アメリカに住んでいて仰天するのは、「シリアと極東は世界のトラブル・スポットだ」という風に、米国の庶民やマスコミが、極東をしばしばシリアと同列で論じる点です。

(ちょ、ちょっと待ってよ! そうじゃないでしょ? 同じセンテンスの中で言及しないでくれる?)

日本人の僕としては、そういう味噌も糞も一緒にする論調には大いに反発したくなるのですが、現実問題として、自分の危機意識が低すぎるのかも知れません。

ひとつの指標として、アメリカ軍が、国外の何処に、いちばん兵員や装備を配置しているか? といえば、それは極東です。中東でも欧州でもなく、極東。

この布陣は、アメリカ軍の世界認識を如実に示しているのではないでしょうか?

アメリカは横須賀や沖縄に駐留している米軍が核攻撃に晒される危険に、日頃からピリピリしています。

でも核攻撃の脅威があるからといって、先制攻撃をかけるか? といえば、その意欲は低い、ないしは無いに等しいと思います。

その理由は、アメリカの国民性として、まず相手から攻撃され、正統性が出来たところで反撃するという基本的態度が身についているからです。

第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、湾岸戦争も、9/11も、みんなそういうノリで、ゆっくり腰を上げる戦い方でした。

実際、アメリカ国内では戦争反対の世論も大きく、うかつに参戦を決めると、政治家は政治生命を失うリスクに晒されます。ウッドロー・ウイルソンも、フランクリン・ルーズベルトも、おおいに逡巡しました。

これはアメリカ大陸が太平洋と大西洋によって世界の他の地域から隔てられており、また国土がとてつもなく大きいので、一瞬にして地球上からアメリカを消し去ることが出来ないことからくる余裕だという風にも理解できるでしょう。

これに比べて、たとえばイスラエルは国土が狭いし、敵に囲まれているので、先に相手から攻撃されたら、反撃できないまま地球上からイスラエルという国が無くなるという切迫感を常に持っています。

イスラエルがイランやイラクの核施設に対して、果敢な先制攻撃を辞さない理由は、ファイナンスの用語で言えば「オプショナリティーが限られている」からです。

ここで言うオプショナリティーとは「最初の駒を動かしたとき(ないしは動かさなかったとき)、次にどのような選択肢が選べるか?」という意味です。

たとえばイスラエルにイランから核ミサイルが撃ち込まれて、イスラエルの核攻撃能力が全滅してしまえば、そこでGAME OVERになってしまうわけで、反撃可能性が根絶されてしまうようなポジションに自分の身を置いてはいけないのです。

ある意味、中国が南沙諸島の岩礁を要塞化しているとか、アメリカが常に原子力潜水艦をぐるぐる回航させているというのは、このオプショナリティーによるところが大きいのです。

だから先日、アメリカがトマホーク巡航ミサイルでシリアを攻撃したからといって、返す刀で北朝鮮に先制攻撃をかける……なんてシロウト臭い妄想は、持たない方が良いです。

アメリカはlong fuse、つまり短気ではなく、挑発してもなかなか乗って来ない国です。

もっと単刀直入な言い方をすれば、日本に核ミサイルが1発や2発撃ちこまれた後で、初めて重い腰を上げるという風に覚悟しておいた方が良いのです。

これは大統領のWar Power、つまり戦争を始めることが出来る権限の解釈とも密接に関係しています。たんにある国が核を持っていて、その国のリーダーがクレイジーだという理由では、先制攻撃を正当化できません。(シリアを攻撃したのは化学兵器の使用というレッドラインをシリアが超えたこと、実際にシリア国内にISIS掃討のためアメリカ軍が展開していること、という二つの条件があったので、そうしたのです)

ワイフにその話をすると「ああ、核ね。懐かしいわねぇ。私が小学校のころ、核の避難演習を、よくやらされたわ。いまから考えると、机の下に潜るなって、馬鹿げてるわね」と遠い目で言いました。



もちろん、我々は仕事もあれば学校にも通わないといけないので、核の脅威があるからと言って、日本から逃げ出すわけにはいかないと思います。

「地震、雷、火事、おやじ」……そういった通常の災難に加えて、「核」も心の準備のメニューに加えておく必要があるのかもしれません。

幸い、北朝鮮が持っている核は、威力がそれほど大きくないので、イッパツで日本が消滅するようなことはないと思います。

なによりも、そもそも核が撃ち込まれる確率自体、相当低いのではないか? と僕は考えています。

しかし、「核が降ってくるかもしれない」という、漠然とした不安は経済を陰鬱にします。そのような、経済に対するスランプ効果こそが、我々が最も気に留めなければいけないリスクなのではないか? と思っています。


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