トランプ大統領の口から飛び出したのは、中東情勢への極めて悲観的な見立てだった。11日、イランとの停戦協定について問われた同氏は、「信じられないほど弱く、極めて脆弱な状態だ。完全に生命維持装置に依存しており、医者いわく見込みは1%程度だろう」と語った。さらには中断されていた「解放プロジェクト」の再開すら仄めかしている。当然のごとく原油市場は反応し、ブレント原油は2.9%高の104.21ドル、米国産WTI原油も2.8%高の98.07ドルへと跳ね上がった。
本来なら強烈なリスクオフに傾いて然るべき局面だ。しかし、いまのウォール街を覆い尽くしているAI熱は、こうした中東のきな臭いヘッドラインを完全に黙殺している。
同日のニューヨーク市場で、S&P500指数は史上初めて7400台に乗せて引けた(前日比+0.19%の7412.84)。ダウ平均も49704.47へ上昇し、ナスダック総合指数も26274.13と最高値をあっさりと更新した。市場を牽引しているのは、依然として半導体とAI関連銘柄の狂騒である。
ヤルデニ・リサーチのエド・ヤルデニが、年末のS&P500のターゲットを7700から8250へ強気に引き上げたのは記憶に新しい。「企業業績の期待値がこれほどのスピードで上方修正されていく光景は過去に見たことがない」と彼が指摘する通り、相場は完全に業績主導のハイテンションな領域に突入している。クアルコムが8.42%急騰したのを筆頭に、マイクロン(6.5%高)、ウェスタンデジタル(7.46%高)、シーゲート(6.56%高)などメモリ関連の強さが際立つ。マグニフィセント・セブンの内訳を見ても、アップルやメタ、アルファベットなど5銘柄が軟調に推移するなかで、AIの心臓部を担うエヌビディア(1.97%高)とテスラ(3.89%高)は我が物顔で上昇している。
ベアードの投資ストラテジスト、ロス・メイフィールドの言葉を借りれば、「半導体とAIインフラはすでに独自の生命体と化した」のだ。どんな不穏なニュースが飛び交おうとも、強烈なFOMOに駆られた買いがすべてを飲み込んでいく。
この狂騒のニューヨークから目を転じると、アジア時間にはまた別の残酷なドラマが待っていた。
韓国市場である。12日のKOSPIは、前日比131.17ポイント高の7953.41で窓を開けてスタートし、そのまま一気に未踏の領域へと駆け上がった。史上初の「8000」まで残りわずか0.33ポイント。7999.67という歴史的な高値をつけた瞬間、相場の空気は一変する。
大台を目前にした達成感か、あるいは高値警戒感か。外国人投資家による容赦ない利益確定の売りが滝のように降り注ぎ、指数はあっけなくマイナス圏へと沈んでいった。午前11時15分の段階で前日比103.53ポイント(1.32%)安の7718.71。個人投資家が約3兆114億円、機関投資家が5437億円を買い向かい下値を支えようと必死の抵抗を見せたものの、3兆5986億円にも上る外国人の巨大な売り圧力を前にしては多勢に無勢だった。
時価総額上位の銘柄群も無傷ではない。韓国経済の屋台骨であるサムスン電子は1.75%安の28万500ウォンまで押し戻され、現代自動車(-0.93%)やLGエナジーソリューション(-5.24%)、サムスンバイオロジックス(-1.78%)、起亜(-3.84%)なども軒並み売り込まれている。サムスン電機(6.44%高)やHD現代重工業(3.50%高)のように一部強さを維持している銘柄もあるが、大勢は下落だ。
興味深いのは、この全面安の展開のなかでもSKハイニックスだけは1.86%高の191万5000ウォンと異彩を放っていたことだ。AIバブルの恩恵を直接受けるこの銘柄だけが、米国の熱狂とリンクして資金を集め続けている。
この流れは新興市場であるコスダックにも波及している。1214.90と高く始まった指数はKOSPIと同じ軌跡を辿って失速し、エコプロBM(-7.88%)をはじめとする主要な二次電池関連株の急落が重しとなって1186.09(-1.76%)まで沈んだ。
海の向こうでは地政学的な危機すら無視してAIインフラへと資金が一点集中し、一方の韓国市場では歴史的な大台を前にした外国資本の冷徹な引き際が浮き彫りになった。マクロの不安要素とミクロの業績期待が複雑に絡み合うなかで、市場はヘッドラインの行間を読み解くことを放棄し、極めてドライな独自の理屈だけで動き始めている。