『アメリカ市場創世記 1920~1938年大恐慌時代のウォール街』はジョン・ブルックスの書いた本です。

ビジネスの世界を生き生きと描くノン・フィクション作家にはマイケル・ルイス、ケン・オーレッタ、ウォルター・アイザックソンなどが居るけれど、その元祖ともいうべきライターがジョン・ブルックスです。



そのジョン・ブルックスの著作の中でも本書ほどウォール街関係者に愛読されている本はありません。本書の原題は「Once in Golconda」です。実はパンローリングの方から本書のまえがきを書いて呉れとお願いされたので、書きました。以下はそのコピーです:

■推薦者の言葉――金融関係者必読の教養書
本書は、私がニューヨークの投資銀行に勤めていたとき、アメリカ人の上司から「必ず読んでおくように」と薦められた本のひとつである。
本書は一九二〇年のJPモルガン本店爆破テロ事件から始まり、一九二〇年代の強気相場、一九二九年の「暗黒の木曜日」と、それに続く大恐慌、フランクリン・D・ルーズベルト大統領のニューディール政策、そして一九三八年のリチャード・ホイットニー元ニューヨーク証券取引所社長の横領有罪判決までの歴史をカバーしている。
この期間は、マネーセンターとしてニューヨークが世界に君臨することを決定付けた重要な時期と重なっている。
そこではJPモルガンとクーン・ローブの競争、相場師ジェシー・リバモアの活躍、最初のニューヨーク連銀総裁でズッシリとした存在感を持っていたベンジャミン・ストロングの人柄について、一九二〇年代の株式ブームで大衆がウォール街へ向かう様子などが描かれている。
とりわけ一九二九年夏にニューヨーク市場が天井を打ってから、崩落へと向かう過程は、まるで脱線事故の様子をスローモーションの映画で観るような臨場感があり、しかもその描写は美しく、そして哀しい。
私は一九二九年の大暴落に関するたくさんの本を読んだが、その場に居合わせたかのような迫力で大暴落を追体験できるという点において、本書の右に出るものはない。 著者、ジョン・ブルックスは、無味乾燥になりやすい金融界の出来事を、登場人物のキャラクターを的確に読者に伝え、しかも興味深いエピソードを引用することで、生き生きと再現している。
フランクリン・D・ルーズベルト大統領が取り巻きの専門家たちの意見を無視して、本能的に正しい政策を察知し、独断と偏見で次々に「あっ」と驚くことを実行してしまうあたりの記述は、コミカルですらある。
そこには、「大恐慌からどう抜け出すか?」という具体的な方法論が、ルーズベルト大統領の取った行動を通じて描かれている。
ルーズベルト大統領は社会保障制度を初めて導入することで、それまで考えられていた「政府の果たすべき役割」の概念を根本から覆した。さらに証券を発行する際のルールを定めた一九三三年証券法、そして流通市場でのルールを定めた一九三四年証券取引所法などを通じて、今日の資本市場を律するルール作りを行った。
初代の証券取引委員会の委員長にジョン・F・ケネディの実父で、仕手筋師として勇名を馳せていたジョセフ・P・ケネディ・シニアを抜擢し、証券関係者を震え上がらせたエピソードも収録されている。
このように本書には、金融関係者なら常識として知っておくべき史実の多くがぎっしりと収まっているのである。
二〇一五年五月
マーケット・ハック(Market Hack)編集長兼コンテクスチュアル・インベストメンツLLC・マネージング・ディレクター 広瀬隆雄