち受けています。

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