フィナンシャル・タイムズが伝えるところによるとギリシャの銀行各行が、若し日曜日の国民投票でNOと出た場合、取り付け騒ぎが起こり、銀行の連鎖倒産が起こることを恐れて、銀行残高が109万円以上ある預金者に対し、それを超える部分について貯金の30%を強制的に押収することを検討しているそうです。

ギリシャの銀行関係者は、これを「ヘアカット(散髪)」と呼んでいます。この記事を読んだ限りでは、これを画策しているのがギリシャ政府なのか、それとも銀行各行の示し合せなのか、判然としません。もし政府がそれを行おうとしているのならば、これは経済学用語では預金税(Capital levy)に相当します。(税金を取れるのは政府だけなので、これが民間の創意ならば、それを「税金」と呼ぶわけには行きません)

これは2013年にキプロスで実施された預金税に似た措置です。

ギリシャの銀行各行は、預金者のおカネの30%を強制没収し、それを銀行の自己資本に参入することで倒産を免れようというわけです。

もしこれをやらなければ、銀行が連鎖的に倒産するのだから、それよりはマシという考え方もあります。

さて、ここからは僕の考えです。

まず日曜日の国民投票ではYESが勝つと思っています。なぜならギリシャは実質的な預金封鎖の状況にあり、もしNOが勝つと、ギリシャ市民は二度と自分が銀行に預けた貯金の全額を取り戻すことは出来ないからです。

よっぽどフィナンシャル・リテラシーが欠如した人でない限り、その程度のことは理解できると思います。

もしYESが勝てば、トロイカはギリシャを支援するだろうし、そうなればギリシャがユーロを離脱することもないので、ドラクマが導入され、貯金が目減りする心配もありません。

つまり先週までに引き出して、タンス預金にしてある現金は、いずれギリシャの銀行に戻ってゆくわけです。これはフランクリンD.ルーズベルト大統領が行った「銀行休業」の際に実際に起こったことです。銀行の窓口が再開されたとき、アメリカ国民は競っておカネを預けました。

ただギリシャの場合は市民の銀行に対する信頼感が失われているので、ルーズベルト大統領の「銀行休業」の成功を繰り返そうと思えば、欧州中央銀行のドラギ総裁あたりが「ギリシャの銀行を支援するためには、なんでもやる!」式の、預金者をなだめるための発言をする必要があると思います。これはギリシャ国民がYESと投票した場合、当然、出ると思います。

さて、ここでハッキリさせておきたいことがあります。ギリシャ政府の債務がGDPに占める割合は177%で、日本政府の債務がGDPに占める割合は230%です。この数字は、いつも話題に上るので、知らない人は居ないと思います。

その場合「でも日本の場合は国債を買っている投資家の大半が日本の投資主体だから、これはグロス・ベースで見るのではなく、お金を出している日本人の公的機関の出資分を差し引いて、ネット・ベースで見るべきだ」という議論があります。

なるほど、外人投資家のマネーは、心変わりが早いです。また為替の変動によって投資スタンスが変わる場合もあるかもしれません。だからこの視点は、ある程度、正しいです。

でもネット・ベースでは数値が低いから、日本はノー・リスクだという議論は、間違っています。

日本人は株式やその他の資産に比べて、銀行預金の比率が高いです。下のグラフで、日本の水色部分が突出している点に注目して下さい。

1

これは我々消費者が、銀行に対しておカネを貸していることを意味します。実際、銀行のバランスシートでは「負債の部」、つまり将来、個人の預金者に返さないといけないおカネに計上されています。

銀行はそのおカネを使って、有利な運用先に投資するわけです。そして日本の銀行はその少なからぬ部分を国債に投入しています。

この関係で、日本の金融システムでは、国債があらゆる金融商品に占める割合が突出して多くなっているのです。

2

銀行が運用に失敗し、損を出した場合、誰かが尻拭いしなければいけません。その場合、真っ先に人柱にされるのが株式を保有している株主です。次に銀行が出している債券、つまり金融債がなぎ倒されます。

金融債はリーマンショックの後処理などで、リストラクチャリングの主な対象となりました。だから金融債の残高が多いということは、それだけクッションがあるということを意味します。

キプロスの場合、この金融債の部分が殆ど無かったので、仕方なく、債権者の優先順位としてはそのひとつ上のレイヤーである国民の預金に手が付けられました。

現在、ギリシャで議論されていることも、全く同じです。

そこでもう一度、「金融の深度」というグラフを見直して欲しいのですが、日本の場合も、金融債のレイヤーはキプロス同様、薄いです。これは何か突発的なことが起きた場合、われわれの貯金が戻ってこないリスクがあることを意味します。

だから僕は「日本の場合、お金の借り手(JGB)とおカネの出し手(年金、金融機関、etc)が両方日本人なのだから、安心だ」という薄っぺらい議論を、ハラハラした気持ちで見守っています。

そういう素人っぽい議論を展開する人は、次の真実を無視していると思います。

ボクのおカネは、キミのおカネじゃない! だから僕に無断で投資先を決めないで!」

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PS:ところで上に書いたような状況であってもNOという投票をすると決心しているギリシャ国民は居ます。その理由は、彼らは失業中であり(ギリシャの失業率は26.5%)、貯金も無いし、もう失うものが何もないからです。そのような貧困層は、若者に多いです。世代間格差を放置すると、最後にはこうなるという、近未来の予想図が、ギリシャで今、まさに展開されているという見方もできるでしょう。