7月6日に米国が通商法301条を発動し中国からの輸入340億ドル分に対し25%の関税をかけることがほぼ不可避となっています。中国もこれに対し直ぐ報復措置をとると言っています。

これまで米中はこと貿易に関する限り友好的な関係を長年、築き上げてきました。ところがトランプ大統領が有権者の歓心を買う動機から中国を悪者に仕立て上げ、理不尽な貿易戦争を一方的に仕掛けてきたので、中国としても態度を硬化せざるを得ません。

ウォール街の関係者は(7月6日が過ぎれば売られ過ぎになっている中国株は反発するだろう)と考えています。

しかし貿易戦争はトランプ大統領にとって「得することはあるけれど、損することは無い」鉄板のネタです。

7月6日以降も貿易戦争が鎮静化せず、関税競争がエスカレートした場合、かならず中国が負けると思います。その理由は、そもそも関税をかけられる対象が、中国の場合限られているからです。

下は両国の貿易を示したチャートです。中国はアメリカより3.9倍も沢山輸出している関係で、自ずと関税の対象に出来る品目には限りが出てしまいます。

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両国の貿易収支を見るとアメリカは大きな赤字になっています。

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これは何を意味するか? といえば「米国は中国にとって最上のお客さん」だということを意味します。

今年は中間選挙の年なので11月に向け、ここで中国虐めの手を緩めることはトランプ政権にとって得策ではありません。またゆくゆくはトランプ大統領は再選を狙うことになるのだから、この「中国叩き」のネタは今後も長くトランプ大統領の十八番になると覚悟した方がいいでしょう。

これは「いつか来た道」です。

1970年代から80年代にかけて、虐められる立場にあったのは日本でした。日本政府は日米貿易戦争を良く戦ったと思います。でもそれは1年や2年で決着の付くゲームではなく、「これでもか、これでもか」というような延々と続くバトルでした

実際、今回発動される通商法301条などの政策上のツールの大半は、忌まわしい日米貿易戦争時代に成立した法案です。

そう考えた時、なぜ今回の貿易戦争が7月6日で終わると言い切れるのか? それを市場関係者はちゃんと説明する必要があると思います。

ついでに言えば、日米貿易戦争の当時、(究極的には日本が勝つ)と考えた関係者が多かったように思います。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』なんて調子のいい駄本が、ベストセラーになったこともありました。

当時の日本は、アメリカと良い関係を保つために大変心を砕いていました。「ロンヤス」なんて言葉が生まれた時でもあります。

だから産業界や庶民のレベルではアメリカ国民は日本を脅威と思っていたけれど、政界のトップは良好な関係を維持していたと思います。

ひるがえって今日の米中関係を見ると、市井の人たちは友好的でも、政界のトップは冷え冷えとした関係になっています。

日本は当時、譲歩に次ぐ譲歩で、プラザ合意で円高になることを容認させられました。それで不景気になってしまってはいけないと頑張りすぎたことが、後のバブル経済の火種になったという痛恨の過去があるわけです。

中国政府は日本のバブルを徹底的に研究しているので「日本と同じ過ちは犯さない」と誓っています。だから今回も当時の日本とはかなり違うアプローチで対処しています。

具体的には輸出競争力を落とさないため人民元安に導き、徹底抗戦の姿勢を鮮明に出しています。その一方で過剰な信用、ならびにレバレッジを抑え込むため、抑制的な政策を打ち出しています。

普通、自国通貨安は株高につながるのですが、現在の中国株が人民元安にもかかわらず安値を這っているのは、そのような理由によります

アメリカは少々のドル高になっても不景気にはなりにくいので、中国がアメリカを思いとどまらせようとすると2015年8月のような世界同時株安を演出する必要があります。実際、先週あたりから中国が援用している手法は、このような「Death wish」にすら近いと思います。

中国と日本の主な違いは、中国は面子というかプライドをとても重んじる国民性だということでしょう。だから貿易を巡って米国との関係が剣呑になると日本のように調停に走るのではなく、「エスカレートも辞せず」という強硬な態度が顕著になります。

もちろん中国の側にもアメリカの側にも、両国の関係を良くし、円満に物事を収めたいと奔走している人たちは居ます。でも日米貿易戦争の当時とは、そもそも地政学的なセットアップが全然異なることも無視できません。

当時日本はアメリカの同盟国であり、安全保障条約もあり、ソ連という想定敵に協同して対峙していました。

これに対し現在のアメリカの究極の想定敵は中国なのであり、ソ連のような手強い相手はもう存在しないのです。

上でみたようにそもそも米国は中国の最上の「お客さん」です。商売をやっている人なら理解できると思いますが、客を怒らせて得なことなど、なにもありません。

だからこそ中国は理不尽なトランプに立腹してエスカレートさせてはいけないのです。



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