昨日、トランプ大統領と議会のリーダー達による税制改革フレームワークが発表されました。

ここで議会のリーダー達とは、下院歳入委員会、ならびに上院財政委員会を指します。

「税制改革フレームワーク」という表現をなぜ使っているか?といえば、9ページ程度の、大雑把なポイントが書かれているにとどまり、詳細は何も明らかにされていないからです。

普通、税制に関する法案となれば、少なくとも500ページくらいの膨大な量になります。

そしてその細目のひとつひとつに関し、ダークセン上院オフィスビルの、迷路のようになっている廊下にたむろするロビイストたちは、彼らのクライアントである企業の利害を守るため、切り崩し工作にかかるわけです。

この廊下はワシントンDCのインサイダーからは「グッチの渓谷(Gucci Gulch)」と呼ばれています。なぜなら、ロビイストたちはお金持ちで身なりが良く、みんなグッチのローファーを履いているからです。

いまのところ叩き台となる法案すらない状態ですから、ロビイストたちも動きようがないわけです。

しかしひとたび下院から法案が示されれば、ロビイング活動は活発化すると思われます。

ちなみに順序としては今回示されたフレームワーク(骨子)に基づき、下院がまず法案を起草し、それを審議し、可決されたら、それが次に上院に回されます。上院で手が加えられ、可決されたら、それは再び下院に回され、可決される必要があります。そして最後に大統領がその法案に署名して、初めて成立するわけです。

だから昨日、税制改革フレームワークが発表されただけで(これはたいへんだ!)と慌てて株を買っているひとたちが居るけれど、これから先、いくつものUP & DOWNを経験することになるし、最終的な法案は、昨日示されたフレームワークとは、似ても似つかぬものになる可能性が大です。

共和党議員たちは「年末までに成立させたい」と言っていますが、1月に大統領が就任してから、既に9か月も経っているのに9ページのスカスカの骨子だけしか示すことが出来ないということは、ちゃんと仕事してないことの表れだと思います。

ちなみに前回大きな税制改革が行われたのは1980年代ですが、キックオフとなった「ブラッドレー・ゲッパート法案」が出たのは1982年8月5日、そして最終的に大統領が法案に署名したのは1986年10月22日です。

税制改革のバトルがヒートアップしたのは「レーガン大統領の税制改革プラン」が示された1985年5月29日(=これが昨日のトランプ大統領のスピーチに相当すると考えることが出来ます)ですが、そこから起算しても10か月かかっているのです。

だから今回、3か月でそれをまとめることが出来ると考えるのは、楽観的すぎるのではないでしょうか?

さらに言えば今回の法案がリコンシリエーションという方法(=51%の賛成で可決成立させるやり方)を使うのであれば、この税制改革法案は、いわゆる「レベニュー・ニュートラル(歳入中立)」、すなわちトータルとして税収が減らないものでなくてはいけません。

しかし「所得税は減税する。法人税も減税する」という風に、皆に向かって良い顔をしているので、今回の税制改革フレームワークがレベニュー・ニュートラルになる可能性はゼロです。(1986年の税制改革では、ブラッドレー・ゲッパート法案で30%と提案された法人税は、その後、引き上げられ、34%になりました)

笑ってしまったのはブルームバーグに経済学者、アート・ラッファーが出演していたことです。

ラッファーは1980年代の税制改革の議論において「税率を下げれば、景気が良くなるので逆に税収は増える」と主張(=いわゆるラッファー曲線)し、大きな影響力を持っていました。

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(出典:ウィキペディア)

しかし実際にはアメリカの財政赤字は雪だるま式に増えたのです。

それによってクレディビリティーを完全に失ったサプライサイダーたちが、最近、再び闊歩しはじめていることに、僕は哄笑を禁じ得ません。


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