アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)に代表されるネット・ショッピングの普及で米国のショッピングモールが存亡の危機に晒されています。

不動産サービス会社、クシマン&ウエイクフィールドによると、去年のクリスマス商戦期間の小売売上高が前年比+4%だったのに対し、ネット・ショッピングは+20%で成長しました。米国の小売売上高に占めるネット・ショッピングの比率は2009年第1四半期の4.2%から2016年第3四半期は8.4%に増えました。同社は「アメリカの消費者は2010年に3500万回ショッピングモールを訪れた。2013年にはそれが僅か1700万回になった」と指摘しています。

このような来店客減でメーシーズ(ティッカーシンボル:M)、ノードストローム(ティッカーシンボル:JWN)などの百貨店の経営は苦しくなっています。メーシーズは2016年4月の時点で全米に870店舗を展開していましたが、100店舗を閉店すると発表しています。

メーシーズなどの百貨店は普通、郊外のショッピングモールにアンカー・ストアとして出店しています。アンカー・ストアとは、ショッピングモールの両端に配置された大きな店舗を指します。アンカー・ストアがショッピングモールの集客力を保証し、そこから上がる大きなテナント料がショッピングモールの大家さんの収入の安定に寄与するわけです。

このようなショッピングモールのコンセプトを考案したのはビクター・グルエンです。グルエンはウイーン生まれの建築家ですが1938年にナチスがオーストリアを占領したときアメリカへ亡命しました。そして1956年にアメリカで最初のショッピングモールをミネソタ州にオープンします。

サウスデールと名付けられたこのショッピングモールは百貨店デイトンズ、ならびにドナルドソンズをアンカー・ストアとしていました。この二つの百貨店を両端に配置し、その間を72の専門店で結んだのです。



ショッピングモールが出現する前のアメリカは、ストリップモールと呼ばれる道路沿いの商店街が中心でした。それぞれの店は大きな看板を掲げ、店の前に駐車スペースを持っていました。

この方式だと買い物客はひとつの買い物を済ませて次のお店に行く際、いちいちクルマに乗って移動しなければいけません。

ショッピングモールは、一度クルマを駐車すると、エアコンの効いた屋内を徒歩で次々に回れるという快適さと効率の良さを実現しました。

もうひとつ、インドア型ショッピングモールの持つ良い点としては、夜間の防犯上のリスクが比較的すくないため、店舗をガラス張りにし、モールを歩いている消費者に商品が見えやすいということがありました。

またショッピングモール内にフードコートを設け、食事もできるようにしたことで、ゆっくりショッピングを楽しむことを可能にしたのです。

ショッピングモールの大家さんはテナント料の一部が、その店の売上高に連動している関係で、出店しているお店が売り上げ好調であるほど、大家さんの家賃収入も増えるという仕組みになっています。

このため大家さんは成功しそうな専門店から優先的にテナント契約を結び、地元の、名前の知られていない零細なお店はショッピングモールに出店しにくい環境が醸成されました。これはザ・リミテッドやGAPなど、全国的に知られている有名な専門店が優先的に出店し、アメリカ中のショッピングモールが、「何処へ行っても同じような店ばかり」という画一化を招く一因となります。

しかしこのようなショッピングモールのエコシステムは、がっちりとしているようで、それが逆流しはじめると脆い構造になっています。

アンカー・ストアは売り場面積が大きい分だけ、ちょっとした売上高の減少は在庫増、固定費負担などが重くのしかかり経営不振に陥りがちです。実際、モンゴメリー・ウォード、マーヴィンズ、マーシャル・フィールズ、シアーズなどは経営危機に陥り相次ぎ倒産、吸収、閉店の憂き目にあっています。

アンカー・ストアが撤退すると、そのショッピングモールの礎が無くなってしまうので、他の専門店も来店客の減少、売上高減、ショッピングモールのメンテナンスや景観の維持など、全てに悪循環を及ぼします。

今年、共和党は税制改革法案を審議するにあたり、国境税調整を導入することを検討しています。これは輸入品に対し、一律20%の関税を課す試みです。もしこれが実現するとアパレルや電化製品などの値段が一斉に高騰することも予想され、消費者が一時的にせよ買い控え行動に出るリスクもあります。

つまりアメリカの小売業者はアマゾンからの攻勢でショッピングモールへの出店計画を大幅に見直している真っ最中に小売業者にとって歓迎せざる国境税調整が導入される可能性があるわけで、これがショッピングモールの滅亡を加速させるのではないか? という懸念が出ているわけです。


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