ドナルド・トランプは大統領選挙戦を通じて「中国からの輸入品に45%の関税をかけろ!」ということを主張してきました。大統領に当選した後も、ツイッターで保護貿易主義の主張を繰り返しています。

ウォール街関係者は「あれは無知な有権者の歓心を買うためのポーズであり、いずれ矛先を収めるだろう」と信じています。しかしトランプがトーンダウンする様子を見せないので、だんだん居心地が悪くなり始めています。

中国からの輸入品に高い関税をかけたところで、アメリカの製造業ならびにそこに雇われている労働者の境遇は良くならないと思います。

なぜなら、過去にそれは実地で試され、大失敗しているからです。それは1930年6月に成立したスムート・ホーレー関税法です。

同法案は当時上院財政委員長を務めていたリード・スムートと下院歳入委員長を務めていたウイリス・ホーレーが起草した法律で、一部の輸入品に59.1%の関税をかけました。

この法案が成立した直後は「これで外国からの競争が減る」と思った経営者が雇用を増やし、増産したので、ほんの束の間、経済指標は上向きました。

しかし諸外国は「アメリカが我々の製品に関税をかけるのなら、我々もアメリカの輸出品に関税をかける」という報復措置を行い、たちまち世界の貿易はストップしてしまいました。この結果、1929年から1934年にかけて世界の貿易は-66%も減少しました。

フランクリンD.ルーズベルト大統領は4年後に民主党が中心となって策定した互恵貿易協定法に署名し、スムート・ホーレー関税法を葬り去りました。

今回のトランプの関税提言に関し、ピーターソン国際経済研究所は「もし保護貿易主義が実施されれば、米国はリセッションに陥り、新たに480万人の失業者が出る」と試算しています。

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とくに打撃を受ける産業として、建設機械、鉄鋼、半導体製造装置、ポンプ、タービン、トラック、コンプレッサー、アルミニューム、トランスミッションを挙げています。

また州別ではシアトルのあるワシントン州、カリフォルニア州、コネチカット州が最も悪影響を受けるとしています。

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アメリカの産業はインターネットやバイオテクノロジーの例を出すまでもなく、どんどん知識集約的な分野への傾斜を強めています。その過程において昔風の教育やトレーニングを受けた人間は「使い物にならない(unemployable)」という問題が起きています。

この人材のミスマッチは確かに存在するし、簡単には是正することが出来ない深刻な問題です。

しかし輸入品に関税をかけることで「時計を止めて」、わざわざ競争力に欠ける米国国内の産業や労働者を保護しようとするのは空しい試みでしょう。

スキルの問題に関し、ミルトン・フリードマンは次のような例で説明しています。

いまかりにある弁護士が自分の秘書より二倍も速くタイプを打つことが出来るとしよう。この弁護士は秘書をクビにして自分でタイプを打つべきだろうか?

そうではない。

その弁護士が秘書よりも、タイピストとしては二倍しか早くないが、弁護士としては5倍も有能だというのであれば、弁護士はその職業に集中し、秘書には手紙をタイプさせたほうが、どちらもより利益を得ることになる。

(出典:『選択の自由』、M&Rフリードマン)

つまりアメリカは国際的な役割分担の中で最も付加価値を生むことができる仕事に集中すべきであり、それによって国内に「敗者」が生じた場合は、時間と労力がかかっても再教育と新しいスキルのトレーニングを施すべきなのであり、時計を止めることが解決法ではないのです。


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