むかし邱永漢(きゅうえいかん)が作家だった頃、出版社のひとから次のようなアドバイスを受けたそうです。

「邱さん、読者は、食い物の話、セックスの話、おカネの話……この三つにしか継続して興味を持たないものなのです。だから筆で生計を立てようと思うのなら、これらについて書いてください」


これらはいずれも人間の根源的な欲求であり、それらに対する渇望は、涸れることはありません。

それで邱さんは(セックスの話はどうも苦手だな)と思い、食い物の話と、おカネの話を中心に「ピボット」した。そしたらいつの日からか「お金の神様」と呼ばれるようになったわけです。

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話を現代に移し、ネットを見ると、インスタには食い物の写真ばかりが上がっています。

作家のはあちゅう」も、最近は食い物の写真ばかりUPしていて「食いしん坊サイト」に成り下がった観があるわけです。しかも(なぜここのメシなの?)という作家らしいコンテクストは全く無く、ただ写真。

そうかと思うと5年前は『年収150万円で僕らは自由にいきてゆく』という、すがすがしい主張をしていたイケダハヤトは、いつの間にか「今月の売上がウン百万円だった」とか「これまでに仮想通貨に幾ら投資した」とか、おカネの話ばかりになっている、、、

冒頭に紹介した「エヴァー・グリーン・コンテンツ」の法則から言えば、はあちゅうやイケダハヤトのやっていることは、きわめて正しいです。

セックスの話が出てこないのは、アドセンスがエロいコンテンツをbanしているからでしょう。

ところで、はあちゅうにしても、イケダハヤトにしても、アプローチが「男性的」ですね。別の言い方をすれば、「直球」だということ。

男性はビジュアル(視覚)に弱く、女性は文脈でイクと言うけれど、コンテクストをはしょって、すぐに「幾ら儲けた!」とか、メシの写真だけをUPされても、じらすような淫靡な快楽を求める、僕のような人間には、語りかけてくるものは殆どないわけで。

じゃあそういうオレ様の場合は、何をやっているか?と言えば、やっぱりおカネの話ばかりしているという点では、同じ穴のムジナ。

でも僕の場合、「幾ら儲けたというような話は、けっして人前でしてはいけない」という風に上司から徹底的に教育されたトラウマがあるので、そういう赤裸々な話には、決して持って行かないわけです。(IRSが怖いということも、あります)

また「切りのいい数字を憎め!」と教えられているので、「ダウがウン万ドルに乗せた!」とか「1億円儲けた!」とかという話は、全部スルーすることにしています。

「1億」、「2億」、「10億」、「100%」、「5倍」というような演出は、ザイFX!の井口さんみたいな職人芸の編集者の方に任せておけば良いわけで、僕はひたすら「2.36%(米国10年債金利)」、「1.25%(フェデラルファンズ・レート)」、「1.9%(経済予想サマリーでの2018年末コンセンサスPCEコア・インフレ予想)」など、切りの悪い数字を相手にし続けようと思います。

同じ「ドル/円で112.5円」という話をしていても、急激なドル安でそこへ到達したのか、ハッキリしない保ち合いでそこへとどまっているのか? という経緯がわからなければ、数字だけを引用しても意味がないです。

そういう意味では、「なぜそこへ至ったか?」というコンテクストのほうが、はるかにGスポットを責められます。これは喩えて言えば「前戯」であり、重要です。

そういう文脈でイってしまう自分は、「女性的」なのかも知れません。

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