コネという言葉を聞いて、皆さんはどう感じますか?

(ああ、嫌な話題だな)

そう思う人も多いでしょう。そういう僕もコネと聞くと嫌悪の念を抱きます。

「コネ社会は、世の中の不公平の象徴だ!」

そういう意見に僕は大いに同情します。

しかしコネには、もうひとつの側面があります。それは不確実性に満ちた社会で、なんとかその不確実性を最小化しようとする、人間の自然な心の動きとしてのコネです。

つまりコネの利用には、「無難だ」、「安心できる」という、好ましい評価もあるのです。

コネは日本だけの現象ではありません。これは後に説明します。

【コネは悪とは限らない】
就職活動で皆さんは面接に行くわけですが、採用する側からすると、ちょっと話をしたくらいでは、人物は見抜けません。ちゃんと五次面接くらいまでして、慎重に採用したはずの人材が、入社早々すぐやめることもしばしばあります。

つまり採用する側にも不確実性があるわけです。

(こんなことなら、縁故採用しておけばよかった)

そういう愚痴を聞いたのは、一度や二度ではありません。

新卒ではなく、プロフェッショナルの中途採用の場合、顧客からの評判情報が採用のカギを握ります。なによりも、すでにその業界で、名前が轟いていなければいけないのです。

しかし新卒の場合、そういう実績は無いわけですから、おのずと学校名、資格、サークル、その他の手掛かりを利用せざるを得ないのです。

【海外のコネの事例】
コネによる採用は、何も日本に固有の習慣ではありません。

僕は昔、H&Qというサンフランシスコの投資銀行に勤めていましたが、そこの創業会長のビル・ハンブレクトから面白い話を聞きました。

有望な学生を採るために、ビルは自分の出身大学であるプリンストンの教授に電話して「教授の学生の中で一番優秀な奴を紹介してくれないか?」と頼んだのだそうです。そこで恩師は、「それじゃあ今、ロード奨学金を得てオックスフォードに行っているダン・ケイスという学生を紹介しよう!」と言い、インターンシップをアレンジしたのです。

のちにダン・ケイスはH&Qが企業存亡の危機に瀕したミニスクライブ事件(H&Qが主幹事を務めていた企業で不正会計が発覚した事件です)の際、八面六臂の活躍でH&Qを救い、CEOに上り詰め、最終的にH&QをJPモルガンに売却しました。

つまりコネで採る人間が、すべてダメでは決してないのです。

もうひとつ例を挙げると、かつてイギリスにカザノブ証券というブティック証券がありました。カザノブ証券は企業の財務部に対して、資本政策や株式市場絡みの助言をする投資銀行です。その業務内容からして、いわゆるオールド・ボーイズ・クラブのような雰囲気を漂わせています。

そこでは人脈が極めて重要なので、採用もイートンなどのパブリック・スクール(私学)出身者だけに限っていました。彼らの大半はジェントリ(地主貴族)です。

1970年代にカザノブが初めて公立の学校を卒業した庶民をパートナーに昇進させました。ところが本人が郊外の団地に住んでいたので他のパートナー達は「団地はだめだ。農園を買ってファームハウスに住みなさい」と強要したそうです。

つまりせめて外見だけでもジェントリを真似することを強いたのです。

そうした理由は、カザノブの、スノッブな評判が、「庶民」のパートナーを迎え入れることで崩れてしまうことを恐れたからです。

【評判の重要性】
評判は、おカネより重要です。

評判は、我々がモノを買うときや人材を採用する際、もっとも重要な要素のひとつです。ただ単に値段を比較するとか、商品のスペックを比べるだけでなく、我々は「BMWのDNA」とかに象徴される評判に、知らず知らずの間に意見を左右されているのです。

もちろん、評判は会社を訪問する学生の側でも気にします。最も優秀な学生は、大体、評判の良い会社を目指します。悪評の立っている会社は避けます。

良い企業の製品やサービスはプレミアム価格を付けることが出来ます。だから結果としてマージンが高くなるし、企業の経営は健全になります。

【グーグルの採用革命】
グーグルは「スタンフォードやハーバードなどの超一流大学から採用する」ということを、あからさまに公言した、最初のシリコンバレーの会社です。

グーグルが、そういう方針を打ち出したとき、困惑と衝撃がシリコンバレーに走りました。

「それは、シリコンバレーの起業家精神に反する!」とグーグルを批判する意見も強かったです。

なぜならシリコンバレーではヒューレット・パッカードやアップルがガレージで創業した事例のごとく、ハンダゴテ持って、ああでもない、こうでもないと色々工夫する末にプロダクトに辿りつくという、ある種の美意識があり、そこは学歴など関係ない「経験主義」が幅を利かせていたからです。

しかしグーグルはシリコンバレーに所縁の無い若者たちが始めた会社なので、「シリコンバレーの慣習」を、はじめから無視したのです。

【実績】
実績は、ビジネスを獲得する上で重要です。

一例として映画『ラ・ラ・ランド』に描かれた、いつまでも芽が出ない俳優の姿を思い出してください。

俳優はいくらルックスが良くて、そのうえ演技が上手くても、最初の役を得るまでが大変です。

なぜオーディションに落ちまくるか? と言えば、それはキャスティング・ディレクターが「すでに実績がある俳優を起用すれば、客が入る」という安心感を求めているからです。つまり「数字が読める」ことが大切なのです。その点、新人を起用するのはリスキーです。

同様に作家を目指す人が、原稿を出版社に送っても、次々に却下されるのは、かならずしもその作品が悪いからではなく、出版社の側で(これを出版した場合、売れるだろうか?)という不安があるからです。

