【北朝鮮ではなくアメリカの「お家事情」が発端】
昨日、ボブ・コーカー上院議員(テネシー州/共和党)がニューヨーク・タイムズとのインタビューで「トランプは第三次世界大戦への道を歩んでいる」と警鐘を鳴らしました。



この発言だけを切り取って見出しをつけると、(すわアメリカが北朝鮮に先制攻撃か?)という印象を与えてしまいます。

しかしこの発言は北朝鮮と言うよりも、アメリカのトランプ政権の「お家事情」が発端となっています。

ボブ・コーカー議員は上院でも最もシニアな部類に入る議員です。彼から見れば、トランプなんて政治の素人……そういう「上から目線」でトランプをdisっている点を、まず理解してください。

つぎに来年の選挙ではコーカー議員は「もう再出馬しない」と表明しています。だから自由にモノが言える立場にあります。

三つ目のポイントとして、トランプが、いわゆるリコンシリエーションという手法で税制改革法案を可決しようと思えば、上院の共和党議員は52議席しか占めていないので、コーカー議員の支持を得ることが必要になります。

四つ目に、もしトランプがレックス・ティラーソン国務長官をクビにしたら、トランプが指名する次の国務長官候補を承認する公聴会はコーカー議員が進行を務めます。巷では、マイク・ポンペオCIA長官の名前が上がっていますが、コーカー議員はそれを妨害することが出来る立場に居るのです。しかもレックス・ティラーソン国務長官は、ボブ・コーカー議員と仲が良いです。

このように、失うものが無いコーカー議員に比べると、トランプ大統領の立場が弱いことがお分かり頂けると思います。

コーカー議員は「ホワイトハウスは託児所化している」とトランプ政権を批判しています。つまりトランプが余り突拍子もないことばかり言うので、側近がそれを抑えるのに毎日、奔走しているというわけです。政治経験の浅いトランプが、軽はずみな決断をすることで、「第三次世界大戦」の勃発を招くかもしれない……そういう文脈で、ボブ・コーカー議員の発言が出たというわけ。

【それでは極東の地政学は?】
さて、今回の発言が、もっぱらアメリカ国内のゴタゴタから発生したことがわかった上で、第三次世界大戦になるシナリオが全く無いか? と言えば、それは、あります。

北朝鮮の経済規模は、オクラホマ州タルサ市と、ほぼ同じです。

いま、戦争は究極的には経済の底力の戦いであることを考えれば、北朝鮮はアメリカにとって敵ではありません。

しかし背後に控えている隠然とした存在、つまりロシアと中国こそが、本当の相手だと言う風に見ることも出来ます。

一例として、第二次世界大戦が終わった5年後、朝鮮戦争が勃発した経緯を思い出すことが出来るでしょう。

当時、日本が負け、朝鮮半島から引き揚げたことで、朝鮮半島には「力の真空」が生じました。

そこで38度線を境として、南はアメリカに支援された韓国が、北はソ連に支援された北朝鮮が生まれたのです。

北朝鮮のリーダー、金日成は1950年6月25日、突然、38度線を破って韓国へ侵攻します。

金日成はもともとソ連の支援により政権を獲得した関係で、戦争を始めるにあたっては、まずソ連がそれに反対しないかどうかその意向を確認する必要がありました。そこで金日成はジョセフ・スターリンと接触を持ちます。

その頃、中国では毛沢東率いる中国共産党がようやく国家統一を成し遂げました。これは南北朝鮮の統一を目指す金日成にとり「一足先を越された」ことを意味し、金日成は焦ったわけです。

1950年1月に米国のディーン・アチソン国務長官が演説した際、「米国の極東における防御範囲」として、日本をはじめとする各国の名前が挙げられました。しかしアチソンはその時、うっかりして韓国の名前を挙げることを忘れてしまうのです。これはアメリカの外交史に残る失態だと言われています。

この演説を聞いたジョセフ・スターリンは金日成に対して「支援する準備がある」というメッセージを送ります。

毛沢東は、北朝鮮が韓国に侵攻した際、もし日本やアメリカが韓国に派兵したら、そのときは中国軍を派遣し北朝鮮を助けるという約束を金日成にします。

これに対しスターリンは「もし北朝鮮が韓国に侵攻したことでアメリカが出てきても、ソ連は北朝鮮を支援する軍隊は送らない。だから毛沢東に救援を仰いでほしい」というシグナルを送りました。

北朝鮮としては、すぐ近くの中国よりも、ちょうどいい距離を置いたソ連の方がパートナーとしては安心できるという考えを持っていました。

一方、中国としては韓国が戦争に勝つことで、アメリカの軍隊が中国と目と鼻の先まで進出することは避けたいと考えました。つまり「緩衝地帯」としての北朝鮮、ないしは分断されたままの朝鮮半島が、中国にとって都合の良いシナリオなのです。

さて、6月25日に南になだれ込んだ北朝鮮軍は破竹の勢いでソウルを占拠し、さらに南へと攻めて行きました。

マッカーサー元帥は、北朝鮮軍が南を攻め、ソウルの守りが手薄になっているのを見て、インチョン上陸作戦を敢行します。

二つに分断され、補給線を断たれた北朝鮮軍は勢いを失い、38度線まで押し戻されたのです。

その後、アメリカ軍は38度線を越えて一気に北朝鮮を制圧しようとします。これは毛沢東が恐れていたシナリオです。だから中国は約束通り中国軍を北朝鮮に送り込み、アメリカを叩きました。

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これで戦争は、こう着状態に陥るのです。

結局、朝鮮戦争でのアメリカの犠牲者は3万3千人、負傷者は10万人にのぼりました。一方韓国では42万人が死亡、43万人が負傷しました。北朝鮮ならびに中国軍の犠牲者は数字が公開されていませんが、アメリカ側の試算では150万人が死んだと言われています。

朝鮮半島のほぼ全体が戦場となり、激しい戦いが繰り広げられました。

そして北も南のこの戦争で領土拡大をすることは出来ず、戦争開始前の国境線である38度線が、いまでも国境になっています。

【今日と当時の違い】
さて、中国やロシアにとり、北朝鮮は重要な緩衝地帯であることは、今日も変わらないと思います。従ってアメリカが北朝鮮に攻撃をかけたら、1950年の時と同じように中国ならびにロシアを刺激することになります。これが「第三次世界大戦」のシナリオです。

ただ当時と今日の重要な違いとして、当時は共産主義対資本主義というイデオロギーの戦いがありました。

中国が市場経済へと舵を切り、ソ連が崩壊した今、そういうイデオロギーの衝突は過去のものとなっています。