ある学生から「投資銀行って、どうですか?」と相談を受けました。そのとき答えたことを書きます。

学生:投資銀行で働いて、正直、どうでした?

僕:痛快だったと思う。

学生:どこらへんが?

僕:僕が携わったのは株式のセールスや引受けの業務で、とりわけ新規株式公開(IPO)にまつわる仕事が多かった。これはたとえて言えば産婆(さんば)の仕事だ。新しい企業が株式市場にデビューするのをお手伝いするわけだ。すんなり行く場合もあるし、難産の時もある。企業にとって決定的な節目となる瞬間に関わることが出来る仕事は、やりがいがある。

学生:でも自分が上場するわけじゃないですよね?

僕:そうだ。我々に残るのはツームストーン(墓石)と呼ばれるクリスタルに閉じ込められた記念の置物くらいだ。これはそのディールの成功に特に貢献のあった社員だけに配られる。それを蒐集するわけだ。

学生:仕事きついですか?

僕:投資銀行は大別してフロントオフィスとバックオフィスがある。フロントオフィスは乱暴に言えば顧客や市場と直接やりとりするところ。バックオフィスは事務処理をするところだ。バックオフィスはきつくない。

学生:フロントオフィスはどうですか?

僕:フロントオフィスの仕事はさらに二つに分けることができると思う。きみの席がトレーディングルームにあるのなら、きみの就業時間はマーケットが開いている時だけ。だからニューヨークなら朝7時頃に会社に入って5時半にはもう会社を後に出来る。

学生:拘束時間が長いと聞きましたが?

僕:それはM&Aなどの、俗にアドバイザリー(助言)と呼ばれる仕事の場合だ。彼らはディールを考案する仕事をしている。チャイニーズ・ウォールと言ってトレーディングルームとは隔離されており、秘密裡に仕事を進める。拘束時間が長いのは、この部署だ。

学生:出世する人に必要なのは?

僕:ひとことで言えば「モノの値段を知る」ということだ。財務諸表を読める人は公認会計士や企業の経理マンのように世間には沢山居る。でも「幾らなら、あの会社を買収できる?」とか「幾らなら、この会社をIPOできる?」という問題は、市場での「通り相場」に対する深い理解が無いと出来ない。突き詰めて言えばそれが投資銀行家のコンピタンスだ。

学生:やりがいは?

僕:投資銀行は企業だけにアドバイスするのではなく、国にアドバイスすることもある。たとえば民営化とか。その関係で、ある国の「歴史的瞬間」に直接関与することもある。たとえば「ベルリンの壁」が崩壊し、共産圏が市場経済に組み込まれた際は、たくさんの東側の企業を西側の投資家に紹介する仕事が生まれた。最近ではサウジアラビアがこれまで国王の私有物だった石油会社の株式を世界の投資家に売ろうとしている。そういう案件を通じて、アジアや南米など世界中の発行体と仕事をすることになる。

学生:テクノロジーが人間と置き換わるのでは?

僕:それは投資銀行でも既に起きている。たとえば株式のトレーディングの65%はアルゴリズムに置き換わっている。大量のトレーダーが失職した。債券のトレーディングの場合、その比率は未だ10%くらいだけど、いずれ同じことが起きる。でも市場経済そのものは無くならないので古い仕事が消える一方で新しい仕事もどんどん生まれている。

学生:金融はオワコンなのでは?

僕:サイクルというものは、確かに存在すると思う。たとえば1970年頃まではアメリカで最も優秀な学生はマーケティングを専攻したがったものだ。そしてマジソン街の広告代理店に就職するのが立身出世の近道だった。ところが1980年代から経済に占める金融の役割が大きくなると投資銀行が人気の就職先になった。いまならさしずめグーグルやフェイスブックなどが人気の就職先だろう。10年先を考えた場合、人気の就職先は、現在未だ生まれてすらいない企業かも知れない。

学生:準備すべきことは?

僕:今年の年初来のグローバルな投資銀行フィーは今日現在297億ドルだ。そのうち日本は11億ドルにすぎない。つまり世界の3.7%ということ。日本市場だけで通用しても、外資の投資銀行では出世はできない。だから英語が喋れるようになること。



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