エクソン・モービル(ティッカーシンボル:XOM)とシェブロン(ティッカーシンボル:CVX)は、親戚関係にある会社です。
その理由は、どちらもルーツがスタンダード石油だからです。スタンダード石油は言うまでもなく、ロックフェラーの会社です。
その後、スタンダード石油は独禁法の見地からバラバラに分割されました。そしてスタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー(エッソ)がエクソンに、スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(ソーカル)がシェブロンへと社名変更したわけです。
ジョンD.ロックフェラーは、たいへんソロバンの立つ男でした。彼は「石油のビジネスは市況変動に振り回されるので、常に鉄壁のバランスシートを維持すべきだ」と考えました。
そういう保守的な経営を貫いていたからこそ、市況が暗転し、ライバル企業が続々倒産したとき、ロックフェラーはそれらのライバルを安値で買い叩くことができたのです。
だから我々投資家としてはロックフェラーの「あくどいやり方」を批判する前に、ロックフェラーの財務的なコンサーバティズムを、しっかり研究しなければいけないのです。
エクソン・モービルとシェブロンは、そういうロックフェラーの財務管理のDNAを継承しています。
シェブロンとエクソンの川上部門の中でも、アラムコはクラウン・ジュエル(戴冠式などで捧げられる王冠にはめられた宝石=最も魅力ある事業部を指す)でした。
しかしオイル・ナショナリズムの機運が高まり、シェブロン、エクソンらは段階的にアラムコの資産をサウジアラビア政府に移譲しなければいけなくなったのです。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は石油への依存から脱却するため「ビジョン2030」を打ち出しました。
サウジアラビアが産業の多角化を進めてゆく上で、その先行投資の原資になるのが、サウジ・アラムコの新規株式公開(IPO)で得られるキャッシュです。
だから「ビジョン2030」を成功させるには、まずサウジ・アラムコのIPOを成功させないといけません。早ければ来年、遅くても2018年までにはIPOを完了したい考えで、既に主幹事にはJPモルガンが指名されています。
サウジ・アラムコは非公開会社なので、現時点での情報開示は限られています。でもそこで知られている事は、次のようなことです。
いま、比較のために世界最大の上場石油株であるエクソン・モービルのデータも示すと:
となっています。するとサウジ・アラムコとエクソン・モービルの規模の比較は:
ということになります。言い換えればサウジ・アラムコのIPOに際して売出価格を決める際、確認埋蔵量を基準にバリュエーションを決めたら、現在の生産高をベースにするより4.6倍も有利な妥当価格が導き出せるということなのです。
しかし……
市場は、そういう計算方法では納得しません。なぜなら石油株は「原油価格が低迷しているときは配当利回りを手掛かりに売買され、原油価格が高騰しているときは含み、すなわち確認埋蔵量×原油価格を手掛かりに売買される」という習性があるからです。
現在は原油価格が低迷しているので、当然、オイル・メジャーの株は配当利回りを手掛かりに売買されています。
その理由は、どちらもルーツがスタンダード石油だからです。スタンダード石油は言うまでもなく、ロックフェラーの会社です。
その後、スタンダード石油は独禁法の見地からバラバラに分割されました。そしてスタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー(エッソ)がエクソンに、スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(ソーカル)がシェブロンへと社名変更したわけです。
ジョンD.ロックフェラーは、たいへんソロバンの立つ男でした。彼は「石油のビジネスは市況変動に振り回されるので、常に鉄壁のバランスシートを維持すべきだ」と考えました。
そういう保守的な経営を貫いていたからこそ、市況が暗転し、ライバル企業が続々倒産したとき、ロックフェラーはそれらのライバルを安値で買い叩くことができたのです。
だから我々投資家としてはロックフェラーの「あくどいやり方」を批判する前に、ロックフェラーの財務的なコンサーバティズムを、しっかり研究しなければいけないのです。
エクソン・モービルとシェブロンは、そういうロックフェラーの財務管理のDNAを継承しています。
シェブロンとエクソンの川上部門の中でも、アラムコはクラウン・ジュエル(戴冠式などで捧げられる王冠にはめられた宝石=最も魅力ある事業部を指す)でした。
しかしオイル・ナショナリズムの機運が高まり、シェブロン、エクソンらは段階的にアラムコの資産をサウジアラビア政府に移譲しなければいけなくなったのです。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は石油への依存から脱却するため「ビジョン2030」を打ち出しました。
