ベトナムが11月25日にドンを5.2%切り下げて1ドル=17961ドンとしました。同時に1%の利上げをして金利を8%としました。なぜベトナムはドンの切り下げに踏み切ったのでしょうか?

 

それは人民元が原因です。

 

中国の人民元は米ドルにリンクされています。このところドル安が続いているわけですから、これはとりもなおさず人民元安になっていたことを意味します。このため韓国やベトナムなど、中国と輸出で競争している国々はとても苦しい戦いを強いられてきました。

 

実際、ベトナムが今回ドンを切り下げたのは10月の貿易収支が赤字の19億ドルと去年の5月のレベルに達し、投資家が不安になり、お金を自国にリパトリエーションしようとしたことから引き起こされたのです。外貨準備は165億ドルしか残っていません。

 

自国の通貨を切り下げると輸入品の価格が上昇するので普通インフレになります。折からベトナムでは食品を中心にインフレ懸念が出ていました。11月の消費者物価指数は4.35%増加しました。そこで今回、ドンの切り下げとともに1%の利上げが発表されたのです。

 

もう一つ悪いことにベトナムは去年の金融危機以降、中国を真似て積極的な景気刺激策をしてきました。

 

ベトナム政府は高金利で借り入れをしてしまった企業を助けるために金利補助金制度により低利の貸し出しを実施しました。これは去年、物価が沈静化したとき企業の金利負担だけが高止まりしていたので資金繰り困難に陥るところが出たからです。

 

この低利借換えを促進する融資は政府系金融機関経由で貸し出されました。加えてベトナム政府はGDP83%に上る景気刺激予算を組みました。これは中国、マレーシアに次いで大きい予算です。

 

さて、ベトナムの積極的な融資は不動産市場にお金が向かってしまい、不動産バブルを誘発しました。今回、利上げに踏み切るひとつの理由はバブル潰しです。ベトナムの場合GDPの8.3%でバブルが起きてしまったのですが、中国の場合、GDPの12%の景気刺激予算を組んであります。すると心配になるのは、中国の不動産バブルもコントロールがきかなくなるのではないか?ということです。

 

中国の銀行監督当局はこのことをとても心配しています。銀行監督当局は5大銀行に長期資本計画の提出を求めました。また増資計画案の提出を要求しました。なぜなら今、増資しておかないと後で焦付きが増えた時、困るからです。この一連の指示の中で銀行監督当局は過小資本の銀行については①新規ビジネスの許可をしない、②海外進出を許さない、③新規支店出店の制限、④その他業務拡張を制限するなどの方針を打ち出しました。

 

これは何を意味するかというと、中国の銀行融資は先ず相次ぐ大型増資で体力をつけてからしか融資は増やせないことを意味します。若し大型増資をしない場合は融資自体をぐっと絞り込む必要があります。これはどっちにしても株式市場にとってはマイナスです。

 

さて、金融危機以降、アメリカや中国は財政出動や緩和的な金融政策によって不況に立ち向かってきました。

 

これに対してブラジルの危機対策は極めて対照的でした。

 

つまり財政出動は金額的にもごく僅かでしたし、危機対応の財政出動は現在までにほぼ終了しています。また超緩和的な金利政策も採用しませんでした。

 

つまり政府が人工的にブラジル経済を引っ張り上げなくても、ブラジル経済は自力で復活したのです。

 

金融危機に際してもブラジルがびくともしなかった理由は幾つか挙げることができます。

ひとつは去年、米国で金融危機が発生したとき、既にブラジルのファンダメンタルズは絶好調だったことが先ず指摘できます。

 

政府の公的債務がGDPに占める比率は2003年の54%から38%程度にまで下がっていました。また去年の8月の時点で外貨準備が2050億ドルあったので、純債務はほぼゼロだったのです。

 

問題としては「レアルが強すぎる」ということがありました。

 

去年の夏の時点で国内信用の約19%が海外の金融機関から提供されていました。もっと簡単な言い方をすればアメリカをはじめとする外銀が融資をしていたわけです。

 

ところが金融危機が来るとアメリカや欧州の銀行はお金を引き揚げようとしました。

するとそれまでクラウディング・アウト(はじき出されること)されてきたブラジル国内の銀行は外銀が出て行った後でその空白を埋めました。

 

ブラジルの大企業は外銀からの借り入れを返済し、国内金融機関から借り換えしました。ブラジルの大企業が外銀へ借金を返済する支払いでレアルは急落し、これが「レアルが強すぎる」問題を自然に解消しました。

 

ブラジル中銀は危機の前からリザーブ(中央銀行への積立金)を引き上げるなど、予防的な措置を講じていたので、危機がおきたとき、国内金融機関は余裕でブラジル企業にお金を貸すことができたのです。

 

ブラジルの銀行の自己資本比率はバーゼルⅡに基づくと17%あり、BIS基準の8%を大幅に上回っています。つまり自己資本のクッションが十分にあるわけです。

 

現在のブラジル経済の好調は中国のように4兆人民元の景気刺激策だけに依存するいびつなものではありません。

 

先ずブラジル経済は2003年以来、去年までに870万人分の新規雇用を創造してきました。確かに去年、金融危機が発生した後は80万人分の雇用が失われたのですが、2月以降は再び新規雇用が増え、100万人分の新しい雇用が創出されました。つまり既に金融危機で失った雇用の全てを回復したのです。

 

また実質ペイロールも着実に上がっています。2006年には97だった実質ペイロールは現在は117になっています。つまり賃金労働者のベースは拡大しているのです。

 

このことはスーパーマーケットの売上高(インフレ調整後)指数を見てもきちんと反映されています。2006年には100だったスーパーの売上は現在、119になっています。

 

ブラジル中銀が分類するところの中流(ミドルクラス)が国民全体に占める比率は2002年の42.4%が2009年6月には53.2%にまで拡大しました。また貧困層は同時期に29.2%から18.3%へと減少しています。

 

こうした安定した雇用環境を反映し、消費者信頼感指数も現在115と過去最高の水準にあります。

 

これらのことは何を意味するか?と言えば、不自然な内需振興策などにより人工的な需要をでっちあげなくても自然体のままで消費は絶好調だということです。

 

また作為的な低金利も無いためにバブルがおこるリスクも低いです。