ツイッターで投機筋に関して議論がありました。



正統派の経済理論や投資理論では、「投資」を「投機」と区別して、その善悪を論じることは、ありません。それは投資リテラシーの無い人間がやることです。

なぜ投機は「悪」と決めつけることができないのか?

今日は、それを説明します。

米国の先物市場は1840年代にシカゴではじまりました。

なぜシカゴが先物取引の中心地になったのかという点については、シカゴが米国中西部の穀倉地帯の真ん中に位置していたことと、五大湖や鉄道を通じて穀物が集積、配送される交通の要所であったことが原因です。

昔は現代のような巨大な穀物貯蔵庫が無かったので秋に穀物を収穫すると速くシカゴに出荷してしまうことが必要でした。

米国中西部の冬はとても厳しいので河川は凍りついてしまいます。この結果、シカゴの市場では収穫期に各地から供給が殺到し値段が崩れるので、一番安くなったときに農家は作物を叩き売りするという結果になったのです。

逆に交通が途絶える冬場や雪解けで道路がぬかるみ馬車が通れなくなる春先は穀物の供給がひっ迫し、市況は高騰しました。

そこで自分の作った作物を売るタイミングをずらすことが出来ればもっと合理的な商売が出来ると一部の農家は考えたのです。

シカゴ・ボード・オブ・トレード(CBOT)はそんな農家が集まって1848年に始められた取引所です。

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決められた場所で決められた時間に取引をすることで仲買人や大口需要家が取引をしてくれる相手を見つけやすくなったわけです。

CBOTは1851年に初めてフォワード取引が開始されました。フォワード取引というのは「先渡し取引」の事を指し、穀物を将来のある決められた日に取引するという当事者同士の取り決めのことを指します。

これが発展したものが先物取引になるわけです。こんにちCBOTはシカゴ・マーカンタイル・エクスチェンジ(CME)と合併し、CMEの一部門として存続しています。

先物取引の仕組みを理解するために先物取引のルーツである先渡し取引から話を始めたいと思います。

先渡し取引とは穀物を将来のある決められた日に取引するという当事者同時の取り決めを指します。

いま農家の場合を考えてほしいのですが、例えばとうもろこしを栽培する農家が10月頃の収穫を見込んでいたとします。そこにある仲買人が現れ、「あなたの作っているとうもろこしを買い上げたい。納期は収穫の終わった10月で構わないが、いま○○の値段で取引を成立させるわけにはゆかないか?」と持ちかけたとします。こうして成立するのが先渡し取引なのです。

この場合、農家の作付したとうもろこしの見込まれる収穫量はその農家に固有の収量ですから買い手はこの農家の事情に合わせた数量を買い取ることになります。

農家としては収穫期に自分が作った作物を売却する際の値段を事前に決定(ロックイン)できるわけですから市況の暴落などの不測の事態で破産するリスクを回避できるメリットがあるわけです。

さて、上の例で実際に収穫期が来るとその年はたいへんな豊作でとうもろこしの価格が暴落したとします。すると折角先渡し取引を交わしていた仲買人が姿をくらまし、契約が履行されないという問題が生じます。

ちゃんと値段をロックインしていたと思っていた農家は大損害を受けます。このように昔は契約の不履行(デフォルト)が頻繁に起こりました。

そこで取引所は先渡し取引の成立した際に証拠金(good-faith deposit)と呼ばれるお金を当事者に積ませることで、約束を簡単に破ることを防ぐ対策としました。

しかしそのような予防策を講じていても実際に取引を履行することによる損害の方が証拠金より大きければ取引相手は雲隠れしてしまいます。別の言い方をすれば将来の或る日に決められた値段で穀物と現金をやり取りするという約束が当事者同士で一回きりのチャンスでもって決められるという事自体にそもそも限界があるのです。

神様でもない限りその年の作柄などわからないわけで、これでは進んで先渡し契約を交わそうという市場参加者自体が少なくなります。そこで昔の人々は先渡し取引の発展型である先物取引という概念を編み出したのです。

先物取引では先渡し取引に幾つかの改良が加えられました。その中でも最も大事なのがコントラクト(契約)の標準化です。別の言い方をすれば取引単位を各農家の事情に応じてバラバラのままにするのではなく、誰もが取引しやすい単位に標準化し、後は農家の見込んでいる収穫規模に応じて2コントラクトとか10コントラクトという切りの良い単位で取引するということがなされたわけです。

また取引する商品の品質や等級に関しても安心してトレード出来るように共通基準が設けられました。この共通基準が定められたことによりコントラクトからコントラクトへと乗り換えても常に自分のイメージ通りの品質の商品(このことをファンジブルfungibleといいます)を入手できる保証が得られたわけです。

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切りの良い単位で取引が可能になり、しかもどのコントラクトを誰から買っても一定の品質の商品が買えるということは他の一般市場参加者が取引に参加しやすくなることを意味します。また受け渡しをする期限に関しても収穫期の10月だけでなくいろいろなバラエティーを加えることで個々の市場参加者のいろいろな事情に合わせた取引の組み合わせが出来るようにしたのです。

このような一連の改良により市場参加者が増えたことで自分がしたい取引の反対側になってくれる市場参加者が格段に多くなりました。

活発に商いされるということは自分が「もうこのポジションは持ちたくないな」と心変わりした契約についてもデフォルトという形で約束を破るのではなく、市場で反対売買することでコントラクトを処分することが出来るようになったのです。このような「出口」が出来たことでデフォルトは大幅に減りました。

先物取引には2種類の投資家が参加します。ひとつは農家に代表される、その商品を生産している人たちで、彼らはヘッジャー(hedger=ヘッジする人)と呼ばれています。もうひとつのグループはスペキュレーター(speculator=投機家)です。

先物取引の市場参加者の97%は後者、つまり投機家であり、我々一般投資家も当然、投機家のカテゴリーに入ります。先物取引では自分が農家や石油業者などの現業に携わっている関係者でない限り、その他の全ての市場参加者は投機家と分類されます。

農家や石油業者など商品の生産や加工に携わっている人たちはヘッジの目的で先物市場に参加します。農家や業者は日頃から作物の疫病や天候リスクや為替リスクや景気サイクルや政治リスクなど、いろいろな不確実性に晒されています。だから現物を扱っているにもかかわらずそれを一切ヘッジしないという決断をすることは、その行為自体が一種のスペキュレーションになってしまうのです。

彼らにとって先物市場でヘッジをするということはちょうど我々が労災保険や自動車保険に入るのと同じであり、ビジネスをする上での必要コストなのです。問題は、例えばとうもろこしを作っている農家の人たちは大体皆、同じようなリスクに晒されているわけですから農家同士では自分のトレードの反対側になってくれるような人は極めて探しにくいという点です。

そこでトレードの反対側を買って出る一般の投資家が必要となります。投機という言葉にはなんとなく蔑まれたイメージがありますが、実際にはスペキュレーターはヘッジャーがリスクを軽減するための反対側に立つ重要な役割を持っており、流動性を提供している存在なのです。

いまスペキュレーターが居ない社会を想像してみてください。そこでは農家や業者は自分の生業に伴うリスクを軽減する手段が無いわけですから、当然、そのリスクは自分が商品を売る際の売値に上乗せされることになります。すると食パンやガソリンの値段が騰がるという形で一般消費者にそのコストが転嫁されるのです。

この極めて当たり前の経済原則すら知らずに「投機は良くない」という俗説を鵜呑みにする初心者が多いですが、正統派の経済理論や投資理論では「投資」と「投機」を区別して善悪を論じるようなことは無いのです。