ツイッターでの質問で「日本はハイパー・インフレーションになりますか?」というのがありました。

それに対して僕は「その可能性は低いでしょうね」と答えておきました。

どうしてそう考えるのか? その根拠を書きます。

第一次世界大戦が終結したとき、ドイツではワイマール憲法が制定され、共和国が誕生しました。

第一次世界大戦の「終わらせ方」はドイツの国民にとってちょっと納得の行かないものでした。

自分たちは戦争に負けてなかった! でもドイツ国内の裏切り者たちが前線で戦っているドイツ軍を「背後からのひと突き」で刺したからだ


そういう釈然としない気持ちがあったのです。

戦争が終わって、ドイツに帰ってきた兵隊さんは、共和国政府の嘆願を無視し、なかなか解散しませんでした。なぜなら除隊しても失業者になるだけだから軍人として給与を貰った方がいいからです。

こうして完全武装した兵隊さんが街の中に居座るという、いわゆる「カップ一揆」が起きました。

Bundesarchiv_Bild_119-1983-0015,_Kapp-Putsch,_Berlin

ワイマール政府は恩給を支払わなければいけないし、外国政府からは敗戦国として賠償金の支払いを要求されています。

社会保障費の支払いは政府の立場からすればliability、すなわち履行しなければいけない支払い義務です。

政府の選択肢は3つあります:

選択肢1:社会保障を削減するなどし、支出を切り詰める
選択肢2:増税する
選択肢3:お金をたくさん刷る


意志の弱い政府の場合、選択肢1ならびに選択肢2は実行に移しにくいです。すると安易な逃げ道として選択肢3を選んでしまうわけです。ドイツの1920年代のハイパー・インフレーションは、まさしくそういう理由で発生しました。

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ドイツの投資銀行家シグムンド・ウォーバーグは友人への手紙で次のように語っています:

インフレーションは政治によって引き起こされる現象である。支出削減もできない、増税もできないという意志薄弱な政府がインフレを演出する


ここで問題になるのは当時のドイツでは恩給の支払いなどの支出は絶対に減らせないものだという政治的プレッシャーを政府が感じていたということです。

この支出の硬直性増税の困難さが、お金をたくさん刷ることで実質的に社会保障の負担を薄めてしまうという安易な道を選ばせたのです。

これと対照的に今の日本では国民の側に(どうせ自分たちが歳をとった時、政府はわれわれの面倒をみてくれないだろう)という深いあきらめがあります。

つまり政府のliabilityは硬直的ではないのです。

むしろ国民は(定年退職した後でも再就職して70歳になっても働かねば)とか(これからはたくさんの人が老人になるのだから自分たちの年金が先細りになるのは仕方ない)という風に考えています。つまりプレッシャーは政府にではなく、国民に圧し掛かっているというわけです。

これはデフレ的です。

なぜなら将来に不安がある人は支出を抑えるし生活を切り詰めるからです。

まとめると、プレッシャーは1) 政府の側に圧し掛かる場合もあるし、2) 国民にしわ寄せがくる場合もあります。でも大きな違いは 政府には「輪転機を回す」という選択肢 が残されているということ。これこそがインフレーションの原因です! 

現在のベネズエラ、トルコで起きている事は、「外国の陰謀」でも何でもありません(笑)

それらの国では、意志薄弱な政府が、国民への約束を、カルピスをシャバシャバに薄める如く希釈化させているからインフレがおきているのです。


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