今週末までに米国証券取引委員会(SEC)ヴァンエック・ソリッドエックス・ビットコイン・トラストというビットコインETFの上場申請に対して回答をする予定です。

承認されるかもしれないし、されないかもしれないし、単に最終決定が延期されるだけかも知れません。

つまり今の段階では何が起こるか読みにくいということ。

【追記】この記事を書いた後でSECが「9月30日まで最終的な決断を延期する」と発表しました。

ヴァンエックは老舗の中堅運用会社です。これまでにSECにビットコインETFを申請した企業の中では、ことETFに関する限り、一番経験豊富で実績のある運用会社と言えます。

ただブラックロック、ステートストリート、バンガードなどの大手はこれまで一切ビットコインETFは手がけてないので、「雑魚の中で一番実績ある会社」という位置づけになります。

ヴァンエックのビットコインETFの良い点は「現物」、つまりビットコインそのものをETFで保有する仕組みだということ。これに対して他企業の申請したものの中にはビットコイン先物に依拠した設計になっているものもあります。

普通、SECはビットコインETFのような全く新しい商品を許可する場合、最初はプレーン・ヴァニラ、すなわち「白いご飯」みたいなベーシックな意匠のETFを好みます。その点、ヴァンエックのビットコインETFは先物も使わないしレバレッジも使わないのでSECの趣味に適合しています。

もうひとつヴァンエックのビットコインETFが「巧く立ち回っている」点は、このETFの一株当たりの単価が20万ドル以上に設定されている点です。比較のために典型的な値嵩株を列挙すれば:

アルファベット $1261 (14万円)
アマゾン $1866 (20.7万円)
アップル $207 (2.3万円)
ヴァンエック・ビットコインETF $200,000 (2226万円)
バークシャー・ハサウェイA株 $316,500 (3523万円)


という感じです。

アメリカの株式市場での最低取引単位は1株です。すると最低でも2200万円の持ち合わせがない人は、ヴァンエック・ビットコインETFを買うことは出来ないのです。

なぜこんな嫌がらせみたいなコトをヴァンエックはやるのか?

その理由は、べらぼうに株価設定を高くすることで「これは機関投資家向けの金融商品です!」と胸を張って言えるからです。

アメリカでは一般投資家に対する概念として適格投資家(Accredited Investor)という概念があり、適格投資家ならリスキーな商品でも売ってよろしいというひとつの価値観があるわけです。

SECによる適格投資家の定義は:

年収$200,000(2226万円)以上、ないしは持ち家を除く金融資産で百万ドル(1.11億円)以上を有する


というものです。するとヴァンエックの論法としては「ETFの初値を$200,000にすることで自動的に弱小投資家を弾き出す」ことになるので、リスキーなETFでも認めて欲しい!というメッセージをSECに送っているということになります。

なぜこのような持って回った小細工が必要かといえばETFには「引受け」という手順がありません。つまり証券会社が新規株式公開(IPO)の際、投資家を選び、いわゆるブックビルディングと呼ばれる「需要の積み上げ」をするステップが完全に素通りされているわけです。

証券会社が仲立ちして交通整理をしないということは上述の「適格投資家」を選り出すことも普通ならできないということです。

だから苦肉の策として思いっきり高い初値設定で個人投資家を排除するというわけです。

これがSECに気に入られるか? と言えば、僕としては「?」としか言いようがないですね。(そこじゃない!)という気もします。

なぜならSECがこれまで主張してきたことはダリア・ブラスSEC投信部長全米投資会社協会(ICI)ならびに全米資産運用協会(Asset Management Group)という二つの業界団体に1月に送りつけた書簡の中で明らかにされているからです。それは:

値洗い(Valuation)
投信およびETFは、純資産(NAV)を計算するため、毎日、それが保有する銘柄の価格を確かめないといけない。それが確定できないと、投信の場合、デイリーのパフォーマンスの計算が不正確になるし、ETFの場合、APと呼ばれる業者が、現物とETFとの間の乖離を鞘取りすることができなくなる。しかし仮想通貨の取引はフラグメント化されており、どの値段を使うべきか?が確定しにくい。フォークが起きた際、それを投信やETFのバリューにどう反映するか?が未知数。エアドロップのようなイベントが起きた場合、投信やETFの保有者の誰が、どれだけそれを受け取るのか?のポリシーが不明快。先物の清算価格の決定の際、現物市場の故意の関与による操作をどう防ぐ?ということなどが不明。

流動性(Liquidity)
投信やETFの特徴は、受益者がいつでも換金できる点にある。流動性に関する新ルール(rule 22e-4)では、ファンドが流動性確保のためリスク管理プログラムを実施することが義務付けられている。そこではファンドが組み込む投資対象のうち流動性に欠けるものは15%以上組み込んではいけないことが規定されている。

カストディー
1940年投資会社法ではファンドは顧客資産をカストディアンに預けることで護ることが規定されている。仮想通貨に投資するファンドは、どうやってカストディアンを設定するのか? 現在、仮想通貨をキープできる信託会社は存在しない。また仮に仮想通貨のカストディアン・サービスが開始された場合でも、そこに保管された仮想通貨の所有者として投信会社がプライベート・キーを通じて所有権をちゃんと主張でき、記録できることは未知である。またカストディーに対するハッキングが起きた時の対応は未知である。

ETFの鞘取り
ETFはそれがなぞることになっている原資産との間の価格乖離を業者による鞘取りで埋める仕組みになっている。しかし仮想通貨取引はフラグメント化されており、鞘取りを行う指定参加者(AP)が十分に鞘取りを行えないリスクがある。

どの法律をあてはまる?
以上の説明は1940年投資会社法の見地からされてきたが、業者によっては1933年証券法に基づくETF上場申請を行おうとしている者も居る。どの法律に準拠して商品設計すべきかハッキリしていない。

それらがハッキリするまで、どの法律に基づいた申請でも承認しない。

また、過去に「有効」が宣言された申請に関し、証券法rule 485(a)の規定を利用し、仮想通貨に投資する商品の組成をしやすくするループホールを利用することは認めない。


という諸点だからです。これらはヴァンエック・ビットコインETFのアピール・ポイントとズレている気がします。

仮にヴァンエック・ビットコインETFが今回SECから承認されたとしても、上に説明したようにこれは機関投資家向けのマニアックなETFにならざるを得ないし、出来高も当然、薄くなると思います。だから昨今の情けないビットコイン相場に活を入れる起爆剤になれるかというと「うーん」と言うしかないですね。


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