昨日米国証券取引委員会(SEC)がThe DAO、ならびにSlock.it UGその他がアメリカの1933年証券法ならびに1934年証券取引法に違反したかどうかに関する調査報告書を発表しました。

Report of Investigation Pursuant to Section 21(a) of the Securities Exchange Act of 1934: The DAO

The DAOはDecentralized Autonomous Organizationのひとつの例で、「バーチャル・オーガニゼーション」と称されることもあります。The DAOを作ったのはSlock.itです。

そこでSECは「今回は罰則の適用を求める行動をおこさない」としたものの、The DAOの行ったICOは「有価証券の発行だった」と認定しました。

Slock.itは2016年4月に「営利目的で(for profit)」DAOトークン(=通貨)を11.5億ユニット発行し、そこで調達した1,200万ETHを「プロジェクト」の立ち上げの原資としました。なおDAOトークンはイーサリアムと兌換できる仕組みでした。これは当時の価値で約1.5億ドルに相当します。

DAOの白書(=ホワイト・ペーパー→売出目論見書のようなもの)によるとDAOトークンの保有者(=投資家)も、このプロジェクトで生まれる利益(earnings)をシェア(=分け前にあずかること)する了解がありました。言い直せば、ホワイト・ペーパーでは、ご褒美(rewards)、配当(dividends)という表現が使われていました。

しかしDAOトークンの販売が完了後、The DAOがプロジェクトを開始できる前に、ハッカーが侵入し、The DAOが調達した資金の約3分の1を盗み出しました。

DAOトークンは世界の投資家が買えるような仕組みになっており、700名の米国人がDAOトークンを購入したとSECでは見ています。

さて、同報告書の「ディスカッション」の項目では、1933年証券法が「完全でフェアな開示(full and fair disclosure)」を求めている点を指摘しました。発行体の業績や経営者の来歴を示す必要があるというわけです。

次に同報告書は1933年証券法セクション2(a)(1)、ならびに1934年証券取引法セクション3(a)(10)で「証券とはなにか?」が規定されており、またその具体的な解釈については1946年の判例「SEC対WJハウイー」などで正しい解釈が示されていて、それを当てはめればThe DAOは有価証券であると結論付けました。

言い換えれば、The DAOは無登録のまま、DAOトークンを販売したことになるので、法を犯したことになるのです。

同報告書は「証券法、証券取引法は投資家保護の目的で定められた法律であり、それに抵触したかどうかは事実(facts)も大事だけれど事情(circumstances)も考慮する必要がある。もし証券を販売するのであれば、発行体、販売者、取引所はSECにそれを登録する必要がある」と結論付けています。

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さて、以上が同報告書のあらましです。

まず仮想通貨コミュニティのリアクションですが「やっぱり、来たか」という感じで、あまり驚いていません。

なぜならThe DAOの失態(=つまりハッカーにトークンを盗まれたという事)でアメリカ人の個人投資家に不利益が生じたという事態に直面し、SECが何も行動を起こさなければ、SECは怠慢だという批判が出るリスクがあるからです。

しかし今回のSECの報告書はThe DAOのケースだけについて意見を述べているのであって、「ICO全体が悪い」と言っているのでは、けっしてありません。

今回の事例に見られるように、SECは、ICOの発行主体がアメリカ合衆国に所在せず、海外であっても、米国民がそれを購入できるような仕組みになっていれば、「アメリカ人に売りつけた!」というカドで、海外のICOに訴追できることを誇示しました。(これをextra territorial appropriationといいます。すごく怖い権限です)

実際、米国SECは、世界の証券監督当局のゴールド・スタンダードであり、最も手ごわい相手です。

だから世界の仮想通貨の発行者は、自分の国のルールについて考えるだけでなく、常に米国SECからツッコまれるリスクは無いか? という点に留意する必要があるのです。

実際に、過去のトークン・セールでは、どのようにしてこの問題を回避しているのでしょうか?

イーサリアムの場合、スイス籍の非営利団体として、プリ・セールを実施しました。スイスの法律では、非営利団体はその設立時の目的以外の活動はできないことが厳格に規定されています。従って米国SECからツッコミを受けにくいスキームになっていると言えます。

Zキャッシュの場合、誰にでもトークンを売るのではなく、個人資産一億円以上の、いわゆる適格投資家だけを対象とした「私募」にすることで、米国証券法を順守しました。

Zキャッシュの手法と似たやり方に、いまアメリカで良く使われているサフト(SAFT: Simple agreement for future tokens)という手法があります。これはトークン販売が「それは証券だ」と難癖つけられるリスクがある間(=つまりICO期間中)は適格投資家だけを対象にそれを売り、その後は、一般投資家を巻き込む手法です。

これだと「フォームD」と呼ばれる届出だけでよく、SECに対する正式な証券登録(=莫大な費用がかかります)は必要ありません。

ただサフトが本当に有効かどうかは、まだ実際の判例で試されていないため、その有効性に対して疑問を投げかける関係者も居ます。サフトは、もともとSAFE: Simple agreement for future equityという既存の手法をパクり、equityという箇所をtokensに置き換えただけなのです。

なぜ「プロジェクトの立ち上がり時期の証券の販売は証券法違反」であり、それ以降の「通常の業務期間では証券法違反ではない」か? と言えば、それはカリフォルニア州マリン郡でかつてゴルフ場を造成しようとした開発業者が証券取引法違反に訴えられた、有名な「リスク・キャピタル・テスト」と呼ばれる判例に拠ります。

つまり山野をブルドーザーで均し、ゴルフ場を造成するための資金は、その事業が成功するかどうかわからないので「リスク・キャピタル」であると見做され、その会員権の販売は「証券を販売した」と解釈されるのです。ここで大事な点は初期の会員権の販売が、建設に必要な「資本」を提供しているか? という考察です。

ようするに、ズッコケるかもしれないリスキーなプロジェクトに、小市民を巻き込んではいけないということ。

しかし、一旦、ゴルフ場が出来上がってしまい、その後で利用者が会員権を転売するのは、リスク・キャピタルには相当しないという解釈になります。

SAFTが、プロジェクトの立ち上がりの時期によって、注意深く「誰に売るか?」という点で投資家を選別しているのは、このような理由によります。

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