スティーブ・ジョブズに関する映画のひとつが4月に封切られるそうです。ジョブズの人生を映画化するプロジェクトは二つあって、ひとつの映画は1970年頃から2000年頃を扱っており、もうひとつの映画の方は重要な新製品発表の前後だけに焦点を絞ったものになるのだそうです。(こっちの方は、つまらなさそうだな……)

実はプロダクト・ローンチ前の、締め切りに追われ、ギリギリ状態のジョブズの行動に関しては、かなり長尺のドキュメンタリー映像が残っています。僕は中間管理職研修(いわゆるAMPってやつ)で、NeXT時代のジョブズのリーダーシップを分析する授業で、このフィルムを見た経験があります。

その授業では何度もストップ・モーションでフィルムを止めて、ジョブズのボディ・ランゲージ(つまり身振り手振り)がどうかとか「これは全体会議で話すべき事か、それとも個別に呼び付けて叱るべき事か?」など、言葉使いも含めて、かなり詳細にディスカッションした記憶があります。(その時の先生は現在UCバークレーのハース・スクールで教えているホーマ・バーラミ教授……だったと思う)

ジョブズが鬼のように社員を叱り飛ばしていて、結構、ガクブルの映像……「ネクスト・レベル・ブラック企業」って、感じ。どんなに巧い俳優や映画監督でも、あの凍りつくようなリアル映像を、超えることは出来ないだろうな。

という事で、僕の興味はもうひとつの映画、つまりアップル創業前のエピソードも含めた映画の方に向いています。特に僕が関心を持っているのは、ジョブズがLSDを試した事が、映画の中で触れられるのかどうかです。

本当にガッツのある監督なら、「クリエーターとしての良心」から、ジョブズのヒッピー文化への傾倒も、映画の中でちゃんと取り上げるでしょうね。でも商業主義の監督なら、そのへんの問題は、あっさりスルーするかも知れません。

企業研究という観点からは、LSDの問題をスルーして欲しくないと思います。なぜならジョブズの経営スタイル、アップルの企業戦略のコアの部分で、1960年代のヒッピー・ムーブメントのエートスが色濃く反映されているからです。

僕がそういう話をすると(この人は、一体、何を言い出すの?)という感じで胡散臭い目で見られるのをヒシヒシ感じるのだけれど、そういう場面に出くわすたびに(あーあ、歴史が風化してるな)と嘆かわしいキモチになるわけです。

例えばネット界隈でも好きな人の多い「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」という言葉です。これはスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で引用した有名な言葉ですが、引用元は『全地球カタログ』という本の最終号の裏表紙です。この『全地球カタログ』を、ジョブズは「我々の世代のバイブルだ」とまで絶賛しています。ところで『全地球カタログ』はヒッピーのエートスを汲んだ本なんですね。

『全地球カタログ』の編集長はスチュアート・ブランドという人で、未だ存命しています。いまはWELLというウェブサイトを運営しています。彼はサウサリートのハウスボート・コミュニティに住んでいて、1964年に始まった、ヒッピー・ムーブメントの元祖メンバーにかなり近いところに居た人です。

あと「シリコンバレーといえば、スタンフォードだろう」と決めつける日本人が凄く多いのだけれど、ことスティーブ・ジョブズに関する限り、彼の人生ならびにアップル・コンピュータの企業戦略に決定的な影響を及ぼした大学は、オレゴン州にあるリード・カレッジです。(スタンフォードはジョブズが講師として教えていたことがあるだけ)

このリード・カレッジというところは、日本では全く無名……ですね(笑)

でもそれはリード・カレッジが悪いのではなくて、日本人が無知だからです。この学校は昔も今も授業料がムチャクチャ高い。ジョブズの両親はお金持ちではなかったので、経済的理由から、大学に通い続ける事を断念せざるを得なかったのです。決してジョブズがリード・カレッジを嫌いだったからでは、ありません。その証拠にジョブズは自分の息子にリードというファーストネームを付けています。母校を恨んでいたら、その名前を自分の子供につけたり、しませんよね?
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