もし実績が無いのであれば、どんなに自分が優秀であるか? 頑張る意気込みを持っているか? などをアピールしてもムダでしょう。なぜなら相手は「保身」を考えているからです。

【交友関係】
誰と交友関係があるか? ということは、その人の「人となり」をシグナルする効果があります。もし交友関係が「ふさわしくない」と思われたら、面接に落ちるし、商売の相手にしてもらえない場合もあります。

若者は若者たちだけの交友関係(peer group)を形成します。高校時代には高校時代の交友関係があり、大学では大学での交友関係が作られます。このように若者はpeer groupから別のpeer groupへと跳躍を繰り返すのです。そしてそれぞれのpeer groupには、固有の「しきたり」のようなものがあります。これは『ミーン・ガールズ(Mean Girls)』などに描かれています。

しかし大学生が社会人になると、会社という新しいグループへと参加しなければいけません。そこでは「大人の事情」による「大人の世界」が展開されているわけです。するとこれまで自分が属していたpeer groupを棄てるという「二者択一」を迫られるわけです。

これは就職活動をしている若者だけが経験することではなく、企業ですら経験します。

たとえばフェイスブックは創業時は軽いノリのスタートアップの様相を呈していましたが、最近では去年の大統領選挙にロシアがフェイク・ニュースを流すことで関与し、それの「片棒を担いだ」と糾弾されています。つまり好むと好まざるにかかわらず、ワシントンDCの政治の世界にどっぷりと浸かり始めているのです。

またUberは世界中で規制にひっかかり、それらと折り合いを付けることを迫られています。

すなわち、フェイスブックにしろUberにしろ、社会的責任が増大するにつれ、企業として「成長」しないといけない局面に来ているのです。

その際、昔のアイデンティティのままで居る事は、出来るのでしょうか?

たぶん答えは「NO」です。

【群れを離れる時】
チンパンジーは約50頭で群れをつくると言われています。オックスフォード大学のロビン・ダンバー教授の研究では人間の場合、交友関係を保てるのは、せいぜい150人までだそうです。これが有名な「ダンバー数」です。すると新しい職場関係や交友関係がそこへ入ってくると、古い交友関係の一部か、場合によっては全部を、断つ必要が出てきます。

仕事はネットワークを通じて行われてゆくため、そこで生きてゆくためには新しいネットワークの中に入ってゆくことは避けられません。

仕事が出来る人は、顧客開拓、顧客関係の維持、社内外交などが上手いです。これらは全てネットワーク・スキルです。

ネットワーキングが出来れば、意見交換がしやすいし、情報の入手も速くなるし、より痒いところに手が届くサービスを提供できるようになります。

つまりネットワークがわかれば、出世の秘訣がわかるのです。

【閉じたネットワークと開かれたネットワーク】
シカゴ大学ブース・ビジネススクールのロン・バート教授によれば、世の中には「閉じたネットワーク」と「開かれたネットワーク」があります。

閉じたネットワークの定義は、すべてのメンバーが、そのグループ内で、最低二人の人とつながっているようなネットワークです。

閉じたネットワークの好例は、家族です。

あるいは「家族同然のつきあい」をしている企業なども、その例でしょう。

閉じたネットワークの利点は、情報の伝達が速いことに加え、グループ内で信頼関係が築かれている点でしょう。問題が起きた時、お互いをかばい合うことも起こります。

これに対し、閉じたネットワークの悪い点は、新しいアイデアが生まれにくい、チェック&バランスの機能が働きにくい、組織の暴走、そして組織の劣化に気がつかないなどになります。いわば「タコツボ化」です。そしてある日、突然、「ドカ貧」になっていることに気付くわけです。

東芝の例が、頭に浮かびます。

閉じたネットワークは、良い面も多いけど、そればかりに安住するのはリスキーです。だから「ウチの会社は、家族のようにお互いの面倒を見る社風です」というようなことを平気で口にするような会社は、気を付けた方が良いです。

これに対して開かれたネットワークは「ゆるい」つながりであり、閉じたネットワークが提供してくれるような、居心地の良い庇護は期待できません。つまり肝心な時に頼りにならないのです。

それでは開かれたネットワークは、全く無価値なのでしょうか?

それはそうではありません。

英国の哲学者、ジョン・スチワート・ミルは、「自分と出身や背景の異なる人間と交流すると、違う考え方が存在することを知る。別のやり方を目の当たりにすることは、そこから進歩が生まれやすい」と指摘しています。

大学では、よく学際研究ということが言われますが、あれなどがこれに相当すると思います。異業種交流なんかもその例です。また江戸時代、鎖国していた日本が開国し、「別のやり方」を学んだとたんに文明開化がおこり、飛躍したケースが思い出されます。

開かれたネットワークの好例は、最近はじまった個人の価値のマイクロトレーディング・サイト、VALUでしょう。

VALUは、金融クラスタとクリエイターを結びつけるなど、異業種、異世代をミキサーに入れてかき混ぜるような、新しい出会いを可能にしています。

【まとめ】
コネ社会は日本に固有な現象ではありません。コネ社会は、今後もなくならないと思います。

コネの価値は突然暴落し、「ドカ貧」になることもあります。

無価値化したコネは、新しいつながりに取って代わられる必要があります。

新しいつながりは「開かれたネットワーク」が提供している場合が多いです。

人間が関係を維持できるのはダンバー数、つまり150人までです。

すると新しい関係を手に入れようと思えば、不要になった関係を切り捨て、入れ替えすることが必要になります。

交友関係の入れ替えは、漫然と行うと「タコツボ」の繰り返しになってしまいます。

そうならないためには、たとえばVALUのような、ラジカルに自分と違う人種との出会いを可能にするSNSツールを活用すべきです。


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