最近、国境税調整(Border Tax Adjustment)という言葉をしばしば目にするようになりました。

メディアによって、この問題への感応度には差があるけれど、CNBCあたりが一番、ギャアギャア言っています。

それにしても「国境税」ではなく「国境税調整」って……?

セントルイス連銀のジェームズ・ブラードも「みんな、突然、国境税調整、国境税調整とヤカマシイけど、ハッキリ言って、オレなんかトランプが大統領に当選するまで、国境税調整なんて言葉は耳にしたことはないぞぉ!」とドヤ顔で開き直っていました(笑)

そのくらい新しいコンセプトなのです。

国境税調整(Border Tax Adjustment)は去年の6月に下院の共和党が税制改革下院案(A Better Way)を発表した際、税制改革案の、ひとつの目玉として盛り込まれた概念です。

輸入品には20%の国境税調整を課し、一方、米国内の企業が法人税を払うときは:

(米国内の売上高)-(米国内で発生した費用)=国内利益


で計算される国内利益だけに20%の法人税を当てはめようという考え方です。

早い話、「輸入品には20%の関税がかかり、米国企業が輸出して得た利益は無税になる」ということです。

「関税」という言葉を避けて、敢えて使わないのは、ある種のEuphemismであり、『ハリー・ポッター』で言えば「例のあの人(you know who)」の世界なのです。

それをあからさまに「関税」と言うと、中国やWTOから睨まれるので(もう睨まれてますけど)、あえて遠回しな表現にしたというわけです。

米国の法人税は、いわゆるワールドワイド課税システム(Worldwide tax system)と呼ばれる原則が使用されています。

これに対して殆どの諸外国は源泉地国課税(Territorial Tax System)と呼ばれる制度を採用しています。これは国内での利益には課税するけれど、企業が海外で儲けた分に関しては関知しないという制度です。

その代り諸外国は付加価値税(VAT)を導入しています。

すると原材料が部品となり、部品が完成品に仕上げられるまでの過程で、何度も付加価値が加えられ、その度ごとに税コストを織り込んでしまいます

これでは外国製品に比べて競争力が無くなってしまうので「もしこの商品が輸出向けなら、VATを払い戻します」という特例を設けています。

つまりアメリカの税制は輸出には不利に作ってあり、その逆に輸入品は素通りで、開けっ広げで、ヤリマンされ放題になってしまっているのです。

さらにアメリカ企業が海外で稼いだ利益をアメリカ国内に戻そうとすると、その利益に対して税金を払う羽目に陥ります。

企業が2兆ドルにものぼる海外利益を海外に貯め込んだままにしてあるのはそのためです。

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企業が稼いだお金を本業に再投資するという本来、当たり前の循環が、上に述べたような税制が原因で、断ち切られてしまっているわけです。

米国企業は、利益をアメリカに還流させず、その代りアイルランドに代表される税率の低い国の小さな企業を買収し、その買収先企業の所在地を本社とする、いわゆるインバージョン(倒置)取引を盛んに行うようになりました。

これは企業版の「篭脱け」です。

国境税調整には、いまのところ小売業者が、一番声高に反対を唱えています。先週フロリダで行われたICRカンファレンスでも、国境税調整の話題で持ちきりでした。

外国からの安い製品を輸入し、それを売ることで儲けている小売業にとってみると、輸入品のコストがいきなり一律20%上昇することを意味します

これは言い換えればアメリカの消費者に対し20%の消費税を課すことになります。これはアメリカ国内のインフレ要因になります。

また最終的な販売価格が20%増えると、それを消費者が一時的に買わなくなることも懸念されます。ウォルマートのような、薄利多売の商売をしている企業は、売上トレンドに少しでも変調が見られれば、株価は下がります。

もちろん中長期では米国内の雇用が増え、賃金が上昇することによりアメリカの消費者の購買力は一定が保たれると思うので需要は変わらないと思いますが、そこへ到達するまでの道のりは平坦ではないわけです。

国境税調整はドル高要因だと考えられています。ドル高が、上に書いた輸入価格の上昇を、ある程度相殺するとも考えられます。

アメリカがおもに輸入しているのは、アパレル、コンピュータ、自動車、電子機器、金属、テキスタイル、プラスチックなどになります。

いま2016年第4四半期の決算発表シーズンが始まっているわけですが、上記の業種に属する企業が、決算カンファレンスコールで国境税調整に関し、どのようなコメントをするかに注目したいと思います。

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