LINE株式会社(銘柄コード:3938)の新規株式公開(IPO)が、いよいよ動き始めました。

今回のディールは、ちょっと異例です。

既に日本の株式市場に上場されている会社が、アメリカで米国預託証券(ADR)を出すということは、これまでに何度もありました。

しかし未だ株式を公開していない日本企業が、IPOに際して、アメリカと日本で同時上場するというのは、実は今回が初めての試みです。

ニューヨーク証券取引所(NYSE)での取引開始は7月14日(木曜日)、そして東京証券取引所での取引開始が7月15日(金曜日)という日程になっています。

ここでポイントは、ニューヨークでの取引の方が、東京より先に始まるという点でしょう。

僕はIPO関係の仕事を長くやってきた経験から、この順序の異例さに、気付かないわけにはゆきません。またLINE経営陣の「本気」を、すこし垣間見た気分になりました。

説明します。

LINEは日本では有名ですし、待ちに待ったIPOと言えます。

しかしアメリカでは「何それ?」という感じで、知名度はゼロです。

だから普通に考えればIPOの需要の大部分は日本で発生すると思われるのです。(ちなみに日本と米国での売出し比率はF-1では空欄のままです)

もっとも大きな需要があるマーケットが、上場後初値をディクテート(言いなりに決めるという意味)するのが、自然、かつ安全なやり方です。

だから普通に考えれば、東京証券取引所での取引開始をまず最初に持ってきて、ニューヨークを後に持ってくるのが順当です。

その場合、ニューヨークは東京の後塵を拝するわけだから、すごすごと東京で付いた取引初日の株価に追従する格好で、盛り上がる事なく淡々と取引が始まることが予想されるわけです。(これが僕の当初の想定でもありました)

ところがLINEは、敢えてニューヨークの投資家に上場後初値の値踏みの鑑定を委ねてしまう方法を採用したのです。

これはリスキーです。

第一に、上で述べたように最多需要帯は東京時間になるのだから、敢えてそれを外すということは、一部の、ごく一握りの投資家の独断と偏見でニューヨークの初値が決まってしまうリスクがあるということです。

普通に考えれば、LINEは米国では全く無名なので、二束三文の安値で取引開始されるリスクは否定できません。

しかも米国のIPO市場は、現在、未曽有の低迷期の真只中にあり、年初からこのかた、テクノロジーのIPO件数は、わずか1件です。つまり厳冬期です。

通常、このように「IPOのウインドウが閉まっている」とき、主幹事証券は手持ちのIPO案件の中で一番魅力的で、内容のしっかりした企業をぶつけるものです。

そのディールの成功を突破口にして、第2、第3のディールをマーケティングしたいからです。

言い換えれば、厳冬期のIPOの第1号のディールは、切り込み隊長の役目を果たさなければいけないのです。

LINEが、その大事な切り込み隊長の大役を立派に果たせるかどうか? については、僕はそれを考えただけで胃が痛くなる思いがします。(そういうことを心配するのが、かつての僕の仕事でした)

第二に、安定操作をどうエクセキュートするのか、未知数の部分が大きいということが挙げられます。

普通、IPOのアロケーション(機関投資家への玉の割当)をする際、「何株渡しますので、アフターマーケットでも追加の買いを入れてください。よろしくお願いします」と担当セールスが上場後の安定操作のための下ごしらえをします。

しかし、もしLINEのIPOの株の大部分が東京の投資家に円ベースで割り当てられ、アメリカでADRをドル建てで買う投資家の割合が小さければ、アメリカの機関投資家は上場後の安定工作には(付き合いたくないな)と感じる筈です。

以上の二つの理由から、場合によっては不当に低い寄付き価格でLINEの取引が始まってしまうリスクが、無いとは言えないのです。

さて、ここからが重要ですが、アメリカのIPOでは主幹事証券の手綱さばきひとつで、上場初日の株価が、ものすごく乱高下することがあります。(アメリカには値幅制限はありません)

すると第三番目のポイントとして、上場初日にニューヨークで付くLINEの初値がミスプライシングで、それを察知した投資家がアフターマーケットから参戦してごく短い期間に大幅な価格訂正で利食いするという可能性も排除できないのです。

もっとわかりやすい言い方をすれば、どうせアメリカ人はLINEという企業の重要性を理解できないだろうから、ニューヨークの初日取引は「気が抜けたサイダー」みたいなパッとしないデビューになるリスクがあるわけだけど、その数時間後、東京証券取引所でトレードが開始されると買い気配のままでスルスルと値が切り上がるというシナリオだって除外できないわけです。

すると個人投資家として正しいストラテジーは、円建てで、東京マーケットでLINEを買おうとするのではなく(=なぜなら買い気配のままで、いつまでも買えないリスクがあるから)、東京マーケットでの取引が始まる前に、ニューヨークでLINEのADR(ティッカーシンボルはLNになります)に飛びつくというやり方のほうが確実に約定することができるのです。

ひょっとすると……会社側やアンダーライター達は、そういう細かい技術的な問題まで見越して、敢えてニューヨークを先に出し、東京を後にしたのかな? というキモチを、僕は持っています。

つまりチョロチョロと始まったディールが、後になって東京からの需要でだんだん値を切り上げる……そうなれば、嫌でもニューヨークの投資家もLINEという株に注目します。

LINEは日本だけでなく海外でも展開してゆく考えです。NYSEへの上場は、グローバル企業であることを印象付ける格好の機会です。その場合、最大限のパブリシティ(メディアの注目のこと)を浴びようと思えば、ニューヨーク主導でのプライシングが正解なのかも知れません。

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【ディールの条件】
会社名:LINE株式会社(LINE Corporation)
コード:日本3938、米国LN
今回発行株数:3,500万株
初値設定:2,660~2,980円(25~28ドル)
ディール後発行済み株式数:2.0992億株
普通株対ADR比率:1対1
ロックアップ期間:180日
値決め日:7月11日
日本での募集開始日:7月12日
日本での募集終了日:7月13日
ニューヨークでのADR取引開始日:7月14日(米国東海岸時間)
東京での取引開始日:7月15日
株券のデリバリー日(JASDEC):7月15日
株券のデリバリー日(US DTC):7月15日(米国東海岸時間)
幹事証券:モルガン・スタンレー、野村、ゴールドマン・サックス、JPモルガン


PS:上に書いたような「抜け駆け」を許さないということで国内証券は日本株のADRを「取扱銘柄」に加えない措置を取ることも予想されます。その場合は、インタラクティブ・ブローカーズのような日系証券以外のところで口座を開けば良いだけです。