LINEの田端信太郎上席執行役員によると「今やスマホがファースト・スクリーンになった」そうです。

それはつまりユーザーはスマホから、フェイスブックなどのSNSを通じて世界のニュースを取得するということを意味します。

それだけiPhone、Facebook、Twitter、Googleなどの影響力が増しているわけですが、この影響力の増加とともに、これらの媒体が負う責務も大きくなっていると思います。

今回の米大統領選挙では「ローマ法王がトランプを正式に支持した」とか「クリントン財団が寄付されたおカネで100億円を超える武器を購入した」などのねつ造記事がSNSでシェアされ、フェイスブックでトレンドしたほか、グーグル検索最上位に登場しました。

このような悪意に満ちた「仕掛け」に対する上記企業の対応は、「ぬるい」です。

ツイッターは11月15日、ヘイト(憎悪)のリプを飛ばすアカウントに対し、特定のワードを使用したら、ブロックするフィーチャーを発表しました。

フェイスブックは、ねつ造記事をあたかも真実のように装って流すサイトが「宣伝する」ことを出来なくする措置を発表しました。

グーグルの場合、先週末、右翼サイトが「大統領選挙の一般投票でトランプの得票数がクリントンを上回った」という虚偽のニュースを流し、それが検索最上位に来てしまったのを契機に、「今後、ねつ造記事を流すサイトは、アドセンスの利用を禁止する」と発表しました。

これらのネット企業がヘイトやガセのサイトを放置するのは「言論の自由を守るためだ」とこれまでは説明されてきました。

しかしフェイスブックはねつ造記事がそれをFB上でプロモートすることで売上高が増えますし、グーグルもアドセンスで儲かります。つまりヘイトやガセネタの放置には、売上高を伸ばすことに対する投資家からのプレッシャーがあるのです。

さらに言えば、これらの企業は「AIによって不適切なコンテンツを排除する」と言っていますが、いまのところAIは殆ど役に立っていません。グーグルの親会社、アルファベットのスンダー・ピチャイCEOは先日の決算カンファレンスコールで「AIが役に立つまでの道のりは長い」と、不本意な成果しか上がっていないことを認めました。


実はメディアと虚偽のニュースの歴史は古いです。

南北戦争後、アメリカでは新聞が飛躍期を迎え、ウイリアム・ランドル・ハーストやジョセフ・ピューリツァーなどの新聞王が部数競争をやりました。そこでイエロージャーナリズムと呼ばれる、煽り記事が連発されたのです。

1897年に「アメリカ人婦人がスペイン警察によりハダカにされた!」というねつ造記事で米国の世論は激昂しました。これは戦功をあげることにウズウズしていたテディー・ルーズベルトにとってまたとない口実を提供し、ここに米西戦争が始まるわけです。

第二次世界大戦後、アメリカとソ連が冷戦に突入すると、ジョセフ・マッカーシー上院議員は「共産主義にかぶれているヤツを徹底的にあぶりだす」ということを打ち出します。

公務員、学校の教員、労働組合の組員などに対し、詮索の矛先が向かったわけですが、なかでもハリウッドの映画産業には激しい「赤狩り」が吹き荒れました。

下院は下院非米運動委員会(HUAC)という調査委員会を組織し、疑わしいと思われる俳優、脚本家などを次々と議会に喚問します。(ところでこの下院非米運動委員会というのは、とても悪い翻訳であり、正しくは「アメリカ的でない活動を調査する下院委員会」と訳すべきです)

そして「言論の自由」の見地から証言を拒んだアーチストたちは、政府からの干渉を恐れた映画会社から仕事を締め出されてしまいます。

『ローマの休日』の脚本を書いたダルトン・トランボは、ボイコットにより本名が使えなくなったので、ゴーストライターとして地下に潜ることを強いられます。そのへんの経緯はちょっと前に公開された映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』に活写されています。

このような「赤狩り」に勇敢に立ち上がったハリウッド関係者もいます。ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール、ヘンリー・フォンダ、ジーン・ケリー、ジュディ・ガーランド、キャサリン・ヘップバーンなどがそうです。

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なお当時上院議員に立候補していたリチャード・ニクソンもマッカーシー同様、「赤狩り」に情熱を燃やします。(ニクソンの場合、アルジャー・ヒスが本当にスパイ行為を働いていたことを暴くことに成功します)

なお、この「赤狩り」を通じてローゼンバーグ夫妻を電気椅子に送ったのが、ドナルド・トランプの師匠、ロイ・コーンです。

1950年代にテレビがお茶の間に普及すると言論の自由をめぐるバトルはテレビにシフトします。テレビへの圧力に危機感を抱いたCBSのエド・マローは『See It Now』という番組でマッカーシーを糾弾します。このエピソードは映画『グッドナイト&グッドラック』になっています。

このように新しいメディアが登場するたびに、それは悪意あるユーザーによって利用されてきました。なぜならそれを取り締まる倫理規定や法制度はテクノロジーの進化に遅行するからです。

ネットやSNSがとりわけ難しいのは、いまは誰でもニュースを発信できるようになったので、ねつ造記事もホイホイ量産できるという点です。

しかもそれらの記事はシェアされ、拡散されます。

大半のユーザーは、いま自分がシェアしているニュースの真偽を判断するだけの眼力を持っていません。すると著名人がシェアしている記事を、鵜呑みにしてしまうのです。

別の言い方をすれば、著名人の「シェア」や「リツイート」が、ある種の「お墨付き」になってしまうということです。

これは恐ろしいことです。

ネット企業がAIのちからによってねつ造記事をブロックするところまで来てない以上、劣悪な情報とちゃんとした情報のフィルターの役目を果たしているのは、拡散力を有している著名人やメディアなど、フォロワー数の多いオピニオン・リーダーだけということになります。

フォロワー数が多い事は、すなわち影響力を行使することが出来ることを意味します。その影響力には、重い責任がついてまわるのです。