昨日テスラ(ティッカーシンボル:TSLA)のイーロン・マスクCEOが「一株当たり420ドルで(市場から株式を全部買い上げ)非公開化することを考えている。もう資金の手当てもメドがついている」と突然ツイートし、金融関係者は目が点になりました。

このツイートの直後は、マスクの真意を測りかね(え、これって、冗談?)というムードの方が強かったです。

アメリカの大統領ですらカジュアルに怒りに任せたツイートを平気で連発するご時世、「ツイートの重み」自体がとても軽くなっており、何を言っても許される時代です。

(あ、中には山本一郎みたいにツイッター社から垢バンされる可哀想な人も居ますが。それにつけても虐められるのは小市民ばかり。嗚呼、この世に神は居ないのか!)

あ、それはさておきマスクCEOが「もう上場廃止する!」と吼えている背景にはモデル3の生産が思ったように伸びず、ウォール街のアナリストからコケにされているということがあります。

(るさい! 落ち着いて生産ができないじゃないか!)

というわけです。いっそのこと株式を非公開化すれば、株主からの突き上げもなくなるというわけ。

それでサウジのソブリン・ウエルス・ファンドか何か知らないけど、何処かのバカタレからお金を出してもらい、それにレバをかけるカタチで銀行のシンジケート団から融資してもらい、MBO(マネージメント・バイアウト)へ……というわけ。

しかしMBOというのは業績が安定しておりコンスタントにキャッシュフローが見込めるようなビジネスで行うのが定石であり、テスラみたいなネガティブ・キャッシュフローの会社でそれを行うと、たちどころに借金の返済に窮するリスクも無視できません。つまり「財務的なリスカ」に等しい自傷行為です。

そういうことまでわかっているので、金融のプロたちは表情を曇らせています。はしゃいでいるのは経験の浅いシロウト投資家ばかり。もちろん、昨日、テスラ株は騰がりました。それは同社株をショートしていた連中が焼かれているからであり、それとこのMBOが成就するというのは、また次元の違う問題です。

たぶん今頃メガバンの法人融資担当は、トキメイテいる筈。(よっしゃ! おもろいやんけ!)って具合に。

なぜならJPモルガンを始めとした、M&A融資を得意とするメガバンクが、最終的にはこの手のトランザクションの成否を握っているわけで、昨日のテスラの379ドルという引け値はマスクの言う「420ドル」とは大きく乖離しています。つまりマーケットは「未だこのディールはDone dealではない」と言っている。

JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、マスクに対して意地悪することもできるわけです。

これは喩えて言えばある物件を気に入った人が「いよいよオレサマもマイホーム買うぞ!」と昂ぶるのに似ています。ちゃんと親戚から頭金を貸してもらう算段もつけた。あとは銀行からローンを引っ張ってくるだけだ……みたいな。

でも、そもそも本人にローンの返済能力が無いと銀行から判断され、ローンがおりなければ、いくらい親戚からお金を工面した(=この場合はサウジ・ソブリン・ウエルス・ファンド)ところでダメなものはダメなわけです。

銀行としては運用難の折、利幅の大きいこの手の融資に参加したいのはやまやまです。しかし、リスクも大きい。マスクに貸し込んで彼がローンを返せなければ、倒産のリスクも。その場合、銀行経営自体も傾くリスクがある……

だから銀行団とマスクとの間の死闘は、始まったばかりと考えるべきでしょう。ひょっとするとジェイミー・ダイモンはいまごろイーロン・マスクからの電話にわざと出ず、「放置プレイ」に処しているかも。

ルイ太陽王(=ジェイミー・ダイモンのこと)が融資に動かないのであれば、他の雑魚銀行だって怖くて動けません!

実際、過去最大のMBOはテキサス州のTXUという会社で、これは確か300億ドルくらいのバイアウトでしたが、数年後にTXUは倒産しています。今回、テスラはそれを遥かに上回る600~700億ドルのMBOになるわけで、しかもキャッシュフローが細いときた。これは喩えて言えばクリスマス・パーティーで全裸になり両手に持ったトレーで前の方を隠して裸踊りするバカタレが登場したのと同じです。

つまりパーティーは最高潮であり、これからだんだん醜悪な方向へと崩れてゆく兆しがもう見えているということ。

それを隅っこの方でにがにがしい表情で見守っているのが、ジェローム・パウエルFRB議長です。ウエイターたちに「そろそろパンチボウルを下げろ」と指示すべきか、悩んでいる様子。もともとパウエル自身、投資銀行ディロン・リード出身だからこの手のM&Aのエキスパートなわけで、どこかでパーティーを切り上げないと泥酔客に会場をメチャクチャに壊されるキケンもあることはよく心得ています。

1989年11月に今回のテスラのMBOの話と酷似する出来事がありました。ユナイテッド航空が「300ドルでバイアウトする!」と宣言したのです。ところがその時は銀行団が首を縦に振らず、294ドルまで急騰したUAL株は、一転、146ドルまで暴落。一瞬にしてジャンクボンド市場が崩壊しました。

このときドナルド・トランプはボストンとニューヨークの間を飛ぶ「トランプ・シャトル」を手がけており借金まみれでした。「UALショック」で信用サイクルが暗転したので、トランプ・シャトルも資金繰り困難に陥り、結局、トラちゃまはスッテンテンになったのです。

そういう歴史をマスコミはぜんぜんわかっていない。

「金融メディアのロールスロイス」を自称するMarket Hackとしては、読者諸君に「桐一葉落ちて天下の秋を知れ!」と釘を刺す使命をひしひしと感じざるを得ません(笑)





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