シカゴには偉大な商業の伝統があります。

中西部の交通の要所に位置していることからシカゴは昔から穀物取引の中心地として知られていますし、製造業、食品、印刷出版業などいろいろなビジネスが早くから発達しました。

中でもアメリカ最初のカタログ通販の会社、モンゴメリー・ウォードは同じシカゴのライバル、シアーズ・ローバックとともに消費・流通革命をもたらした存在として記憶されています。

そのシカゴがいま再び熱くなっています。

先ごろグーグルが創業して2年足らずのシカゴの会社、グルーポンに60億ドルという破格の買収提案をし、しかもグルーポンはそれをアッサリ蹴った事でアメリカ中をアッと言わせました。

一体、グルーポンって、何者?

なんで彼らはそんなに成功しているの?

そのグルーポンですが2008年の10月に「2スライスのピザを1スライスの値段で食べられますよ」というキャンペーンをしたのが最初の売上だったのだそうです。

それから約2年で今は年商10億ドルの規模に到達しています。この成長速度は歴史上最も速いペースなのだそうです。

同社の本社は歴史のいっぱい詰まったモンゴメリー・ウォードの旧本社、いわゆる「カタログ・ハウス」の中にあります。
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(出典:ウィキペディア)


その中では約3000人の若い社員たちが証券会社のトレーディング・ルームのような巨大な部屋の中で各都市の広告主達とキャンペーン戦略の打ち合わせに奔走しています。かれらの大半はエンジニアなどの技術系ではなく、営業系の人材です。

(その様子はこのChicago News Cooperativeの記事の写真を見て頂くと良いでしょう。)

グルーポンは美容院、レストラン、マッサージなどの地元の小さいお店がマーケティング・キャンペーンをする際のプロモーションを担当する会社です。

たとえば或る美容院が「通常50ドルのカットを半額の25ドルで提供します」という販売促進キャンペーンを計画したとします。

但し、条件として100人の消費者がこのディールに参加しなければ、そもそもキャンペーン自体が成立しないという目標を設けます。

すると消費者は自分でこのディールに予約すると同時に、規定の100人に達するようにTwitterやFacebookなどのソーシャル・メディアを通じて「あなたも、やらない?」と友達に声をかけて回るわけです。

そうやって100人に達したら(=このことをティッピング・ポイントと言います)はじめてこのキャンペーンが成立、消費者の口座からお金が引かれ、消費者はそのディールのクーポンを自宅のプリンターで印刷ないしはスマートフォンに記録させてお店で提示すれば良いわけです。

iPhoneに代表されるスマートフォン人気はグルーポン隆盛のひとつの原因となっています。

このキャンペーンで消費者は定価の半額でヘアカットをしてもらえます。美容院は一度に100人の新規顧客を獲得でき、そこで来店してくれたお客さんに気に入られれば常連顧客を増やすことができます。グルーポンは25ドルのクーポンの半額、つまり12.5ドルを売上として取ります。

従って美容院は50ドルのヘアカットを実際は12.5ドルで提供したことになるのです。

これは一見、美容院にとって損のように見えます。

でもお客が来なくて美容師さん達が手持無沙汰になっているくらいなら、原価を割ってもお客さんの髪を切っている方が将来のリピート客につながるので良いというソロバンもあるわけです。

なおグルーポンはネットの靴販売店Zapposと同様、消費者の満足ということを大変重視します。だから消費者が気に入らなければクーポンは使用後でも返却可能です。グルーポンが購入代金を全額払い戻しますし、そのため24時間のコールセンターを稼働させています。

この顧客重視の姿勢が狂信的なグルーポン信者を続々と輩出している秘密なのです。

現在、上の例のようなカタチでグルーポンのディールに参加した消費者(=サブスクライバー)は4400万人に上っています。

ウォールストリート・ジャーナルの記事によると或る地元のバレエ団は2338枚のディスカウント・クーポンを売って1シーズンの観客数を1日で達成しました。またGAPは1日で44万人がクーポンを購入したそうです。

このように現在のグルーポンの問題は「効果が出過ぎる」ことです。だから広告主としては発行するクーポン数に注意を払わないと「タダ働き」をする羽目に陥ります。

同社はひとつの町で最低でも一日一回のディールを催行する方針です。

現在、グルーポンは毎日650のディールを行っており、ティッピング(成立)率は95%です。

これまでに2600万クーポンが購入され、顧客が受けたディスカウント額の累計は8.5億ドルでした。

地元の商店にとってはこれまであまり効果的な広告媒体は存在しませんでした。

従来の方法は新聞広告やラジオなどですが、広告主の立場からはターゲットが絞れないしキャンペーンが失敗しても広告主は広告代を払わないといけませんでした。

これと対照的にグルーポンの場合、事業主が広告代を工面しなくても、クーポンを持参した顧客に大幅なディスカウントでサービスを提供するだけで良いのです。

だからキャンペーンを実施することの真のコストはマージン・プレッシャーだけです。

もうひとつの利点はキャンペーンを実施する商店の存在がバイラルなソーシャル・ネットワークを通じて理想的なターゲット顧客に自然に伝わる点です。

またティッピング・ポイントの導入はイーベイのオークションに似た、或る種のエキサイトメントが体験できます。

典型的なグルーポンのサブスクライバーは18から34歳の独身者で女性が多く年収は7万ドルという姿です。

現在は余りにも広告主からのリクエストが多く、グルーポンが広告主を選り好みしている状況になっています。別の言い方をすれば実施できているキャンペーンはリクエストの1割強のみです。

グルーポンは現在、全米375都市に展開しており、海外では36カ国に展開中です。

今は同社のキャンペーンがとても評判になっているので「グルーポンがウチの町にも来る」という噂が立つだけで地元商店街が騒然となるのだそうです。

グルーポンは2011年中にIPOされる予定です。