二日ほど前にウォールストリート・ジャーナルが「アップルがどうやらネットラジオに参入する準備を進めている」ということをスッパ抜いて、俄かにネットラジオというものに対する関心が高まっています。

そこで今日は米国におけるネットラジオの近況について書きます。

まずネットラジオとは、インターネットを通じてランダムな(=このランダムという言葉が重要)音楽をストリーミングし、楽しむという事を指します。

もちろん、ラジオには音楽以外にもNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)に代表される、トーク主体のラジオもあります。当面、アップルが準備中なのは音楽の提供だと思うので、ここでは音楽に限定して話を進めます。

ネットでラジオを楽しむという事自体は、ずっと昔から存在したし、今でも多くの既存のラジオ放送局やネットに特化したラジオ局がいろいろ活動を続けています。その市場は極めて細分化しており、事業規模は小さいです。

しかしパンドラ・メディア(ティッカー:P)が登場してから、ネットラジオの在り方が一変しました。その原動力になった「発想の転換」は、従来のラジオのようにDJが目利きした曲を「これ喰いな」式に押し付けるのではなく、消費者の方から先ずどういう音楽を聞きたいかを意志表示させるという事です。

例えばビートルズのファンであれば「Beatles」と入力すればパンドラの検索エンジンが「わかりました、じゃ、先ずビートルズの曲を一曲かけます」という感じでひとつの曲を流すわけです。その後、「どうでした? 次、こんなのは、どうでしょう?」というカタチでパンドラの方からサジェスチョンとして別のアーチストの別の曲が出て来るわけです。

その場合、パンドラが次にかける曲は、曲想が限りなくビートルズに近い、或いは1960年代に活躍した別のアーチストを持ってくるなど、何らかの共通点のある曲になります。

「この曲、なんとなく路線が同じだな」とリスナーが感じる理由は何か? そしてそれをどう整理するか? この整理の方法について研究したのがパンドラのMusic Genome Project(音楽ゲノムプロジェクト)です。パンドラはいろいろな尺度(例えばアップテンポ、メロディーの特徴、ジャンル、使われている楽器など)から共通点の多い曲を次々に選び出してくるわけです。

そして一曲流す毎に「この曲、好きでしたか? それとも嫌いでしたか?」ということをリスナーに意志表示させるわけです。これはFacebookの「いいね」ボタンのようなものだと思えば良いでしょう。すると「いいね」を蓄積すると、そのリスナーの好みがどんどんピンポイントできるようになり、さらに「ツボ」にはまったサジェスチョンを出来るようになる……まあ乱暴に言えばそれがパンドラの仕組みです。

たんにアーチストだけでなく、曲から入ることも出来ます。例えば「レット・イット・ビー」が好きであれば、そう入力すれば、パンドラは似たようなピアノの弾き語り風の曲を次々に示してくるでしょう。

この、ある種、「リクエストできる」感覚が、パンドラの熱狂的な信奉者を沢山生んでいる秘訣だと思うのです。

現在、パンドラのユーザーは5,000万人と言われていますが、それは毎日アクセスするようなアクティブなユーザーだけを拾った数字であり、実際にパンドラに登録しているユーザー自体はその三倍、つまり1.5億人居ます。
パンドラは所謂、「パッション・ブランド」のひとつにすらなっていると言えるでしょう。

iPhoneやアンドロイドのスマートフォンを消費者が購入した際、音楽好きの人が最初にやることは自分のスマホにパンドラをセットアップすることだと言われています。つまり人気アプリとして常に上位に入っているし、ユーザーのエンゲージメントの状況はアップルやグーグルなら嫌でも把握しているわけです。

それではアップルは、なぜパンドラを脅威と感じるのでしょうか?

それはユーザーの感想として「パンドラさえあれば、別にiTunesで個々に音楽を買わなくてもいい」と思う人がとても多いからです。

大体、自分の好みに合った曲を次々流してくれるなら、別に自分でプレイリストを編成する必要は無いわけです。
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