サウジアラビアが産業の多角化を進めてゆく上で、その先行投資の原資になるのが、サウジ・アラムコの新規株式公開(IPO)で得られるキャッシュです。
だから「ビジョン2030」を成功させるには、まずサウジ・アラムコのIPOを成功させないといけません。早ければ来年、遅くても2018年までにはIPOを完了したい考えで、既に主幹事にはJPモルガンが指名されています。
サウジ・アラムコは非公開会社なので、現時点での情報開示は限られています。でもそこで知られている事は、次のようなことです。
サウジ・アラムコの確認埋蔵量:2,611億バレル(石油のみ)
サウジ・アラムコの1日当たり原油生産高:950万バレル
いま、比較のために世界最大の上場石油株であるエクソン・モービルのデータも示すと:
エクソン・モービルの確認埋蔵量:248億バレル(石油+天然ガス、BOEベース)
エクソン・モービルの1日当たり原油生産高:410万バレル
となっています。するとサウジ・アラムコとエクソン・モービルの規模の比較は:
確認埋蔵量 = 10.5倍
1日当たり原油生産高 = 2.3倍
ということになります。言い換えればサウジ・アラムコのIPOに際して売出価格を決める際、確認埋蔵量を基準にバリュエーションを決めたら、現在の生産高をベースにするより4.6倍も有利な妥当価格が導き出せるということなのです。
しかし……
市場は、そういう計算方法では納得しません。なぜなら石油株は「原油価格が低迷しているときは配当利回りを手掛かりに売買され、原油価格が高騰しているときは含み、すなわち確認埋蔵量×原油価格を手掛かりに売買される」という習性があるからです。
現在は原油価格が低迷しているので、当然、オイル・メジャーの株は配当利回りを手掛かりに売買されています。
配当を出すには、まず配当原資となる利益を出さないといけないし、利益を出すには当期の原油生産高がカギを握ります。
するとサウジ・アラムコの場合、確認埋蔵量の多さに比べて原油生産高は比較的小さいので、1日当たり原油生産高の尺度を基準にIPO売出価格を決められては不利なわけです。
でもこればっかりはマーケットが実勢価格を決めることなので、市場に文句を言ってもしょうがないわけです。
するとサウジ・アラムコが有利な値段でIPOを売り出そうとすれば、やることは唯一つ、それは原油価格を高く導くことです。これは……サウジなら簡単に演出できることです。なぜならサウジはアメリカ、ロシアと並んで世界最大級の原油生産国ですから、その生産をちょっと絞ってやればいいわけです。
もちろん、サウジはイランとのマーケットシェア競争をやっているので「生産を絞るのは、どうかな?」という声もあるでしょう。
しかしサウジがちょっと生産を絞り、原油価格を吊り上げ、その結果、高値でサウジ・アラムコの株価を値決め出来ることにより政府に転がり込んでくる資金は、みみっちいマーケットシェア争いで奪う石油販売代金の数十倍から数百倍にものぼると予想されます。
つまりマーケットシェア争いを継続する経済的合理性はIPOが近づくにつれて霧散するのです。
JPモルガンら引受業者が今やらないといけないことは、ただひとつ。それはコンプ(comps=比較対象)となる企業の株価をテコ入れすることです。
サウジ・アラムコのコンプは、冒頭で述べたように、その歴史的経緯から考えて、当然、シェブロンとエクソン・モービルであるべきです。
「シェブロンとエクソンに、買い手口を出してくれ!」というリクエストが、当然、シンジケート部長から株式営業部長へと出されるわけです。
勿論、サウジ・アラムコはいろいろサウジ国内の利権も絡んでいるし、それを上場するとなると面白く思わない王族も居るでしょう。
だからサウジ・アラムコのIPOは難航するリスクもあります。
ところで先日、ナイミ石油相が解任されたのは、別に彼の政策がムハンマド・ビン・サルマン副皇太子の心証を害したからではありません。
ナイミ石油相は過去20年に渡ってサウジ石油相を務めてきただけでなく、実質的なOPECのリーダーとして君臨してきたわけで、その功績はムハンマド・ビン・サルマン副皇太子も良く理解していると思います。
今回の人事刷新は、だから「ナイミ石油相の評価がどうだ?」という問題ではなく、サウジ社会がこれから直面しなければいけない変革の困難さを象徴する出来事なのです。
今回の組織改編はサウジのエネルギー政策がもっと俊敏に動けるようにするためには不可欠な改革であり、既にシグナルされてきた「ビジョン2030」に沿った、計画通りの措置です。
グローバルな石油市場は、もう昔の既成概念で捉える事は出来ません。なぜならシェール革命も起きてしまったし、太陽光発電も登場しているし、テスラ・モーターズのような電気自動車も既に軌道に乗っているからです。
新しくエネルギー工業鉱物資源相に就任するカーリッド・アル・ファレは、ナイミより25歳若いです。カーリッド・アル・ファレの人脈は凄いし、サウジ・アラムコ会長として業界の重鎮であることは誰もが認めるところで、経歴に遜色は無いです。
サウジ国内には、いま様々な国内問題が噴出しています。これまで石油に依存し過ぎてきたため、サウジには様々な産業が育っていません。だから若者の働き口も少ないのです。若者の失業率が30%近くあるということは、だから好景気・不景気の問題ではなく、そもそも産業構造の問題でもあるのです。
