エリン・キャランはリーマン・ブラザーズが倒産する直前の2008年上半期、半年間だけ同社のCFOを務めた女性です。『Full Circle』は彼女のウォール街でのキャリアの回顧録です。



リーマン・ブラザーズの倒産は世界経済を揺さぶりました。

その震源地で、パーフェクト・ストームのど真ん中に放り込まれた彼女が、ひとりの人間として、そのとき何を感じ、どう行動したか? が本書では克明に綴られています。

当時、エリン・キャランはウォール街で最も高い地位に上り詰めた女性でした。

頼んでもいないのに、セレブとして持ち上げられたかと思うと、その直後、金融危機がどんどん深刻化する中で一転して無能のレッテルを貼られ、さらにヘッジファンドから激しい誹謗中傷のターゲットにされました。

彼女は、2008年3月18日の、「運命のカンファレンスコール」を一人で仕切ったことで有名です。リーマンのカンファレンスコール直前に、一足先に経営危機に瀕していたベアスターンズが、財務省のアレンジで、僅か一株当たり2ドルでJPモルガンに救済買収されました。

急転直下で事態が深刻化したので、カンファレンスコールの直前の週末に、リーマンでは会計事務所、顧問弁護士、IRチームなどが休日返上でカンファレンスコールの内容の練り直しに取り組みます。

翌3月17日の月曜日、リーマンの株価が大暴落を演じ、18日のカンファレンスコールには1万人以上の参加者がダイヤルインします。

この社運を賭けたカンファレンスコールを、リーマン・ブラザーズのディック・ファルドCEOは「グッドラック!」のひとことを残して、エリンひとりに任せます。



本書は、(投資銀行に就職したい!)と考えている学生が是非読むべき本だと思います。なぜなら実際に投資銀行に勤めるということは、どういう体験なのか? ということを知ることができるからです。

エリン・キャランの語り口は淡々としていて、「盛った」ところがありません。自分が当惑した局面は、正直にそう書いてあるし、嬉しかったことや悲しかったことも包み隠しなく吐露しています。

たとえば投資銀行はチームプレーではなく、個人プレーの場所であることが説明されているし、競争心が無ければ勤まらないことも書かれています。次々に降りかかってくるチャレンジに打ち克つ中で、だんだん仕事とプライベートのバランスが完全に壊れてしまう様子も良くわかります。

僕にとっても、本書は身につまされる部分が多かったです。(ああ、本当に、この通りなんだよなぁ)と思う箇所が幾つも出てきました。

その意味で(なぜ自分はもう投資銀行の世界に戻らないのか?)という理由をリマインドしてくれる本でした。