シティグループ(ティッカーシンボル:C)がビットコインに依拠した証券を出すスキームを考案中だとICOジャーナルが伝えました。

コンセプトとしては面白いし、もし実現すればビットコインの需給に影響するので解説します。

まずICOジャーナルによるとシティグループが考えているのは「ビットコインのADRを出すこと」です。

ADRとはAmerican Depository Receiptの略であり米国預託証券と訳されます。これは聞き慣れない用語かもしれないけれど、たとえばアリババ(ティッカーシンボル:BABA)はADRですし日本のLINEがアメリカで同時上場したときに発行したのもADRです。

これは一種の預かり証だと思って下さい。

預かり証の意味がわからなければ、たとえば帝国ホテルの宴会場で冬にコートを預かるコートチェックだと思って下さい。あなたが着ていたコートを脱いで「これ、おねがいします」と言えば、コートチェックの担当の女性が、「はい、これ預かり証になりますので、紛失しないで下さい。後で提示してください」というアレです。

コートの預かり証を誰かに渡したら、その預かり証をコートチェックの女性に提示した人が、あなたのコートを受け取って帰ってしまうことにもなります。

実はADRの発想とETFの発想は、極めて近いです。

その違いといえばADRはひと銘柄の外国株をベースに預かり証を発行するのに対し、ETFはひとまとまりの証券(=例えばS&P500指数)をベースに預かり証を発行する点です。

アメリカの投資家にとって例えば日本株を東証で買うよりADRをアメリカで買った方が便利な理由としては:

1. 地元の取引所NYSEなどでカンタンに買えること
2. ドル建てで、他の米国株と全く同じ方法で受渡されること
3. 他の銘柄との比較検討がカンタンになること
4. 外国に信託など券面を保管する準備をする手間が省けること
5. 配当もちゃんと入るし委任状・投票の案内も来ること

になります。

シティグループはこの「ビットコインのADR」をデジタル・アセット・レシート(DAR)と呼んでいるそうです。

ICOジャーナルが引用した関係者のコメントは:

(DARは)有価証券という理解になる。そこでは既存の信託銀行、受渡の慣行などがそっくりそのまま利用される。だからこれは(CBOEやCMEに上場されている)NDF(ノン・デリバラブル先渡し契約=つまり差金決済)ではない。機関投資家の多くは店頭デリバティブの商品区分に入ってしまうNDFには投資できない。ADRは普通株式と同じなのでファンドの定款上の制約は無い。


というものです。

世界には2300銘柄のDR(預託証券)が存在します。ADRを最初に考案したのはJPモルガンで、銘柄は英国の老舗百貨店セルフリッジズでした。1927年のことです。

日本ではSONYが1961年に日本企業としては初めてニューヨーク証券取引所にADRを出しました。その時の幹事はスミスバーニー証券と野村証券です。スミスバーニー証券は現在シティグループに吸収されています。

なおADRには「レベル1」、「レベル2」、「レベル3」、「ルール144A」などいろいろな種類があり、一般投資家を巻き込む度合いによって規制の厳格さが異なります。

ニューヨーク証券取引所やナスダックでトレードできるADRは「レベル2」と「レベル3」のみです。

また新規の資金調達は「レベル3」と「ルール144A」のみに許されています。ビットコインの場合、新しいビットコインの発行というのはありえないので、そこから憶測すれば「レベル1」ないしは「レベル2」ADRという意匠にて設計されることになると思います。

なお既存の証券法の枠組みではシティグループの考案するDARがフィットしない部分もある気がします。なぜならADRを出すならイシュアーはF-20と呼ばれる年次報告書を提出する必要があり、ビットコインには当然、それは存在し得ないからです。

ただ「レベル1」ADRならOTC(店頭取引)であり、かなり簡素化された手続きで発行できます

実は「ビットコインETFか? それともビットコインADRか?」という議論は、突き詰めて言えば「レベル1ADR」の法規制上の柔軟性に目を付けた試みなのではないか? と僕は思っています。



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