「ビジョン2030」は、そうした歪んだ経済構造を是正するためのロードマップなのです。
言い換えれば「ビジョン2030」はサウジの若者たちに「キミらの未来は明るい」ということを示す必要から打ち出されたメッセージであり、こういうメッセージでなければ、「アラブの春」のようなデモ行進の嵐が、サウジアラビアに吹き荒れるリスクもあるのです。
歴史家トクヴィルは、かつてこう言いました。

つまり「ビジョン2030」がズッコケて、サウジアラビアがエジプトのタハリール広場のような惨状を呈するシナリオにも、我々は備えておくべきです。
そのとき、原油価格はどうなるかって? (笑)
そりゃ、当然、上です、上。
するとサウジ・アラムコの場合、確認埋蔵量の多さに比べて原油生産高は比較的小さいので、1日当たり原油生産高の尺度を基準にIPO売出価格を決められては不利なわけです。
でもこればっかりはマーケットが実勢価格を決めることなので、市場に文句を言ってもしょうがないわけです。
するとサウジ・アラムコが有利な値段でIPOを売り出そうとすれば、やることは唯一つ、それは原油価格を高く導くことです。これは……サウジなら簡単に演出できることです。なぜならサウジはアメリカ、ロシアと並んで世界最大級の原油生産国ですから、その生産をちょっと絞ってやればいいわけです。
もちろん、サウジはイランとのマーケットシェア競争をやっているので「生産を絞るのは、どうかな?」という声もあるでしょう。
しかしサウジがちょっと生産を絞り、原油価格を吊り上げ、その結果、高値でサウジ・アラムコの株価を値決め出来ることにより政府に転がり込んでくる資金は、みみっちいマーケットシェア争いで奪う石油販売代金の数十倍から数百倍にものぼると予想されます。
つまりマーケットシェア争いを継続する経済的合理性はIPOが近づくにつれて霧散するのです。
JPモルガンら引受業者が今やらないといけないことは、ただひとつ。それはコンプ(comps=比較対象)となる企業の株価をテコ入れすることです。
サウジ・アラムコのコンプは、冒頭で述べたように、その歴史的経緯から考えて、当然、シェブロンとエクソン・モービルであるべきです。
「シェブロンとエクソンに、買い手口を出してくれ!」というリクエストが、当然、シンジケート部長から株式営業部長へと出されるわけです。
勿論、サウジ・アラムコはいろいろサウジ国内の利権も絡んでいるし、それを上場するとなると面白く思わない王族も居るでしょう。
だからサウジ・アラムコのIPOは難航するリスクもあります。
ところで先日、ナイミ石油相が解任されたのは、別に彼の政策がムハンマド・ビン・サルマン副皇太子の心証を害したからではありません。
ナイミ石油相は過去20年に渡ってサウジ石油相を務めてきただけでなく、実質的なOPECのリーダーとして君臨してきたわけで、その功績はムハンマド・ビン・サルマン副皇太子も良く理解していると思います。
今回の人事刷新は、だから「ナイミ石油相の評価がどうだ?」という問題ではなく、サウジ社会がこれから直面しなければいけない変革の困難さを象徴する出来事なのです。
今回の組織改編はサウジのエネルギー政策がもっと俊敏に動けるようにするためには不可欠な改革であり、既にシグナルされてきた「ビジョン2030」に沿った、計画通りの措置です。
グローバルな石油市場は、もう昔の既成概念で捉える事は出来ません。なぜならシェール革命も起きてしまったし、太陽光発電も登場しているし、テスラ・モーターズのような電気自動車も既に軌道に乗っているからです。
新しくエネルギー工業鉱物資源相に就任するカーリッド・アル・ファレは、ナイミより25歳若いです。カーリッド・アル・ファレの人脈は凄いし、サウジ・アラムコ会長として業界の重鎮であることは誰もが認めるところで、経歴に遜色は無いです。
サウジ国内には、いま様々な国内問題が噴出しています。これまで石油に依存し過ぎてきたため、サウジには様々な産業が育っていません。だから若者の働き口も少ないのです。若者の失業率が30%近くあるということは、だから好景気・不景気の問題ではなく、そもそも産業構造の問題でもあるのです。
「ビジョン2030」は、そうした歪んだ経済構造を是正するためのロードマップなのです。
言い換えれば「ビジョン2030」はサウジの若者たちに「キミらの未来は明るい」ということを示す必要から打ち出されたメッセージであり、こういうメッセージでなければ、「アラブの春」のようなデモ行進の嵐が、サウジアラビアに吹き荒れるリスクもあるのです。
歴史家トクヴィルは、かつてこう言いました。
“The most perilous moment for a bad government is one when it seeks to mend its ways.”
― Alexis de Tocqueville
「悪い政府が心を入れ替えて政治を良くしようと試みるときほど、危険なときはない」

つまり「ビジョン2030」がズッコケて、サウジアラビアがエジプトのタハリール広場のような惨状を呈するシナリオにも、我々は備えておくべきです。
そのとき、原油価格はどうなるかって? (笑)
そりゃ、当然、上です、上。