AI領域に流れ込むマネーの勢いは止まらないのか、それともついに天井が見え始めたのか。足元の市場を俯瞰すると、極端に二極化した景色が浮かび上がってくる。
OpenAIの元研究者が立ち上げたスタートアップ、Periodic Labsの動向は、初期段階のAIサイエンス分野が依然として強烈な熱を帯びていることを雄弁に物語っている。物理学や化学のブレイクスルーをAIで推し進めようとする同社は現在、5億ドルの資金調達に向けて大詰めの交渉に入っている。特筆すべきはそのバリュエーションで、創業時から約6倍へと跳ね上がり、実に75億ドルに達する見込みだ。Andreessen Horowitzの元ゼネラルパートナーであるAnjney Midhaが設立した投資ビークル「AMP」が主導するこのラウンドは、関係者によればすでに大幅な応募超過(オーバーサブスクライブ)状態にある。それどころか、さらに高い評価額での追加ラウンド(ファストフォロー)の噂すら囁かれているほどだ。自動化されたラボを駆使して未知の発見をもたらす「AIサイエンティスト」というビジョンに対しては、いとも簡単に巨額の資本が群がる。この熱狂だけを見れば、AIブームはまだ序の口にすら思える。
しかし、視点をAIエコシステムの根幹を担う巨大インフラへと移すと、その様相は一変する。あのOpenAIが、Broadcomとのカスタムチップ提携に紐づく約180億ドルの資金調達でつまずいているという事実は、無尽蔵に思えたAI投資のナラティブに冷や水を浴びせるものだ。Nvidiaのハードウェアへの依存から脱却するため、10ギガワット級の独自設計チップを展開するという野心的な数年越しの計画。その初期トランシェの資金すら集めきれないという現状は、AIインフラの構築に必要な莫大なコストが、市場に存在する投資マネーの総量をついに追い越しつつあることを示唆している。
2025年10月にぶち上げられたBroadcomとの基本合意では、チップ、ネットワーク、電力、データセンターのすべてを網羅し、総額約5,000億ドルという天文学的なハードウェア投資が描かれていた。売上高そのものは急速にスケールしているものの、OpenAIは2029年までに累計約1,150億ドルのキャッシュバーンを起こすと予測されている。社内の成長目標未達が報じられたことで投資家の目はすでに厳しさを増しており、パートナー企業が自らのバランスシートを削ってプロジェクトを牽引せざるを得ない状況も生まれている。実際、OracleはOpenAIへの約3,000億ドル規模のコミットメントを裏打ちするために、昨年9月に180億ドルの社債発行に踏み切った。
マクロな視点で見れば、ハイパースケーラー各社による2026年の設備投資額(Capex)は6,000億から7,200億ドルにのぼると推計され、その約4分の3がAIインフラに注ぎ込まれる計算だ。これほどのマネーが動く中で、貸し手側は「投資回収が本当に予定通りに進むのか」という疑心暗鬼に陥りつつある。その警戒感は数字にも表れており、AIの象徴であるNvidiaでさえ、顧客の支払い遅延による売掛金が330億ドル規模にまで膨れ上がっていることを認めている。著名投資家のマイケル・バーリが、この売上計上の実態に疑惑の目を向けるのも無理はない。
あるネットユーザーが書き込んだ「ディズニーとOpenAIの偽の契約は、AIバブル全体を象徴している。BroadcomやAMD、1000億ドル規模のNvidiaとの取引があたかも確固たる事実であるかのように語られ続けているだけだ」という冷ややかな指摘は、巨額のディールがどこまで「実弾」を伴っているのかという核心を突いている。
OpenAIに残された手札は決して多くない。初期資金の条件を再構築するか、新たな貸し手を引っ張ってくるか、さもなければチップ展開の規模自体を縮小するか。彼らがどの道を選ぶにせよ、それは単なる一企業の資金繰りの問題には留まらない。2026年に向けた途方もない規模のAI向け設備投資が、ただの絵に描いた餅に終わるのか、それとも現実の物理インフラとして着地するのか。熱狂と現実の狭間で、AI産業は今、最もシビアなストレステストに直面している。