現在、ウォールストリート・ジャーナルの「FEDウォッチャー」はニック・ティミラオスです。ニックは不動産・住宅関連の記者からFED番にスイッチしました。(僕は彼は有能な記者だと思います)

これまでのWSJの「FEDウォッチャー」はジョン・ヒルゼンラースでしたが、6月13日の連邦公開市場委員会(FOMC)の記者会見でジェイ・パウエル議長にジョン・ヒルゼンラースが質問をしたとき「アメリカン・バンカーのジョン・ヒルゼンラースです」と自己紹介していたので、たぶん会社を変わったのでしょう。

アメリカン・バンカーは米国の銀行マン、とりわけ幹部社員だけが読む、いわゆる「トレード・ペーパー(業界紙)」です。1836年に創刊された由緒正しい新聞ですが、現在はウェブ版のみとなっています。

のっけから話が脱線しました。

そのニック・ティミラオスは未だFEDウォッチャーとして評判を確立していないです。このところWSJのFED番は、クリスティーナ・ピーターソンほか数名が入れ替わり、立ち代りになっていますが、未だジョン・ヒルゼンラースほどの神通力を持った「FEDウォッチャー」は登場していません。(ところでクリスティーナ・ピーターソンは現在はむしろWSJの米議会に詰める記者として活躍しています。去年の税制改革法案の審議の際は、とても素晴らしい仕事をしたと思います)

またまた話が脱線しました。

さて、FEDウォッチングに話を戻すと7月1日付のWSJでニック・ティミラオスが「近くFRB(連邦準備制度理事会=米国の中央銀行)はそのバランスシートの圧縮問題に関し、新しい、重要な議論を始める」と報道しています。このニュースは注目に値します。

リーマンショックの後、FRBは量的緩和政策を打ち出しました。それは具体的には米国財務省証券などの債券を直接FRBが買い込み、市場にキャッシュを放出するオペレーションを指します。

そのときの名残の在庫が、まだFRBの金庫に4.3兆ドルも残っています。当初は2020年くらいをメドにこの在庫を3兆ドルくらいまで「自然減」させる計画でした。ここで「自然減」とは、債券には償還があり、期日が来ると債券が現金に変わるので、FRBが市場に手持ちの債券を売り返さなくても時間の経過とともに債券の在庫はじわじわと現金にかわってゆくことを指します。

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今回議論に上っているのは、この「自然減(run-off)」を予定より早く切り上げ、以前FRBがやっていたように、FRBの金庫に在庫にしておく債券類の残高を一定金額で維持してはどうか? ということの是非を巡る議論です。在庫を一定金額に固定するには償還でキャッシュ化された場合、その現金を使ってもう一度別の債券を買い直す作業が必要になります。

なぜFRBは大きな在庫を抱えたままにした方がいいと思い始めているのでしょうか?

それは現在のシステム(=つまりいつでも量的緩和を再開できる)を維持した方が、次に不況が来た際、より機動的に量的緩和を再開できるから、「FRBの調整は短期金利を通じて行う」というドグマにこだわる必要は無いのでは? という主張です。

伝統的にFRBは商業銀行が融資を実行した際は銀行にその融資額の一定のパーセントを「準備金」としてFRBに預けることを義務付けてきました。この準備比率を上げ下げすることで銀行がどれだけ積極的に融資や証券のトレーディング在庫をキープするかをコントロールしていたわけです。

しかしリーマンショック後はFRBは金融機関に対し多額の準備を要求、固定するとともに、そうやって銀行がFRBに積んだ準備金に対し金利を支払い始めることを実行しました。なぜ多額の準備を維持したままにするか? といえば、リーマンショックの時にクッションが少なすぎて「ひやっ」とした教訓があるからです。

銀行同士が短期の資金を融通し合う際、「金利をどうする?」ということは次第にFRBが準備金に対して支払う金利に準拠するようになっています。

つまりこれまでの1) 準備率の上げ下げで調整する、から2) FRBが銀行の積んだ準備金に対して支払う金利を変更することで調整する、へとFRBの「微調整」の手法が自然に変化してきたというわけです。2) の新しい手法をFRBの内部者は気に入っている様子です。

FRBがバランスシートの圧縮を進めると準備金がFRBのシステムから減りすぎ、2) の手法による調整をやりにくくする恐れがあります。だからそうなる前に今、「FRBの在庫を、そのままにしよう!」という議論を尽くす必要があるのです。





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