皆さんはイノベーションがどんな場所で生まれるかご存知ですか?

それはたとえばこんな処で生まれています。



大恐慌時代に作られた、荷物を積み下ろしできる鉄製のローディング・デッキを備えた煉瓦造りの倉庫は、落書きだらけで、びっしりとビラやステッカーが貼られています。夜ともなればドブネズミが徘徊します。

ここはニューヨークの対岸、ブルックリンの中でもとりわけ僻地として知られるブッシュウィックです。ここにイーサリアムを使った様々なプロジェクトを支援するインキュベーター、コンセンサス(Consensys)の本拠地があります。ブッシュウィックは東ドイツからの貧しい移民がアメリカに来たとき好んで住み着いた街ですが、ニューヨーク首都圏で最も貧困が多い場所でもあります。

ロフトの中では剥き出しの梁の下、雑然と並べられたスチール製の折り畳み会議机に向かって沢山のコーダーがプログラムを書いています。それはオシャレとは無縁の世界です。

そしてこれが世界最先端のブロックチェーン革命の震源地なのです。

日本のサラリーマンは「視察」と称したご褒美旅行でシリコンバレーに来ます。そしてFacebookの本社の前の看板のところで記念撮影し、サンフランシスコのブルーボトル・コーヒーを味わい、大満足して帰国するわけです。本当に迷惑な連中です。

僕はテクノロジー・バンキングの牙城、H&QでIPOの仕事をした経験上、自信を持って言えますけど、プチブルの虚栄心を満たすブルーボトル・コーヒーみたいな場所からはイノベーションは生まれません。

いま新境地を切り拓いている連中は、たとえば「スワロー・カフェ」を根城としているのです。



この界隈では「ももSUSHI SHACK」、「SHINOBI RAMEN」などのレストランも人気となっています。

そもそもなぜブッシュウィックがブロックチェーンのメッカになったかといえば、それはイーサリアム・プロジェクトの共同創設者、ジョセフ・ルービンがここを活動の拠点としたからに他なりません。

しかしブッシュウィックがニューヨークでいちばん食い詰めた若者たちが集結するクリエイティブな街になっていることも大きな理由です。

なぜプログラマ、アーチスト、ミュージシャンたちはブッシュウィックを目指すのでしょうか?

その理由は、家賃高騰が続いているニューヨーク首都圏で、ここがいちばん家賃が安いことによります。

ブッシュウィックの付近はニューヨークでもいちばん交通の便がわるい「陸の孤島」と言われています。

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しかも唯一の地下鉄路線「Lトレイン」(上の路線図で灰色の線)は2019年4月から2020年秋まで改修工事のため閉鎖になります。

この改修工事は2年前からおおやけにされているので、マンハッタンに通勤する人たちはここを避けています。だから家賃が安いというわけ。

僕の上の息子は役者の卵ですが、安い家賃を求めて最終的に行き着いた先が、やっぱりブッシュウィックでした。いまはSkype英会話で生計を立てながらオーディションしたり舞台の脚本を書いたりしています。(写真は彼のインスタグラムから拝借しました)