原油価格を予想することはとても難しいです。下は過去のコンセンサス予想(点線)がどうだったか? を示すグラフですが、コンセンサス予想は常に間違ってきたことが確認できます。

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去年から今年にかけて原油価格は半値になりました。これはなぜでしょう?

まず世界全体の原油需要が減ったのか?といえば、減っていません。

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一方、OECDの原油在庫の水準もノーマルです。

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だから現在の低い原油価格はアメリカで起きていることが世界を道連れにしているとかんがえるべきです。

言い換えれば米国のシェールオイルの増産と、それに伴う米国国内での在庫のダブつきが元凶なのです。

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産油国の経常収支は、悪化しています。

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さらに財政収支は大幅に赤字となっています。

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IMFは2020年になっても財政収支は赤字のままだろうと予想しています。

別の見方をすればGCC(湾岸協力会議)の、むこう5年間の財政赤字は合計すると85兆円が予想されています。

産油国の多くは、これまでの貯金があります。だから原油価格が安いからといって、直ぐに財政危機に陥ったり、ドリリング活動が停止するというわけではありません。

実際、石油サービス会社、シュランベルジェによると「OPECにおけるリグ活動には、殆ど変化は出ていない」としています。

サウジアラビアはマーケットシェアを維持するためリグ活動を活発化させています。またクウェートも一部のリグの追加が遅延しているものの、全体としては活発です。アラブ首長国連合はリグを追加し、高水準の生産をしています。

むしろ原油生産に変調が見えているのはアフリカ、ブラジル、アジアなどの地域です。これら地域ではドリリング予算がカットされています。

特にマレーシアはじめ東南アジアが減産しており中国の政府系石油会社でも予算の切詰めが観察されます。

同様のことは中南米にも言えます。メキシコは長年、石油産業に対する過少投資の問題を抱えてきましたが、政治改革が行われている現在も未だ石油産業に対する投資は復活しておらず、予算は過去8年で最低になっています。

アルゼンチン、コロンビア、ブラジルなどもリグ活動が低迷しています。とりわけブラジルは政府系石油会社ペトロブラスの財政危機が問題になっています。

南米でリグ活動に変化が見られない国はベネズエラです。ベネズエラはハイパー・インフレーションに見舞われていますが、政府系石油会社PDVSA(ぺデヴェサ)の経営陣は、経済が混乱しているときでも石油産業の安定操業を続ける能力に長けており、なんとかやりくりしています。

一方、今回の需給バランスが崩れた原因を作った北米におけるシェール業者の活動ですが、生産は若干減りつつあります。

リグの本数を減らし、休止したリグから消耗品などを引っぺがし、それを稼働しているリグに流用するというようなカンニバライゼーションを行っています。

これはゆくゆく、それらの休止リグが永遠に再始動できなくなることを意味します。ただそれは未だずっと先の話です。

目先は、第4四半期にかけてリグへの先行投資は一層減額され、さらに2016年第1四半期もリグ活動は更に悪化することが予想されます。過剰設備は2016年を通じて解消されないと思われます。

シェールオイル業者のキャッシュフローは、どこもカツカツになってきています。このため2016年はメンテナンスのための投資も絞り込まれると思います。

そのことは若し原油価格が2016年のどこかで底打ちした場合、生産再開が遅れることを意味します。このため2017年にかけて原油価格が急反発するシナリオも、全くないとはいえません。

さて、欧州、東欧に目を転じると、ロシアは経済危機にもかかわらず、高水準のリグ活動を維持しています。カザフスタン、ウズベキスタンも頑張っています。

北海油田はリグ活動が縮小しています。

アフリカに目を転じると、ガボンだけは良いですが、チャド、アンゴラ、ナイジェリア、リビアでは軒並みリグ活動が鈍化しています。

話を中東に戻すと、政府支出の引締めの必要がいま各国で認識されはじめています。

中東の国の中には所得税が無い国や医療費が完全に無料な国もあります。またお役所が縁故採用などで必要もない人員を採用し、お給料を払うことで、実質的なばらまきをおこなうための、名ばかりの公務員を採用しているケースも多いです。

サウジアラビアでは地中から油を汲み上げるコストは、まだまだ安いです。それのことをリフティング・コストといいます。

でもリフティング・コストが安い事と、国の予算の均衡は、ぜんぜん関係ありません。

つまり国が国民にたいしていろいろな福利厚生や給与や恩給を約束してしまっているので、その予算を黒字に維持するために必要な原油価格は、リフティング・コストよりもっとずっと高いのです。

実際、サウジアラビアは政府が財政黒字になるために必要な原油価格は106ドルです。

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サウジアラビアの場合、税収の75%以上は原油に課せられたロイヤリティーです。現在の原油価格はサウジ政府の財政均衡原油価格の約半分なので、政府は怒涛の勢いで赤字を垂れ流しています。

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サウジ国民は所得税が無税です。消費税も無税です。厚生年金払込金に相当するソーシャル・セキュリティは18%で、うち会社が9%、社員が9%負担となっています。ザカートと呼ばれる資産税2.5%がかかります。

そこで財政バッファーという概念が脚光をあびています。その定義は、今年の財政赤字額がそのまま続くと何年で政府の資産(貯金)がゼロになるか? です。

サウジの場合、あと6年でソブリン・ウエルス・ファンドがカラッポになります。

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これは言い換えれば、貯金が取り崩されている様子です。

サウジ通貨庁の純対外資産のピークは2014年で7,243億ドル、換言すれは88兆円でした。2015年にはそれが6,598億ドル、つまり80兆円に下がる見込みです。率にして前年比-8.9%です。2016年にはさらにそれが6,166億ドル、つまり75兆円にまで下がる見込みです。率にして前年比-6%です。

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言い換えれば毎年5兆円程度の売り圧力になるわけです。

勿論これは株式や債券を含めた全てのポートフォリオなので日本株部分はその6%程度、つまり年間で3600億円程度だと思います。

このようなSWFへのプレッシャーに加えて中東産油国ではいま銀行の手持ち流動資産が減るという現象が起きています。これはどうしてかと言えば、政府が石油を売却した代金をこれまで国内の銀行に預金していたのが、原油価格の下落で預金額が減ったからです。このため銀行が貸付に回せる資金がショートしているのです。

それではどうすれば産油国は財政の改善が出来るのでしょうか? 別に財政の切詰めや増税だけで均衡財政を実現しようとするのではなく、国債を発行するという手もあると思います。

海外での起債も視野に入れる必要があると思います。

これは産油国が米国財務省証券などの買い手の立場から、逆にお金の借り手の立場に転じることを意味します。それは引締めの効果を持ちます。

PS:中東の経済見通しに関しては、IMFが例年、とても素晴らしいカンファレンスをプロデュースしています。下はその動画。MCはアル・アラビヤのララ・ハビーブ(赤い服の女性)だけど、彼女は本当によく予習しています。